2 / 17
プロローグは突然に
2
しおりを挟む
「きゃっ……あだっ!!」
一瞬の浮遊感の後、臀部に走った凄まじい衝撃と痛みにララはその場に尻餅をついたまま震えた。
「んぐうぅぅぅ……っ」
じ~んと響く痛みを逃す為に呻き声を上げつつぎゅっと目を閉じて耐える。そうして痛みが少し治まってきた頃、ふとララはうずくまっているその場所が愛着のある自宅の少々かさついた板張りの床ではなく、毛足の柔らかい上等な絨毯である事に気づいて首を傾げた。
「あ、あれ?」
眠りの淵から引き上げるほどに燦々と降っていた陽の光はどこへやら、重たいカーテンの引かれた窓からは一筋の光も入らず、壁の数カ所に設置されている蝋燭の頼りない灯りが微かに照らす室内には見覚えがない。ララはごくりと生唾を飲み込んで口を開いた。
「…あの、あのー?誰か、居ませんかー!?」
空気の振動に微かに蝋燭に灯る炎が揺れるだけで、重苦しい室内からは何の返事も返ってこない。常にふらふらと放浪を繰り返すトラブルメーカーである母のおかげで、ある程度のトラブルには耐性がついた気でいたララだが、見知らぬ場所・暗闇・静寂という現在の状況につつ…と冷や汗がこめかみに伝うのを感じた。
と、何の反応も無かったその空間で、トンと何か重量のあるものが絨毯の上に乗った音をララの耳が拾った。ララは素早くすぐそばの壁の窪みに設置されていた燭台を手に取ると、それを前方へ突き出して出来る限り大声を発した。
「誰っ!?」
ハッハッ…と自身の発する荒い呼吸音だけがする空間だが、先ほどまでとは違い、何かが暗闇の中で息を潜めている。
ララは震える脚を叱咤して、一歩、前に出る。手にした燭台のほのかな灯りがララが前に進むごとに前方の暗闇を散らしていく。と、暗闇の中で更に濃い暗闇が動いた。否、それは暗闇ではなく、大きな黒い一匹の塊だった。ぎらぎらと輝く二つの瞳が、じっとララを見つめて──
「っぎゃ───!!!」
「ガルゥアアアア!!!」
「ひいいいいいい!?!?」
その塊が何なのか、脳が理解するよりも早く反射神経が命じるがままにララは手にしていた燭台を放り投げていた。ララの悲鳴と、獣の咆哮と、そして放られた燭台が硬い壁に当たる耳障りな音が広い空間に反響する。
「わたっ、わたっ、わたし……っっ犬は無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「だぁれが犬だ小娘──!!」
「!?しゃしゃしゃしゃべっ、しゃべっ、しゃべっ…!?」
暗闇の中で息を殺していた獣が大きく跳躍すると、すっかり腰を抜かしてしまったララの小さな体を蛇がとぐろを巻くようにして小山を思わせるような逞しい体躯で覆う。
グルグルと喉の奥から絞り出すようにして黒い獣が唸り声を吐き出しながら、鋭い牙を剥き出しにしてララの眼前にその少し湿った鼻先を突きつける。
「お前がララだなぁ…!恨むなら…あのクソ魔女を恨むんだなぁあ!!」
「ひ──っ!?!?」
びりびりと空気が振動するのが分かるほどに、黒い獣はララの目の前で大咆哮を上げる。
ふっ、と。まるで蝋燭の火を一瞬で吹き消すように。恐怖と混乱が限界に達したララは意識を手放した。
一瞬の浮遊感の後、臀部に走った凄まじい衝撃と痛みにララはその場に尻餅をついたまま震えた。
「んぐうぅぅぅ……っ」
じ~んと響く痛みを逃す為に呻き声を上げつつぎゅっと目を閉じて耐える。そうして痛みが少し治まってきた頃、ふとララはうずくまっているその場所が愛着のある自宅の少々かさついた板張りの床ではなく、毛足の柔らかい上等な絨毯である事に気づいて首を傾げた。
「あ、あれ?」
眠りの淵から引き上げるほどに燦々と降っていた陽の光はどこへやら、重たいカーテンの引かれた窓からは一筋の光も入らず、壁の数カ所に設置されている蝋燭の頼りない灯りが微かに照らす室内には見覚えがない。ララはごくりと生唾を飲み込んで口を開いた。
「…あの、あのー?誰か、居ませんかー!?」
空気の振動に微かに蝋燭に灯る炎が揺れるだけで、重苦しい室内からは何の返事も返ってこない。常にふらふらと放浪を繰り返すトラブルメーカーである母のおかげで、ある程度のトラブルには耐性がついた気でいたララだが、見知らぬ場所・暗闇・静寂という現在の状況につつ…と冷や汗がこめかみに伝うのを感じた。
と、何の反応も無かったその空間で、トンと何か重量のあるものが絨毯の上に乗った音をララの耳が拾った。ララは素早くすぐそばの壁の窪みに設置されていた燭台を手に取ると、それを前方へ突き出して出来る限り大声を発した。
「誰っ!?」
ハッハッ…と自身の発する荒い呼吸音だけがする空間だが、先ほどまでとは違い、何かが暗闇の中で息を潜めている。
ララは震える脚を叱咤して、一歩、前に出る。手にした燭台のほのかな灯りがララが前に進むごとに前方の暗闇を散らしていく。と、暗闇の中で更に濃い暗闇が動いた。否、それは暗闇ではなく、大きな黒い一匹の塊だった。ぎらぎらと輝く二つの瞳が、じっとララを見つめて──
「っぎゃ───!!!」
「ガルゥアアアア!!!」
「ひいいいいいい!?!?」
その塊が何なのか、脳が理解するよりも早く反射神経が命じるがままにララは手にしていた燭台を放り投げていた。ララの悲鳴と、獣の咆哮と、そして放られた燭台が硬い壁に当たる耳障りな音が広い空間に反響する。
「わたっ、わたっ、わたし……っっ犬は無理ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「だぁれが犬だ小娘──!!」
「!?しゃしゃしゃしゃべっ、しゃべっ、しゃべっ…!?」
暗闇の中で息を殺していた獣が大きく跳躍すると、すっかり腰を抜かしてしまったララの小さな体を蛇がとぐろを巻くようにして小山を思わせるような逞しい体躯で覆う。
グルグルと喉の奥から絞り出すようにして黒い獣が唸り声を吐き出しながら、鋭い牙を剥き出しにしてララの眼前にその少し湿った鼻先を突きつける。
「お前がララだなぁ…!恨むなら…あのクソ魔女を恨むんだなぁあ!!」
「ひ──っ!?!?」
びりびりと空気が振動するのが分かるほどに、黒い獣はララの目の前で大咆哮を上げる。
ふっ、と。まるで蝋燭の火を一瞬で吹き消すように。恐怖と混乱が限界に達したララは意識を手放した。
5
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
我慢してきた令嬢は、はっちゃける事にしたようです。
和威
恋愛
侯爵令嬢ミリア(15)はギルベルト伯爵(24)と結婚しました。ただ、この伯爵……別館に愛人囲ってて私に構ってる暇は無いそうです。本館で好きに過ごして良いらしいので、はっちゃけようかな?って感じの話です。1話1500~2000字程です。お気に入り登録5000人突破です!有り難うございまーす!2度見しました(笑)
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる