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第一章

52、帰れる場所

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「はっ、馬鹿馬鹿しい!王族を抜けてまでしたい事が神に一生を捧げることなのか!」

カーティスが目を眇めユーリアシェを見下ろす。
冷酷ともいえるその瞳にユーリアシェは一歩後ずさる。
それすら許さないと両腕を掴み引き戻した。
ユーリアシェは初めてカーティスに恐怖を感じる。

「国王の前で言ったはずだ。お前を娶ると。冗談だとでも思ったのか。」

目を逸らせない程の強さで見据えられ小さく震えながらユーリアシェは反論する。

「私がスードにいれば王家やアラミス公爵家が何をするかわからない!あの襲撃でわかったでしょう。今度は軽傷で済むわけない!」

高貴な血を持つだけのお荷物をスードが背負う必要はない。
大巫女になれば二度と俗世には戻れないが命の保証はある。

「ユリィは自分が約立たずのお荷物だって思ってんのか?
辺境や王都間の街道を整備し国内間の流通を円滑にして、連絡網も発展させ国力を上げたのに?」

「王女の権力があったからよ!今は何もない。
権力がなければ何一つ出来ない。」

努力もしたが王族の権威があったからこそ皆が従ってくれた。
平民としてやっていけると思っていたが、贅沢に慣れた体は数日の野営をしただけで肌が赤くなり手は手網を握り続けて豆が潰れた。

情けなくて誰にも言えなかった。

前世での経験でやっていけると思っていた自分が恥ずかしかった。

「ユリィがそう思ってるなら次期辺境伯夫人の地位をやる。
そしてスードを一緒に守ってくれ。」


背けていた顔をカーティスに向け力なく微笑む。

「兄様に犠牲になって欲しくないの。」

その言葉に苛立ったようにユーリアシェを抱きしめた。

「犠牲じゃない!
ユリィを愛してるからだ!
お前を手に出来るなら何でもする。
ずっと兄じゃなく、男としてユリィの前に立ちたかったんだ。」

ユーリアシェは目を見開いて固まった。
国王との話し合いでも言っていたが、その場を収める為だと思っていたし、兄妹としての情で助けてくれていると思っていた。

「兄様、兄様のそれは私を妹として、その·····」

前世、今世でまともな恋愛をした経験がなく、何をどう聞けばいいのかわからない。

「妹のように思っていたのは最初だけだ。
美しく危うくなっていくユリィに女性として惹かれていったが、お前には婚約者がいたし初恋にしがみついてたろ。
だから、兄としての立場を崩す訳にはいかなかった。」

ランセルドの事はぼかしていたのに知られていたのが恥ずかしく顔が赤くなる。

「今はハルク伯爵の事はふっ切れてんだろ。
少しづつでいい。俺を兄としてじゃなく男として見てくれ。」

切ない表情でユーリアシェに希う。
今度はカーティスの言葉に体温が上昇した。

家族のように愛していたのに、いきなり恋愛相手にできるだろうか。

この胸の高鳴りはどんな感情からなのか。

ユーリアシェは混乱しながらも言わなければいけない大事な事があった。

「兄様、私はユーリアシェだけど兄様の知ってるユリィじゃないの。」

どう説明しようか迷っているとカーティスが頬にそっと触れる。

「お前の何かが変わっても根幹は一緒だ。今のお前も俺の愛しいユリィだよ。」

慈しむように頬を撫でる手に更に体温が上がり真っ赤になる。

「約立たずだと思うなら、それを自分の力で覆せばいい。
もし疲れて逃げたいなら一緒に逃げてやる。
少し位の贅沢な暮らしならさせてやれるから。」

服の上から腕を優しく摩られ赤くなっているのがばれていた。

「迷っているなら俺を選べ。神になんぞ絶対に渡さねえからな。」

痛いくらいの抱擁に躊躇いながらもカーティスの背に手を回した。
不安も恐怖もあるがこの温かさを離したくない。

「ティス兄様の傍にいたい。恋かわからないけど、兄様が大事なの。」

今はこの思いが正直な気持ちだ。
カーティスは嬉しそうに笑い顔をどんどん近づける。

(えっ?)

気づいたら唇が重なっていた。
驚いて叫びそうになり口を開いたら悲鳴ごと舌に絡め取られた。
上顎を舐め舌を擦り絡められユーリアシェは息も出来ずに口腔内を蹂躙される。

背筋がゾクゾクして体から力が抜けたところでやっと唇が離れた。

唾液が口端から零れそれを舐められる。
ユーリアシェは羞恥と少しの熱が体内で渦巻き泣きそうになった。

「さて、朝飯食って本邸に帰るか。」

カーティスはそんなユーリアシェを意に介さず横抱きにして上機嫌で邸内に入っていく。

カーティスの腕の中で真っ赤な顔を埋め、スードに帰れる・・・のが嬉しかった。

「ティス兄様、私に帰れる場所を作ってくれてありがとう。」

ずっと迷い子のようだったユーリアシェ。
王城で愛を求め続けるだけでそこから動こうとしなかった。
飛鳥になっても王城から逃げる事しか考えなれなかった。

もう逃げなくてもいい。
カーティスと一緒なら立ち向かえる。

この気持ちはいつか恋に変わるとユーリアシェは確信した。





☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

一旦ここで区切ります。
処女作で右往左往しながら書いてました。
読んでくださった皆様に感謝です(*´ω`人)

この後番外編を入れようと思います。
よろしくお願いします (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)




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