15 / 90
第3章 流行にご注意を
3
しおりを挟む
「爆弾鼠ぃ?」
テイマーギルドから戻ってきたラーハルトは、仕入れたばっかりの話を庭に作った小さな畑を耕していたツバキへ話して聞かせる。
余談ではあるが、先日の農作業の依頼を受けて以降畑仕事を気に入ったらしく、ツバキは麦藁帽子と鋤を装備したミノ太郎と共に畑を作ってしまった。
「そうなんですよ。首都で流行っていて、この辺りでもそのペットブームがきているそうですよ」
「ペットって…」
ギルドへ行く為に一応こ綺麗な外出着を着ていたラーハルトは上着を脱ぐとブラシを持って庭を駆け回っていた炎馬を口笛で呼び寄せる。
ラーハルトの持つブラシに気がついた炎馬が、嬉しそうに駆け寄ってきたので燃える鬣に気をつけながらブラッシングをしていく。
「まぁ…イカつい名前のわりに可愛い見た目をしてますから、人気が出るのも分かりますけど」
爆弾鼠とは、主に森の奥に生息している小型の魔物である。名前のとおりその容姿は齧歯類のモルモットに似ており、性格も温厚で訓練も容易い魔物である。
ある一点特殊なのは、彼らの食糧であろう。彼らは口から食物を摂取することはなく、大気や自然物に宿る微々たる魔力を体に取り込むことで栄養補給をしているらしい。従魔術師以外の一般人がペットとして飼育する際には、日々の生活に問い入れられている生活魔道具から発せられている魔力を勝手に取り込むとかで、餌代が別途かからないのもブームを加速させている一端だろう。
「なんか今は、爆弾鼠のブリーダーなんているらしいですよ。その内うちにも譲渡の問い合わせがきそうな勢いで」
「あのねぇ、呑気に喋ってるけど、あんた爆弾鼠のあの特性について──」
「ちゃ、ちゃんと知ってますよ!爆弾鼠は、」
と、「すいませーん!」と玄関から大声で呼び掛けられ、2人は話を中断すると農具を置いたツバキが玄関へと向かう。
遠くから時折聞こえてくるツバキの怒りの説教を聞きながら、ラーハルトは炎馬のブラッシングを進める。
「それにしても、冒険小説か…。たまには読書もいいかもな」
『ヒヒーン!ブルルッ…』
「あっづ!!ごめんて!ちゃんと集中してブラッシングさせていただきます!」
『ブルッ』
鬣が燃え盛る炎であることを除けば、まるで優雅な貴族の飼い馬のようないでたちをした炎馬が「他のことを考えながらこの私のブラシをかけるな!」とでも言わんばかりに歯茎を剥き出して鼻を鳴らす。それに対して大袈裟に腰を曲げて謝りながら、炎馬相手に許しを乞うている自分の姿にラーハルトはなんとなくおかしくなる。
従魔術を介した直接の主従でなくとも、段々とここにいる魔物達と打ち解け始められているような気がして、ラーハルトはちょっと焦げてしまった指先を見てふっと頬を弛めた。
ここの生活は正直、従魔術師パーティに加入していた時よりも忙しく大変だけれど、毎日楽しいな、と。
♦︎
それから数日後、ラーハルトとツバキは荷物持ちとしてミノ太郎を連れて村の中心まで買い出しに出掛けていた。
そこでもやはりテイマーギルドでのあの女の子2人組のように爆弾鼠について聞いてくる人が多いことに、本当に流行しているんだなぁとちゃっかり保護施設のチラシを毎回渡しながらラーハルトがしみじみ感じていると、ふいに隣を歩いていたツバキがピタリと足を止める。
「ツバキ師匠?どうかしました?」
「…チッ。家で飼うんじゃなくて、連れて歩くことも流行ってるわけ?」
「え?」
ツバキに言われ周囲をよくよく見てみれば、確かに爆弾鼠を腕に直接抱いていたり、肩に乗せて歩いている人がちらほらいる。
「あー…、なるほど。俺も流行の元だっていう冒険小説を読み始めたんですけど、小説の中で主人公が爆弾鼠をいつも肩に乗せてる描写があるんですよ。それまで真似してるんですね」
「ちょっと良くない傾向だな…。よし。ラーハルト、ちょっとテイマーギルドに寄るぞ」
「え?ちょ、ちょっと!師匠!」
『ブモーッ!』
「ぶへっっ!!!」
