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第一章
50、解放(3)
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剣を交えること無く一太刀で息の根を止めていく。
続くスードの兵も次々に近衛騎士を屠っていった。
3倍の数の差を感じさせない圧倒的な強さで敵を倒していく。
「王女だけでも殺せっ!」
自分たちの不利を悟り指揮官が怒鳴った。
その声で敵がユーリアシェに狙いを定めて弓を構える。
「姫下がりますよ。」
隣で守ってくれていた男性がユーリアシェの手網を引き、王都に引き返す。
「えっ?」
王都戻ったところで挟み撃ちになるだけだ。
カーティス達も置いていけない。
「私に剣を!」
手網を引いた男性に戦う意志を伝えると鼻で笑い飛ばされた。
「姫に剣を持たせても扱いきれまい。気が強いのはよいが実力を過信されますな。」
腹立たしいが確かに真剣を扱ったことはない。
だが自分のせいでスードの兵が傷つくのを見ているだけなのは耐えられない。
「今姫がせねばならぬのは、足手まといにならぬよう我等の指示に従う事だ。
そしてこの悔しさを覚えておかれよ。」
忘れるものか。
何の肩書きもないのに守られるだけの己を。
その為に傷つく人がいる事を。
噛み締めた唇から血が流れ、無力な自分を心に刻みつける。
王都に向かって走ってすぐに、前方から蹄の音が聞こえてきた。
ユーリアシェ達は馬を止め戦闘態勢に入る。
鎧を着ているが青に獅子が描かれた旗は近衛騎士団のものだ。
やはり挟撃を狙ったのかと、近づいてくる騎兵に手綱を握りしめる手に力が入る。
だが彼らはユーリアシェ達を素通りし、カーティスらが戦っている中に入り、同士討ちを始める。
ユーリアシェは訳が分からずボーっと見ていると隣の男性が背中を押してきた。
「戻りましょう。すぐに決着がつく。」
ユーリアシェは我に返りカーティスの元に戻る。
「ティス兄様!」
カーティスを見つけて思わず名を呼んだ。
敵の司令官の手足を縛り猿轡を噛ませてユーリアシェの方へ走ってくる。
「怪我はないか?」
案じるように切れた唇を撫でる手に泣きたくなるほど安堵した。
「ティス兄様は怪我はない?」
乱れた髪を梳いて整えながら聞く。
服についた大量の血がどちらのものかわからない。
「全部返り血だ。俺がやられる訳ないだろ。」
スードでも一二を争う強者だ。
知っていても不安があった。
「あの~。イチャつくのは後にしてくれませんかね。」
見詰めあっていたのに気付いたユーリアシェは急いで離れる。
カーティスは舌打ちして後から来た近衛騎士団の責任者を呼んだ。
「近衛騎士団第二師団を預かっております、レガリオ・ドゥ・ソマリと申します。」
ユーリアシェの前で膝を折り騎士の礼をする。
「ソマリ卿、奴らの素性は?」
カーティスがレガリオに聞く。
レガリオは捕縛された指揮官を見て頭を垂れて答えた。
「指揮官はノリス・ドゥ・ウィグノー伯爵。
アラミス公爵夫人の従兄弟にあたります。もちろん近衛騎士ではありません。」
「やはりな。
この件を国王陛下が上手く交渉に使えるよう祈ってやるよ。」
カーティスの言葉にレガリオは答えず礼を言うにとどめた。
「協力に感謝致します。
では我らはこれにて失礼致します。」
立ち上がりユーリアシェを一瞥したが、特に何も言わず捕縛された者達と共に王都に戻って行った。
「ティス兄様。こうなるのわかってたの?
