捨てられ従魔の保護施設!

KUZUME

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第7章 寒い夜は一緒にいてあげる

9.5 サイモンの独白

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 よく磨かれた窓から外を見る。広いその庭には、愛玩用として好まれる従魔から主に冒険者稼業をしている従魔術師に好まれる戦闘力の高い従魔まで、実に様々な種類の従魔がいる。
 熟練の従魔術師でもテイムに苦労するであろうグレートウルフが何頭もいるのも驚きだが、言うまでもなく伝説とされる不死鳥が和やかに人と戯れている光景には、もはや驚きを通り越して笑いが込み上げてくる。

 「(…ふぅむ。あれはテイム出来ませんねぇ)」

 先ほど不死鳥から向けられた鋭く重たい殺気を思い出して背筋に冷や汗が流れる。どうやらあの不死鳥に青年─ラーハルトは好かれているようだが、テイムしていない状態の従魔とあのように接するなんて危険以外の何ものでもない。聞けばあの青年も従魔術師としてのランクは低いというし、危機管理能力のない間抜けなのか、はたまた余程の度胸の持主なのか。
 2人以上の人間は居るが会話が一切ない為に静かな室内には、机についている保護施設の主が書類にペンを走らせている微かな音だけが先ほどから耳朶を叩く。
 ふと、その音に誘われるように視線は窓の外、赤い鳥へ遣ったまま、意識だけをペンを持つ女性へと移す。

 『…ッ』
 「…(おっと)」

 視線は向けずとも意識をちらりと寄越しただけなのに、彼女の足元に伏せっている彼女の従魔の耳がピクリと動く。気づかれたな、と内心舌を出して意識を彼女から外す。再度挑戦したところで無駄だなと早々に悟り、視線も意識も窓の外へ集中して思考だけを空中へ放り出す。

 「(うーん…目的は不死鳥だけでしたけど…彼女の足元を陣取っている彼も相当興味深いんですよねぇ)」

  グレートウルフではない。ましてこれまた伝説級のフェンリルでも。それどころか狼種ではなく厳密には犬だと宣うし。
 正直、重要案件だと分かっていつつも、たかだか伝説級の魔獣1匹の為にわざわざ始まりの街くんだりまで来るのは面倒以外の何ものでもなかったのだけれど。
 保護施設の主も、その従魔も、ついでに従魔術師としては恐ろしく平和ボケしているその弟子も中々どうして面白い。

 「…ふふ」

 思わず湧き上がる興奮に抑えられずに声をこぼすと彼女から話しかけられる。
 そのまま保護施設らしく従魔譲渡に必要だという書類にサインをぱっぱとしてから気分のままに彼女をみる。
 そして返ってくる馬鹿正直な彼女の態度に腹の底からうずうずと何かが這い上がってくる。まるで全く懐かない従魔を相手にどう攻略するか考えを巡らせている時の高揚感。
 馬鹿正直で感情を隠せないタイプだけど、その裏に何か隠してるなぁって態度が堪らない。

 「ああ、そうだ。私の一挙手一投足にびくびくしていらっしゃるのも面白いですが、ずっと今のように砕けた口調で話してくださって結構ですよ」
 「っ!」

 思いっきり顔を顰めた彼女を横目に、そのまま彼女を置いてさっさと庭へと足を進める。

 「あはは。彼女、すっごく気になるなぁ。どうせテイムなんて出来っこない不死鳥相手より、彼女の相手をしていたいものですね」

 さて、とりあえずは当初の目的の不死鳥だ。
 些事はとっとと片付けて、今1番気になることに集中したい。
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