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プロローグは突然に
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「きゃっ……あだっ!!」
一瞬の浮遊感の後、臀部に走った凄まじい衝撃と痛みにララはその場に尻餅をついたまま震えた。
「んぐうぅぅぅ……っ」
じ~んと響く痛みを逃す為に呻き声を上げつつぎゅっと目を閉じて耐える。そうして痛みが少し治まってきた頃、ふとララはうずくまっているその場所が愛着のある自宅の少々かさついた板張りの床ではなく、毛足の柔らかい上等な絨毯である事に気づいて首を傾げた。
「あ、あれ?」
眠りの淵から引き上げるほどに燦々と降っていた陽の光はどこへやら、重たいカーテンの引かれた窓からは一筋の光も入らず、壁の数カ所に設置されている蝋燭の頼りない灯りが微かに照らす室内には見覚えがない。ララはごくりと生唾を飲み込んで口を開いた。
「…あの、あのー?誰か、居ませんかー!?」
空気の振動に微かに蝋燭に灯る炎が揺れるだけで、重苦しい室内からは何の返事も返ってこない。常にふらふらと放浪を繰り返すトラブルメーカーである母のおかげで、ある程度のトラブルには耐性がついた気でいたララだが、見知らぬ場所・暗闇・静寂という現在の状況につつ…と冷や汗がこめかみに伝うのを感じた。
と、何の反応も無かったその空間で、トンと何か重量のあるものが絨毯の上に乗った音をララの耳が拾った。ララは素早くすぐそばの壁の窪みに設置されていた燭台を手に取ると、それを前方へ突き出して出来る限り大声を発した。
「誰っ!?」
ハッハッ…と自身の発する荒い呼吸音だけがする空間だが、先ほどまでとは違い、何かが暗闇の中で息を潜めている。
ララは震える脚を叱咤して、一歩、前に出る。手にした燭台のほのかな灯りがララが前に進むごとに前方の暗闇を散らしていく。と、暗闇の中で更に濃い暗闇が動いた。否、それは暗闇ではなく、大きな黒い一匹の塊だった。ぎらぎらと輝く二つの瞳が、じっとララを見つめて──
「っぎゃ───!!!」
「ガルゥアアアア!!!」
「ひいいいいいい!?!?」
その塊が何なのか、脳が理解するよりも早く反射神経が命じるがままにララは手にしていた燭台を放り投げていた。ララの悲鳴と、獣の咆哮と、そして放られた燭台が硬い壁に当たる耳障りな音が広い空間に反響する。
「わたっ、わたっ、わたし……っっ犬は無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「だぁれが犬だ小娘──!!」
「!?しゃしゃしゃしゃべっ、しゃべっ、しゃべっ…!?」
暗闇の中で息を殺していた獣が大きく跳躍すると、すっかり腰を抜かしてしまったララの小さな体を蛇がとぐろを巻くようにして小山を思わせるような逞しい体躯で覆う。
グルグルと喉の奥から絞り出すようにして黒い獣が唸り声を吐き出しながら、鋭い牙を剥き出しにしてララの眼前にその少し湿った鼻先を突きつける。
「お前がララだなぁ…!恨むなら…あのクソ魔女を恨むんだなぁあ!!」
「ひ──っ!?!?」
びりびりと空気が振動するのが分かるほどに、黒い獣はララの目の前で大咆哮を上げる。
ふっ、と。まるで蝋燭の火を一瞬で吹き消すように。恐怖と混乱が限界に達したララは意識を手放した。
一瞬の浮遊感の後、臀部に走った凄まじい衝撃と痛みにララはその場に尻餅をついたまま震えた。
「んぐうぅぅぅ……っ」
じ~んと響く痛みを逃す為に呻き声を上げつつぎゅっと目を閉じて耐える。そうして痛みが少し治まってきた頃、ふとララはうずくまっているその場所が愛着のある自宅の少々かさついた板張りの床ではなく、毛足の柔らかい上等な絨毯である事に気づいて首を傾げた。
「あ、あれ?」
眠りの淵から引き上げるほどに燦々と降っていた陽の光はどこへやら、重たいカーテンの引かれた窓からは一筋の光も入らず、壁の数カ所に設置されている蝋燭の頼りない灯りが微かに照らす室内には見覚えがない。ララはごくりと生唾を飲み込んで口を開いた。
「…あの、あのー?誰か、居ませんかー!?」
空気の振動に微かに蝋燭に灯る炎が揺れるだけで、重苦しい室内からは何の返事も返ってこない。常にふらふらと放浪を繰り返すトラブルメーカーである母のおかげで、ある程度のトラブルには耐性がついた気でいたララだが、見知らぬ場所・暗闇・静寂という現在の状況につつ…と冷や汗がこめかみに伝うのを感じた。
と、何の反応も無かったその空間で、トンと何か重量のあるものが絨毯の上に乗った音をララの耳が拾った。ララは素早くすぐそばの壁の窪みに設置されていた燭台を手に取ると、それを前方へ突き出して出来る限り大声を発した。
「誰っ!?」
ハッハッ…と自身の発する荒い呼吸音だけがする空間だが、先ほどまでとは違い、何かが暗闇の中で息を潜めている。
ララは震える脚を叱咤して、一歩、前に出る。手にした燭台のほのかな灯りがララが前に進むごとに前方の暗闇を散らしていく。と、暗闇の中で更に濃い暗闇が動いた。否、それは暗闇ではなく、大きな黒い一匹の塊だった。ぎらぎらと輝く二つの瞳が、じっとララを見つめて──
「っぎゃ───!!!」
「ガルゥアアアア!!!」
「ひいいいいいい!?!?」
その塊が何なのか、脳が理解するよりも早く反射神経が命じるがままにララは手にしていた燭台を放り投げていた。ララの悲鳴と、獣の咆哮と、そして放られた燭台が硬い壁に当たる耳障りな音が広い空間に反響する。
「わたっ、わたっ、わたし……っっ犬は無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「だぁれが犬だ小娘──!!」
「!?しゃしゃしゃしゃべっ、しゃべっ、しゃべっ…!?」
暗闇の中で息を殺していた獣が大きく跳躍すると、すっかり腰を抜かしてしまったララの小さな体を蛇がとぐろを巻くようにして小山を思わせるような逞しい体躯で覆う。
グルグルと喉の奥から絞り出すようにして黒い獣が唸り声を吐き出しながら、鋭い牙を剥き出しにしてララの眼前にその少し湿った鼻先を突きつける。
「お前がララだなぁ…!恨むなら…あのクソ魔女を恨むんだなぁあ!!」
「ひ──っ!?!?」
びりびりと空気が振動するのが分かるほどに、黒い獣はララの目の前で大咆哮を上げる。
ふっ、と。まるで蝋燭の火を一瞬で吹き消すように。恐怖と混乱が限界に達したララは意識を手放した。
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