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プロローグ
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昔、荒ぶる獣ありけり。
人を喰い、国を喰い、国を荒らしけり。
1人の巫女が現れ、摩訶不思議な祈りを唱えたり 「鎮まり給え」と。
~創世記、序章より抜粋~
♦︎
クリノリン王国の南の田舎地方。年間を通して穏やかな気候と豊かな土壌で知られるルルビ村は、冒険者達の間では別名〝はじまりの村〟と呼ばれていた。
ルルビ村には、広大な薬草畑がそこかしこにある為に初級冒険者向けの薬草採取のクエストは各種途切れる事なくあり、また村の周辺に出没する魔物も初級冒険者でも充分討伐可能なレベルばかりであるからだった。
さて、そんな麗かな陽射しのさす午後のルルビ村に、悲痛な叫び声が響いた。
「あ~~~!どうしよぉ~~!?」
見るからに冒険者です、といった装備をしている青年が道端で頭を抱えている。村の人々はチラチラと視線をやってはいるが、冒険者ある所に騒動ありと言われる世の中。誰もが特に気にかける事もなく通り過ぎて行った。
「うっ、うっ…まじ、どうすれば…」
「…あの?どうかしました?」
いよいよ涙をこぼし始めた冒険者の青年に、見かねた近くの商店の店主がそっと声をかける。
「ゔっ!あの~!!俺、俺、従魔術師なんですけど、コイツのことっ!養いきれなくてぇ~…!!!」
「うわ、ちょ、ちょっと…!落ち着いて…!」
優しく他人に声をかけられて感極まったのか、青年がおいおいと本格的に泣き出す。
あからさまに「うわ!面倒な奴に声をかけてしまった!」と表情に出す店主の眼前に、ズズイ!と何かが差し出される。
『みゃんっ!』
一言で表すならば、小さな丸い毛玉。毛玉が青年の両掌の上でダマになってみゃあみゃあと鳴いている。
「…?…あっ、毛玉猫。貴方の従魔ですか?」
「うぐっ…!そうなんすけどぉ、気づいたら、こいつらめっっっちゃ増えてて…!もう飼いきれなくってぇぇえええ!うわぁぁぁん!!助けて下さい~!!」
「えええええ!?突然そんな事言われても…!私、従魔術師でもなんでもないですし…!」
「うわああああん!」
「あっ!テイマーギルド!従魔術師専門のテイマーギルドは行かれました!?村の中心に、冒険者ギルドと隣り合ってあるんですけど、そちらに相談は…」
「もうっ、じまじだ~~~!!でもっ、どうにもっ、できっ、ないってぇぇぇぇぇぇぇ」
「ええぇぇぇ…」
主人である青年の泣き声に合わせて、毛玉猫もみゃぁぁぁん、みゃぁぁぁんと鳴き声でユニゾンしている。なんともカオスな状況に、一度声をかけてしまった手前、このまま放置も出来ない…と困った店主の脳裏に、ある人物の姿が思い浮かぶ。
「あっ!あそこなら、どうにかしてくれるかも…」
「…えっ!?!?どうにか出来るんですか!?!?」
足元にしがみ付いてくる青年の勢いに、店主もぎょっとして叫ぶように返す。
「きゃあっ!ちょっと!む、村の東の端にちょっと変わった家が建ってますから!!そこに行ってみて下さい!!」
「そこに行けばなんとかなるんですねっ!?!?」
「いいから早く離してください!!!」
『みゃ~んっ』
なかば蹴り出されるようにして青年は村の東の端へ続く道を歩く。腕に増え過ぎてしまった毛玉猫達を抱え、見れば分かる!と言われたちょっと変わった家を目指して。
そうして暫くのどかな砂利道をてくてくと歩いていれば、なるほど、ちょっと変わった家が建っているのが目に入った。この辺りの家は大体が石造りの二階建て以上なのに対して、その家は木材らしきもので出来ており、一階しかないようでのっぺりとした印象を与える家だった。
「あの、もしも~し?商店の人にここ紹介されたんですけど~…」
低い塀でしっかり覆われたその家の周りをうろうろと回ってみる。と、塀の中、ベンチのような物に座って寛いでいる人間が見えたので、青年は思い切って声をかける。
「あ、あのっ!すみません!!」
「……ん?」
青年に気づいたのか、座っていた女性が顔を上げた。なにか用?とじっと見つめてくる女性に、青年は笑顔で話しかける。
「あの!商店の人に紹介されました!こいつら、引き取って下さい!!」
正しく言えば、商店の店主も正式に紹介したわけでもないし、ましてや青年の飼いきれなくなった従魔達を引き取るだなんて一言も言っていないが、歩いている内に青年の中で都合良く修正されたのだろう。
これで問題解決!と笑顔で毛玉猫達を差し出した青年はしかし、すぐに般若のような表情を浮かべた女性によって特大の雷の直撃を受ける。
「だぁからうちは従魔引き取り便利屋じゃなぁぁぁぁい!!!」
