捨てられ従魔の保護施設！

第7章 寒い夜は一緒にいてあげる

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　サイモンは強い確信を持って言い切る。伝説級の魔獣と契約したら、呪われる、と。

　「…ど、どうして、それを」
　「おや、やはり知ってました？」
　「は？」

　ニヤリ、とサイモンの口角が上がる。

　「あはは。いや～、貴女ならば知っているんじゃないかと思ったんですよねぇ」
　「…は？」
　「カ・マ、かけちゃいました。あはははは」

　自身の思惑が上手くいったことに声をあげて笑うサイモンだが、無表情で一切の反応も見せずにただ睨み上げてくるツバキを確認すると一度肩をすくめ、それでも笑顔のまま種明かしをする。

　「貴女、従魔術師としての欲が無さ過ぎるんですよ」
　「どういうこと？」
　「駆け出しは駆け出しなりに、ベテランはベテランなりに、珍しかったり強力な力を持った魔獣をテイムして手に入れたいと思うのが従魔術師です。ランクを上げたい、高難易度のクエストをクリアしたい、名声が欲しい、地位が欲しい、自分だけの素晴らしい従魔が欲しい──そんな欲がこれっぽっちも貴女からは感じられない。それらの欲を全て一度に叶えられるだろう、不死鳥という伝説級の魔獣を手中に収めながらね」
　「…何度も言うけど、それは私のレベルではテイムに成功しないからで、」
　「例え力量差があり過ぎると分かっていても、伝説級の魔獣と遭遇すれば一度は挑戦してみるものです。少なくとも、今までの私の経験上はね」

　サイモンの魔術によって、不死鳥の荒ぶる炎の舌先は2人の肌には届かない。それでも熱気で生まれる空気の流れがツバキの黒髪を巻き上げて踊る。

　「ツバキさん、貴女─以前に伝説級の従魔と遭遇…いえ、誰かが伝説級の従魔のテイムに挑戦する場面に遭遇したことがあるのでは？だから不死鳥を前に手を出さない。そうも簡単に他人に譲渡しようとする」
　「…」
　「ふふ。だんまりですか？いいですよ。無言は肯定と受け止めます」

　真っ直ぐにサイモンを睨み上げていたツバキの瞳がほんの一瞬だけ揺れる。表情も変えず、一歩も退かず。
　それでもそのほんの一瞬の揺れに目敏く気づいたサイモンが前のめりにツバキへ近づく──ところで軽快な足音が場の張り詰めた空気を霧散させた。

　「師匠──！！保護施設うちに居るこたちの避難が終わ、り…ましたけど…？」
　『ツバキ！あの鳥どうする…よ？』
　「…」
　「…」
　『…』
　「…あの、なんかありました？」

　保護施設内に居る従魔達の避難を終え、達成感たっぷりにまるで飼い主の元へ喜び駆け戻ってきた犬の如く元気良く声を上げたラーハルトだったが、ツバキとサイモンの間に漂う重苦しい雰囲気を察すると2人の少し手前で足を止めた。
　同じくラーハルトと似た位置でブレーキをかけたサザンカは「どうした？」と心配そうな視線をツバキに投げかけるも下手に近づき面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだとあくまで無言を貫く。

　「おや。なんでもありませんよ？それよりも従魔達の避難お疲れ様です」
　「あ、いえ…」

　ラーハルトの問いにサイモンが答えると「ああ、そうだ」と軽いトーンでそのまま続ける。

　「ラーハルト君。きみ、不死鳥のテイムに挑戦してみません？」
　「え？」
　「ちょっと！？」

　ラーハルトへにこにこと近づいて行こうとするサイモンの服を乱暴に掴んで止めるとツバキは声を荒げる。

　「あんた、何考えて──！」
　「おや、そんなに必死になるということはやはりご存じで？」
　「っ！」

　その場に増した重々しい空気を察しておずおずとラーハルトが2人の間に割って入る。

　「あ、あの、なんかよく分かんないですけど…テイム挑戦しろってことなら、俺、しますよ？まぁ、どうせ失敗すると思いますけど…」
　「おお！いいですね。やはり従魔術師たるもの、どんな魔獣相手にもチャレンジ精神を持つことが大事ですからね」
　「あ、あはは…まぁ、挑戦するだけして終わりだと思いますけど…」
　「まあそう悲観しないで、ね？」

　ツバキはぐっと唇を噛む。
　にこにこと、いやにやにやと笑みを浮かべてラーハルトを不死鳥の正面へと誘導しようとするサイモンを睨みつけて。そして。

　「──っやめて！！！私の弟子を、呪わせないで！！！」

　必死の叫び声が響いた。