くるりと勢いよく方向転換をしたツバキに倣ってミノ太郎もグルリ!と勢い良く体の向きを変える、と、先端にふさふさの尻尾がついた太い鞭のようなそれがラーハルトの顔面に激突する。
地面にうずくまり痛みに呻くラーハルトがしばらくして涙目で起き上がるともうその場にはツバキの背は見えず、痛みとは別の理由で滲んできた涙を飲み込んでラーハルトはダッシュでテイマーギルドまで向かった。
♦︎
「だから!ああいうのはまずいんだって!」
ダッシュで向かったテイマーギルドの受付では、ツバキがその場にいた受付係に向かって何かを叫びちょっとした人集りが出来ていた。
「ちょちょちょ、ツバキ師匠!一体どうしたんですか!?」
「ラーハルト!」
「ラーハルトさぁん!」
「えっ!?…なん、ですか!?」
人集りを割って中央へ進み出れば、2対の瞳がぎろりとラーハルトを射抜く。
片方は苛立ったツバキで、もう片方は縁があるのかまたもやいつぞやの受付係のお姉さんだった。お姉さんから縋るような目線を受けたラーハルトは、とりあえず今にもくってかかりそうなツバキをどうどうと宥める。
「師匠、俺にも説明してください!さっきの通りで何があったっていうんですか?」
「だから、爆弾鼠!ラーハルトも見たでしょ!?ああいう飼い方はまずい!」
「ああいうって…肩に乗せるってことですか?」
「っていうか、飼われてる爆弾鼠の様子を見るに、多分きちんと爆弾鼠の知識もなく飼ってる気がするんだって!」
ざわざわとにわかに騒ぎがギルド中に広がっていく。どうしたどうした、と奥から他のギルドスタッフも出てき始めたところで──
ドッガァァァァアアアン!!!!!
「!?!?」
「なんだ!?」
「広場のほうだ!」
「おい!怪我人がいるぞ!!」
「医者と警邏隊の奴ら呼んでこい!!」
「きゃああああ!!」
突然、爆発音が響き辺りは一気に騒然となった。
テイマーギルドから戻ってきたラーハルトは、仕入れたばっかりの話を庭に作った小さな畑を耕していたツバキへ話して聞かせる。
余談ではあるが、先日の農作業の依頼を受けて以降畑仕事を気に入ったらしく、ツバキは麦藁帽子と鋤を装備したミノ太郎と共に畑を作ってしまった。
「そうなんですよ。首都で流行っていて、この辺りでもそのペットブームがきているそうですよ」
「ペットって…」
ギルドへ行く為に一応こ綺麗な外出着を着ていたラーハルトは上着を脱ぐとブラシを持って庭を駆け回っていた炎馬を口笛で呼び寄せる。
ラーハルトの持つブラシに気がついた炎馬が、嬉しそうに駆け寄ってきたので燃える鬣に気をつけながらブラッシングをしていく。
「まぁ…イカつい名前のわりに可愛い見た目をしてますから、人気が出るのも分かりますけど」
爆弾鼠とは、主に森の奥に生息している小型の魔物である。名前のとおりその容姿は齧歯類のモルモットに似ており、性格も温厚で訓練も容易い魔物である。
ある一点特殊なのは、彼らの食糧であろう。彼らは口から食物を摂取することはなく、大気や自然物に宿る微々たる魔力を体に取り込むことで栄養補給をしているらしい。従魔術師以外の一般人がペットとして飼育する際には、日々の生活に問い入れられている生活魔道具から発せられている魔力を勝手に取り込むとかで、餌代が別途かからないのもブームを加速させている一端だろう。
「なんか今は、爆弾鼠のブリーダーなんているらしいですよ。その内うちにも譲渡の問い合わせがきそうな勢いで」
「あのねぇ、呑気に喋ってるけど、あんた爆弾鼠のあの特性について──」
「ちゃ、ちゃんと知ってますよ!爆弾鼠は、」
と、「すいませーん!」と玄関から大声で呼び掛けられ、2人は話を中断すると農具を置いたツバキが玄関へと向かう。
遠くから時折聞こえてくるツバキの怒りの説教を聞きながら、ラーハルトは炎馬のブラッシングを進める。
「それにしても、冒険小説か…。たまには読書もいいかもな」
『ヒヒーン!ブルルッ…』
