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第2章 保護活動資金を手に入れろ!
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ツバキの家に、正式にワケあり従魔の保護施設の看板を出してからひと月が経った。
ラーハルトは最終的に泣き落としでツバキに弟子入りという名の押しかけ居候として落ち着き、慌ただしくも楽しい毎日を過ごしていた。
「──先立つものが!足りない!」
楽しい筈の毎日に、ツバキの雄叫びが響き渡る。
「…さ、先立つもの、ですか?」
キーン…と響く耳鳴りいパチパチと瞬きをして、庭で炎馬のブラッシングをしていたラーハルトが、器用に頭の上に三つ目烏の雛を乗せたまま干草を掻き集めるツバキを見やる。
「テイマーギルドに、従魔の保護施設やりますって言ってからさ…正直、こんなに従魔を預けにやってくる従魔術師がいるとは思わなかった!完っ全に想定外なんだけど!ルルビ村以外からも来てるよねこれ!?」
「う、うーん…正直、職業にしている従魔術師はとにかく大量にテイムしますから…。実際問題、首都の方でも従魔術師が勝手にそこかしこに飼育しきれなくなった従魔を放置してるらしくて、結構な問題になっているみたいですよ」
実際に首都の魔術学校で従魔術を学び、一時とはいえ従魔術師の冒険者パーティに加入し、問題となっている現状を目にしてきたラーハルトの表情は苦々しく歪む。
「引き取りたいって依頼も来るには来るけど…圧倒的に預けられる魔物の数が多い…純粋に食費がやばい…」
うーん、うーんと眉間に皺を寄せ頭を抱えたツバキが嫌々口を開く。と、同時にツバキの頭上の三つ目烏の雛がタイミング良くピ!と鳴いた。まるで問題解決の電球が灯ったように。
「仕方ない。ここは本業やって活動資金を得よう」
「本業?」
コテン、と成人男性がやるには随分と可愛らしく小首を傾げたラーハルトに思わずツバキはツッコむ。
「あんたも私も、冒険者ギルドに登録している冒険者でしょうが!依頼!ギルドの依頼受けるわよ!!」
「…あっ」
側から見るとまるでコントのような2人のやり取りに、家の縁側で寝そべりうつらうつらと心地良い微睡みを楽しんでいたサザンカが呆れたように「わふぅ」と欠伸をひとつこぼした。
♦︎
まだ昼前だが、ガヤガヤと騒がしく熱気に溢れた冒険者ギルド内で、依頼書でびっしり埋まった掲示板を前にツバキはぴょんぴょんと一所懸命跳ねていた。
「み、見えない…!」
成人しているとはいえ、この国の女性の平均身長を大きく下回るツバキには掲示板の前の人垣が字の如くまるで大きな生垣のように見えた。これはもう良い条件の依頼は諦めて、人垣が消えてから掲示板を見るか…と諦めかけていたところで、ツバキの脇の下にひょっと大きな掌が差し込まれる。
「失礼、ツバキ師匠。これで見えます?」
「…」
擬音にするならば、ぷらーん、だろうか。ツバキのことを後ろから脇の下に手を差し込み持ち上げたラーハルトが悪気なくにこにこと問う。
「…あんたさ、まだ私のこと子供か何かだと思ってる?」
「あっ!?あ、すみません…!つい…!」
ツバキのその一言に、彼女の年齢を思い出し、今現在の行為がとても成人した女性相手にする行為ではないことに思い至りラーハルトは慌ててツバキを下ろす。
余談だが、ツバキのことを自分よりもずっと幼い少女だと思っていたラーハルトが、実はツバキの方がラーハルトよりもいくつか歳上だと知った時の驚愕ぶりは大層笑いを誘うものだった、とはサザンカの言である。
「はぁ…。小さいし童顔だけどね、私はもう成人したレディなんだからね!突然持ち上げたりしないで!」
「すっ、すみません!師匠!」
「…私の変わりに掲示板を見てきてくれたら許す」
「はいっ!今すぐっ!!」
人垣の中に消えていったラーハルトを見送ってから、ツバキはギルド内に設置されている椅子によいしょ、と腰掛ける。座ると気持ち床から浮く自身のつま先に、ツバキは思わず舌打ちをこぼす。
「師匠ーっ!これとか、これなんてどうですか!?」
若干、先ほどよりも服のヨレたラーハルトが数枚の依頼書を手にツバキの元まで駆け戻ってくる。その姿がまるで訓練中のグレートウルフに見えて、ツバキは尖らせていた唇を緩ませふっと笑う。
「んー、どれどれ…」
が、ラーハルトの持ってきた依頼書を見て緩んでいたツバキの頬が重力に従い下がる。
「あんたね…ゴブリンの村丸ごと討伐だとか、飛龍の捕獲だとか…!私達に達成出来るわけないでしょうがっ!?!?」