人を喰い、国を喰い、国を荒らしけり。
1人の巫女が現れ、摩訶不思議な祈りを唱えたり 「鎮まり給え」と。
~創世記、序章より抜粋~
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クリノリン王国の南の田舎地方。年間を通して穏やかな気候と豊かな土壌で知られるルルビ村は、冒険者達の間では別名〝はじまりの村〟と呼ばれていた。
ルルビ村には、広大な薬草畑がそこかしこにある為に初級冒険者向けの薬草採取のクエストは各種途切れる事なくあり、また村の周辺に出没する魔物も初級冒険者でも充分討伐可能なレベルばかりであるからだった。
さて、そんな麗かな陽射しのさす午後のルルビ村に、悲痛な叫び声が響いた。
「あ~~~!どうしよぉ~~!?」
見るからに冒険者です、といった装備をしている青年が道端で頭を抱えている。村の人々はチラチラと視線をやってはいるが、冒険者ある所に騒動ありと言われる世の中。誰もが特に気にかける事もなく通り過ぎて行った。
「うっ、うっ…まじ、どうすれば…」
「…あの?どうかしました?」
いよいよ涙をこぼし始めた冒険者の青年に、見かねた近くの商店の店主がそっと声をかける。
「ゔっ!あの~!!俺、俺、従魔術師なんですけど、コイツのことっ!養いきれなくてぇ~…!!!」
「うわ、ちょ、ちょっと…!落ち着いて…!」
優しく他人に声をかけられて感極まったのか、青年がおいおいと本格的に泣き出す。
あからさまに「うわ!面倒な奴に声をかけてしまった!」と表情に出す店主の眼前に、ズズイ!と何かが差し出される。
『みゃんっ!』
一言で表すならば、小さな丸い毛玉。毛玉が青年の両掌の上でダマになってみゃあみゃあと鳴いている。
「…?…あっ、毛玉猫。貴方の従魔ですか?」
「うぐっ…!そうなんすけどぉ、気づいたら、こいつらめっっっちゃ増えてて…!もう飼いきれなくってぇぇえええ!うわぁぁぁん!!助けて下さい~!!」
「えええええ!?突然そんな事言われても…!私、従魔術師でもなんでもないですし…!」
「うわああああん!」
「あっ!テイマーギルド!従魔術師専門のテイマーギルドは行かれました!?村の中心に、冒険者ギルドと隣り合ってあるんですけど、そちらに相談は…」
「もうっ、じまじだ~~~!!でもっ、どうにもっ、できっ、ないってぇぇぇぇぇぇぇ」
「ええぇぇぇ…」
主人である青年の泣き声に合わせて、毛玉猫もみゃぁぁぁん、みゃぁぁぁんと鳴き声でユニゾンしている。なんともカオスな状況に、一度声をかけてしまった手前、このまま放置も出来ない…と困った店主の脳裏に、ある人物の姿が思い浮かぶ。
「あっ!あそこなら、どうにかしてくれるかも…」
「…えっ!?!?どうにか出来るんですか!?!?」
足元にしがみ付いてくる青年の勢いに、店主もぎょっとして叫ぶように返す。
「きゃあっ!ちょっと!む、村の東の端にちょっと変わった家が建ってますから!!そこに行ってみて下さい!!」
「そこに行けばなんとかなるんですねっ!?!?」
「いいから早く離してください!!!」
『みゃ~んっ』
なかば蹴り出されるようにして青年は村の東の端へ続く道を歩く。腕に増え過ぎてしまった毛玉猫達を抱え、見れば分かる!と言われたちょっと変わった家を目指して。
そうして暫くのどかな砂利道をてくてくと歩いていれば、なるほど、ちょっと変わった家が建っているのが目に入った。この辺りの家は大体が石造りの二階建て以上なのに対して、その家は木材らしきもので出来ており、一階しかないようでのっぺりとした印象を与える家だった。
「あの、もしも~し?商店の人にここ紹介されたんですけど~…」
低い塀でしっかり覆われたその家の周りをうろうろと回ってみる。と、塀の中、ベンチのような物に座って寛いでいる人間が見えたので、青年は思い切って声をかける。
「あ、あのっ!すみません!!」
「……ん?」
青年に気づいたのか、座っていた女性が顔を上げた。なにか用?とじっと見つめてくる女性に、青年は笑顔で話しかける。
「あの!商店の人に紹介されました!こいつら、引き取って下さい!!」
正しく言えば、商店の店主も正式に紹介したわけでもないし、ましてや青年の飼いきれなくなった従魔達を引き取るだなんて一言も言っていないが、歩いている内に青年の中で都合良く修正されたのだろう。
これで問題解決!と笑顔で毛玉猫達を差し出した青年はしかし、すぐに般若のような表情を浮かべた女性によって特大の雷の直撃を受ける。
「だぁからうちは従魔引き取り便利屋じゃなぁぁぁぁい!!!」
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