「あっづ!!ごめんて!ちゃんと集中してブラッシングさせていただきます!」
『ブルッ』
鬣が燃え盛る炎であることを除けば、まるで優雅な貴族の飼い馬のようないでたちをした炎馬が「他のことを考えながらこの私のブラシをかけるな!」とでも言わんばかりに歯茎を剥き出して鼻を鳴らす。それに対して大袈裟に腰を曲げて謝りながら、炎馬相手に許しを乞うている自分の姿にラーハルトはなんとなくおかしくなる。
従魔術を介した直接の主従でなくとも、段々とここにいる魔物達と打ち解け始められているような気がして、ラーハルトはちょっと焦げてしまった指先を見てふっと頬を弛めた。
ここの生活は正直、従魔術師パーティに加入していた時よりも忙しく大変だけれど、毎日楽しいな、と。
♦︎
それから数日後、ラーハルトとツバキは荷物持ちとしてミノ太郎を連れて村の中心まで買い出しに出掛けていた。
そこでもやはりテイマーギルドでのあの女の子2人組のように爆弾鼠について聞いてくる人が多いことに、本当に流行しているんだなぁとちゃっかり保護施設のチラシを毎回渡しながらラーハルトがしみじみ感じていると、ふいに隣を歩いていたツバキがピタリと足を止める。
「ツバキ師匠?どうかしました?」
「…チッ。家で飼うんじゃなくて、連れて歩くことも流行ってるわけ?」
「え?」
ツバキに言われ周囲をよくよく見てみれば、確かに爆弾鼠を腕に直接抱いていたり、肩に乗せて歩いている人がちらほらいる。
「あー…、なるほど。俺も流行の元だっていう冒険小説を読み始めたんですけど、小説の中で主人公が爆弾鼠をいつも肩に乗せてる描写があるんですよ。それまで真似してるんですね」
「ちょっと良くない傾向だな…。よし。ラーハルト、ちょっとテイマーギルドに寄るぞ」
「え?ちょ、ちょっと!師匠!」
『ブモーッ!』
「ぶへっっ!!!」
くるりと勢いよく方向転換をしたツバキに倣ってミノ太郎もグルリ!と勢い良く体の向きを変える、と、先端にふさふさの尻尾がついた太い鞭のようなそれがラーハルトの顔面に激突する。
地面にうずくまり痛みに呻くラーハルトがしばらくして涙目で起き上がるともうその場にはツバキの背は見えず、痛みとは別の理由で滲んできた涙を飲み込んでラーハルトはダッシュでテイマーギルドまで向かった。
♦︎
「だから!ああいうのはまずいんだって!」
ダッシュで向かったテイマーギルドの受付では、ツバキがその場にいた受付係に向かって何かを叫びちょっとした人集りが出来ていた。
「ちょちょちょ、ツバキ師匠!一体どうしたんですか!?」
「ラーハルト!」
「ラーハルトさぁん!」
「えっ!?…なん、ですか!?」
人集りを割って中央へ進み出れば、2対の瞳がぎろりとラーハルトを射抜く。
片方は苛立ったツバキで、もう片方は縁があるのかまたもやいつぞやの受付係のお姉さんだった。お姉さんから縋るような目線を受けたラーハルトは、とりあえず今にもくってかかりそうなツバキをどうどうと宥める。
「師匠、俺にも説明してください!さっきの通りで何があったっていうんですか?」
「だから、爆弾鼠!ラーハルトも見たでしょ!?ああいう飼い方はまずい!」
「ああいうって…肩に乗せるってことですか?」
「っていうか、飼われてる爆弾鼠の様子を見るに、多分きちんと爆弾鼠の知識もなく飼ってる気がするんだって!」
ざわざわとにわかに騒ぎがギルド中に広がっていく。どうしたどうした、と奥から他のギルドスタッフも出てき始めたところで──
ドッガァァァァアアアン!!!!!
「!?!?」
「なんだ!?」
「広場のほうだ!」
「おい!怪我人がいるぞ!!」
「医者と警邏隊の奴ら呼んでこい!!」
「きゃああああ!!」
突然、爆発音が響き辺りは一気に騒然となった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,234
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる