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間話1 ツバキのネーミングセンスについて
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ツバキの自宅、兼保護施設の朝は早い。日が昇りきる前に人間2人はのそのそと居心地の良い布団から這い出し、目ヤニも付けたまま従魔達の餌の準備に取り掛かる。そしてある程度準備が完了すると、今度は糞尿の掃除をする為に塵取りや箒、その他諸々の道具を引っ張り出してくるのだが、この頃になると起き出してきた室内飼いの従魔達が掃除道具にジャレつき出してくるので作業時間が倍かかる。
「ちょっと!アンコ!キナコ!そこ転がってるとゴミと同化…ヨモギィィ!言ってるそばからー!」
特に好奇心旺盛な毛玉猫達は楽しそうにみゃあみゃあ鳴きながらツバキの箒に埃と共にジャレつき転がりまわっている。その姿はもはや毛玉猫というより埃猫、と形容したほうがしっくりくるようだ。
ちなみにアンコ、キナコ、ヨモギというのはツバキの故郷の食べ物の名称らしいが、その色が見事に3匹の毛玉猫達の体毛と一致しているようで、気付けばツバキだけが使っていたあだ名がすっかり定着してしまった。
「ふわぁ~あぁぁ……」
大きく口を開けて欠伸を連発しながら、毛玉猫達に翻弄されるツバキの姿を見ていたラーハルトは眠気を覚ますように一度パン!と両頬を自身の掌で打つと、包丁を握り直しまな板の上に置かれた骨付きの肉の塊をぶつ切りにしていく。
庭にいる肉食の魔物達用の朝ごはんだが、先日ツバキとサザンカが退治した大嵐猪の肉を少し分けて貰えた為、食費が浮いて万歳三唱だった。
『あ~~~……朝っぱらから肉の塊きっつ…俺にはそこの骨だけくれ』
「あ、おはようサザンカ。収入があったからテイマーギルドで買ってきた魔物フードもあるけど、それは?」
『ん~…いや、俺は骨だけでいい。また腹が減ったらそん時に貰うわ』
「わかった」
こちらもまだ眠たそうな目をしたサザンカが台所までやってくると鼻をヒクヒクと動かしてから大嵐猪の骨を所望する。一際立派な骨を選んでやりサザンカに渡すと、サザンカはその場で伏せてその骨にむしゃぶりつく。サザンカのその姿に、ラーハルトは内心でひっそりと思う。
「(…やっぱり犬なんだな)」
無意識だろうか。尻尾まで振り出したサザンカに更に近所のわんちゃん感を感じたラーハルトだったがふと思う。果たしてサザンカは一体なんという種類の魔物なのだろうか、と。こうしているとそこらにいる普通の犬と同じようにも見えるが、先日の大嵐猪の件といい、その能力値は目を見張るものがあるだろう。首都の従魔術学校を卒業し、この国に生息する魔物の知識はおおよそ頭に詰め込んでいると自負しているラーハルトだが、しっくり当てはまる魔物はいない。思い当たるのはグレートウルフやフェンリルだが、ツバキ曰く狼型ですらないと言うし、それでは一体なんだろう…とうんうん悩み出したラーハルトの手が完全に止まる。
「おーい!ラーハルト!庭の子達が殺気立ってきてるけど、準備出来たー!?」
「うーん……ん!?あっ、ちょっと待ってくださーい!」
思考の海に沈んでしまったラーハルトを、すっかり掃除を終えまた別の仕事に取り掛かっていたツバキの呼びかけが引き戻す。
ラーハルトは慌てて残りの肉を切り終えると、それを大きなバケツに入れて急いで庭へと飛び出る。
草食や雑食の魔物達はまだしも、肉食の魔物相手には十分に注意を払いつつ餌やりをすると、極彩鳥の小屋から産みたての無精卵を取りに行っていたツバキも縁側から家の中へと戻ってきた。
ツバキの頭の上には、いつの間にかそこが定位置なのか三つ目烏の雛が乗っている。
「さー、やっと人間の朝ごはんだー」
『ピーイッ!ピー!』
「あ、ピー助の朝ごはんってあげた?」
『ソイツ、さっき台所で勝手に肉の切れ端つまんでたぞ』
「ほんと?じゃいっか。よし!メシだメシだ」
「ていうか、ソイツに名前付けたんですね…」
「ピー助、ピー助かぁ…」と1人呟きながら、口一杯に朝ごはんを頬張っているツバキとその頭上でピーピー鳴いている雛を見て、ラーハルトは隣に陣取っているサザンカにこそっと耳打ちをする。
「あの…毛玉猫達といい、ミノ太郎といい、ピー助といい…ツバキ師匠のネーミングセンスって…」
『言うな。人は誰しも得手不得手があるもんだろうが』
「…ちなみにサザンカは、」
『俺の名付け親はツバキじゃねえ』
「あはは…」
自分が無事、魔物をテイム出来た暁には三日三晩は悩んでそれは素晴らしい名前をつけようと決めていたラーハルトだったが、嬉しそうにピーピー鳴いている雛が視界に入り、まぁ魔物が喜ぶ名前が1番か、とほんのちょっぴり思い直したのだった。
「(でも俺は間違っても、色が黒いからクロ、とかにはしない。絶対)」
「ちょっと!アンコ!キナコ!そこ転がってるとゴミと同化…ヨモギィィ!言ってるそばからー!」
特に好奇心旺盛な毛玉猫達は楽しそうにみゃあみゃあ鳴きながらツバキの箒に埃と共にジャレつき転がりまわっている。その姿はもはや毛玉猫というより埃猫、と形容したほうがしっくりくるようだ。
ちなみにアンコ、キナコ、ヨモギというのはツバキの故郷の食べ物の名称らしいが、その色が見事に3匹の毛玉猫達の体毛と一致しているようで、気付けばツバキだけが使っていたあだ名がすっかり定着してしまった。
「ふわぁ~あぁぁ……」
大きく口を開けて欠伸を連発しながら、毛玉猫達に翻弄されるツバキの姿を見ていたラーハルトは眠気を覚ますように一度パン!と両頬を自身の掌で打つと、包丁を握り直しまな板の上に置かれた骨付きの肉の塊をぶつ切りにしていく。
庭にいる肉食の魔物達用の朝ごはんだが、先日ツバキとサザンカが退治した大嵐猪の肉を少し分けて貰えた為、食費が浮いて万歳三唱だった。
『あ~~~……朝っぱらから肉の塊きっつ…俺にはそこの骨だけくれ』
「あ、おはようサザンカ。収入があったからテイマーギルドで買ってきた魔物フードもあるけど、それは?」
『ん~…いや、俺は骨だけでいい。また腹が減ったらそん時に貰うわ』
「わかった」
こちらもまだ眠たそうな目をしたサザンカが台所までやってくると鼻をヒクヒクと動かしてから大嵐猪の骨を所望する。一際立派な骨を選んでやりサザンカに渡すと、サザンカはその場で伏せてその骨にむしゃぶりつく。サザンカのその姿に、ラーハルトは内心でひっそりと思う。
「(…やっぱり犬なんだな)」
無意識だろうか。尻尾まで振り出したサザンカに更に近所のわんちゃん感を感じたラーハルトだったがふと思う。果たしてサザンカは一体なんという種類の魔物なのだろうか、と。こうしているとそこらにいる普通の犬と同じようにも見えるが、先日の大嵐猪の件といい、その能力値は目を見張るものがあるだろう。首都の従魔術学校を卒業し、この国に生息する魔物の知識はおおよそ頭に詰め込んでいると自負しているラーハルトだが、しっくり当てはまる魔物はいない。思い当たるのはグレートウルフやフェンリルだが、ツバキ曰く狼型ですらないと言うし、それでは一体なんだろう…とうんうん悩み出したラーハルトの手が完全に止まる。
「おーい!ラーハルト!庭の子達が殺気立ってきてるけど、準備出来たー!?」
「うーん……ん!?あっ、ちょっと待ってくださーい!」
思考の海に沈んでしまったラーハルトを、すっかり掃除を終えまた別の仕事に取り掛かっていたツバキの呼びかけが引き戻す。
ラーハルトは慌てて残りの肉を切り終えると、それを大きなバケツに入れて急いで庭へと飛び出る。
草食や雑食の魔物達はまだしも、肉食の魔物相手には十分に注意を払いつつ餌やりをすると、極彩鳥の小屋から産みたての無精卵を取りに行っていたツバキも縁側から家の中へと戻ってきた。
ツバキの頭の上には、いつの間にかそこが定位置なのか三つ目烏の雛が乗っている。
「さー、やっと人間の朝ごはんだー」
『ピーイッ!ピー!』
「あ、ピー助の朝ごはんってあげた?」
『ソイツ、さっき台所で勝手に肉の切れ端つまんでたぞ』
「ほんと?じゃいっか。よし!メシだメシだ」
「ていうか、ソイツに名前付けたんですね…」
「ピー助、ピー助かぁ…」と1人呟きながら、口一杯に朝ごはんを頬張っているツバキとその頭上でピーピー鳴いている雛を見て、ラーハルトは隣に陣取っているサザンカにこそっと耳打ちをする。
「あの…毛玉猫達といい、ミノ太郎といい、ピー助といい…ツバキ師匠のネーミングセンスって…」
『言うな。人は誰しも得手不得手があるもんだろうが』
「…ちなみにサザンカは、」
『俺の名付け親はツバキじゃねえ』
「あはは…」
自分が無事、魔物をテイム出来た暁には三日三晩は悩んでそれは素晴らしい名前をつけようと決めていたラーハルトだったが、嬉しそうにピーピー鳴いている雛が視界に入り、まぁ魔物が喜ぶ名前が1番か、とほんのちょっぴり思い直したのだった。
「(でも俺は間違っても、色が黒いからクロ、とかにはしない。絶対)」
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