ギルド内にツバキの雷が落ちた。
ラーハルトは最終的に泣き落としでツバキに弟子入りという名の押しかけ居候として落ち着き、慌ただしくも楽しい毎日を過ごしていた。
「──先立つものが!足りない!」
楽しい筈の毎日に、ツバキの雄叫びが響き渡る。
「…さ、先立つもの、ですか?」
キーン…と響く耳鳴りいパチパチと瞬きをして、庭で炎馬のブラッシングをしていたラーハルトが、器用に頭の上に三つ目烏の雛を乗せたまま干草を掻き集めるツバキを見やる。
「テイマーギルドに、従魔の保護施設やりますって言ってからさ…正直、こんなに従魔を預けにやってくる従魔術師がいるとは思わなかった!完っ全に想定外なんだけど!ルルビ村以外からも来てるよねこれ!?」
「う、うーん…正直、職業にしている従魔術師はとにかく大量にテイムしますから…。実際問題、首都の方でも従魔術師が勝手にそこかしこに飼育しきれなくなった従魔を放置してるらしくて、結構な問題になっているみたいですよ」
実際に首都の魔術学校で従魔術を学び、一時とはいえ従魔術師の冒険者パーティに加入し、問題となっている現状を目にしてきたラーハルトの表情は苦々しく歪む。
「引き取りたいって依頼も来るには来るけど…圧倒的に預けられる魔物の数が多い…純粋に食費がやばい…」
うーん、うーんと眉間に皺を寄せ頭を抱えたツバキが嫌々口を開く。と、同時にツバキの頭上の三つ目烏の雛がタイミング良くピ!と鳴いた。まるで問題解決の電球が灯ったように。
「仕方ない。ここは本業やって活動資金を得よう」
「本業?」
コテン、と成人男性がやるには随分と可愛らしく小首を傾げたラーハルトに思わずツバキはツッコむ。
「あんたも私も、冒険者ギルドに登録している冒険者でしょうが!依頼!ギルドの依頼受けるわよ!!」
「…あっ」
側から見るとまるでコントのような2人のやり取りに、家の縁側で寝そべりうつらうつらと心地良い微睡みを楽しんでいたサザンカが呆れたように「わふぅ」と欠伸をひとつこぼした。
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まだ昼前だが、ガヤガヤと騒がしく熱気に溢れた冒険者ギルド内で、依頼書でびっしり埋まった掲示板を前にツバキはぴょんぴょんと一所懸命跳ねていた。
「み、見えない…!」
成人しているとはいえ、この国の女性の平均身長を大きく下回るツバキには掲示板の前の人垣が字の如くまるで大きな生垣のように見えた。これはもう良い条件の依頼は諦めて、人垣が消えてから掲示板を見るか…と諦めかけていたところで、ツバキの脇の下にひょっと大きな掌が差し込まれる。
「失礼、ツバキ師匠。これで見えます?」
「…」
擬音にするならば、ぷらーん、だろうか。ツバキのことを後ろから脇の下に手を差し込み持ち上げたラーハルトが悪気なくにこにこと問う。
「…あんたさ、まだ私のこと子供か何かだと思ってる?」
「あっ!?あ、すみません…!つい…!」
ツバキのその一言に、彼女の年齢を思い出し、今現在の行為がとても成人した女性相手にする行為ではないことに思い至りラーハルトは慌ててツバキを下ろす。
余談だが、ツバキのことを自分よりもずっと幼い少女だと思っていたラーハルトが、実はツバキの方がラーハルトよりもいくつか歳上だと知った時の驚愕ぶりは大層笑いを誘うものだった、とはサザンカの言である。
「はぁ…。小さいし童顔だけどね、私はもう成人したレディなんだからね!突然持ち上げたりしないで!」
「すっ、すみません!師匠!」
「…私の変わりに掲示板を見てきてくれたら許す」
「はいっ!今すぐっ!!」
人垣の中に消えていったラーハルトを見送ってから、ツバキはギルド内に設置されている椅子によいしょ、と腰掛ける。座ると気持ち床から浮く自身のつま先に、ツバキは思わず舌打ちをこぼす。
「師匠ーっ!これとか、これなんてどうですか!?」
若干、先ほどよりも服のヨレたラーハルトが数枚の依頼書を手にツバキの元まで駆け戻ってくる。その姿がまるで訓練中のグレートウルフに見えて、ツバキは尖らせていた唇を緩ませふっと笑う。
「んー、どれどれ…」
が、ラーハルトの持ってきた依頼書を見て緩んでいたツバキの頬が重力に従い下がる。
「あんたね…ゴブリンの村丸ごと討伐だとか、飛龍の捕獲だとか…!私達に達成出来るわけないでしょうがっ!?!?」
ギルド内にツバキの雷が落ちた。
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