そして近衛騎士団と連携してたの?」
ユーリアシェは騎士団が去っていくのを見ながらカーティスに問いかける。
「ああ、謁見の後すぐに出られなかったからな。アラミスの息子に時間を与えたせいで、陛下と共闘する羽目になった。」
自分が呑気に寝ていたせいでカーティスやスードの皆に負担を強いた。
俯いたユーリアシェの頭をポンポンと叩く。
「第二王女や王妃が部屋に来た時点でこうなるってわかってたんだよ。
アラミス公爵家の力も削いでおかないとまずかったしな。
それにこっちの被害は軽傷者だけで済んだ。」
ユーリアシェは周りを見渡した。
確かに重症の者はいなかった。
それでもこの戦いが自分のせいでおこり、自分は守られるだけだった。
「皆様、ありがとうございます。」
深く頭をさげながら皆を守れる武器が欲しいと強く思った。
続くスードの兵も次々に近衛騎士を屠っていった。
3倍の数の差を感じさせない圧倒的な強さで敵を倒していく。
「王女だけでも殺せっ!」
自分たちの不利を悟り指揮官が怒鳴った。
その声で敵がユーリアシェに狙いを定めて弓を構える。
「姫下がりますよ。」
隣で守ってくれていた男性がユーリアシェの手網を引き、王都に引き返す。
「えっ?」
王都戻ったところで挟み撃ちになるだけだ。
カーティス達も置いていけない。
「私に剣を!」
手網を引いた男性に戦う意志を伝えると鼻で笑い飛ばされた。
「姫に剣を持たせても扱いきれまい。気が強いのはよいが実力を過信されますな。」
腹立たしいが確かに真剣を扱ったことはない。
だが自分のせいでスードの兵が傷つくのを見ているだけなのは耐えられない。
「今姫がせねばならぬのは、足手まといにならぬよう我等の指示に従う事だ。
そしてこの悔しさを覚えておかれよ。」
忘れるものか。
何の肩書きもないのに守られるだけの己を。
その為に傷つく人がいる事を。
噛み締めた唇から血が流れ、無力な自分を心に刻みつける。
王都に向かって走ってすぐに、前方から蹄の音が聞こえてきた。
ユーリアシェ達は馬を止め戦闘態勢に入る。
鎧を着ているが青に獅子が描かれた旗は近衛騎士団のものだ。
やはり挟撃を狙ったのかと、近づいてくる騎兵に手綱を握りしめる手に力が入る。
だが彼らはユーリアシェ達を素通りし、カーティスらが戦っている中に入り、同士討ちを始める。
ユーリアシェは訳が分からずボーっと見ていると隣の男性が背中を押してきた。
「戻りましょう。すぐに決着がつく。」
ユーリアシェは我に返りカーティスの元に戻る。
「ティス兄様!」
カーティスを見つけて思わず名を呼んだ。
敵の司令官の手足を縛り猿轡を噛ませてユーリアシェの方へ走ってくる。
「怪我はないか?」
案じるように切れた唇を撫でる手に泣きたくなるほど安堵した。
「ティス兄様は怪我はない?」
乱れた髪を梳いて整えながら聞く。
服についた大量の血がどちらのものかわからない。
「全部返り血だ。俺がやられる訳ないだろ。」
スードでも一二を争う強者だ。
知っていても不安があった。
「あの~。イチャつくのは後にしてくれませんかね。」
見詰めあっていたのに気付いたユーリアシェは急いで離れる。
カーティスは舌打ちして後から来た近衛騎士団の責任者を呼んだ。
「近衛騎士団第二師団を預かっております、レガリオ・ドゥ・ソマリと申します。」
ユーリアシェの前で膝を折り騎士の礼をする。
「ソマリ卿、奴らの素性は?」
カーティスがレガリオに聞く。
レガリオは捕縛された指揮官を見て頭を垂れて答えた。
「指揮官はノリス・ドゥ・ウィグノー伯爵。
アラミス公爵夫人の従兄弟にあたります。もちろん近衛騎士ではありません。」
「やはりな。
この件を国王陛下が上手く交渉に使えるよう祈ってやるよ。」
カーティスの言葉にレガリオは答えず礼を言うにとどめた。
「協力に感謝致します。
では我らはこれにて失礼致します。」
立ち上がりユーリアシェを一瞥したが、特に何も言わず捕縛された者達と共に王都に戻って行った。
「ティス兄様。こうなるのわかってたの?
そして近衛騎士団と連携してたの?」
ユーリアシェは騎士団が去っていくのを見ながらカーティスに問いかける。
「ああ、謁見の後すぐに出られなかったからな。アラミスの息子に時間を与えたせいで、陛下と共闘する羽目になった。」
自分が呑気に寝ていたせいでカーティスやスードの皆に負担を強いた。
俯いたユーリアシェの頭をポンポンと叩く。
「第二王女や王妃が部屋に来た時点でこうなるってわかってたんだよ。
アラミス公爵家の力も削いでおかないとまずかったしな。
それにこっちの被害は軽傷者だけで済んだ。」
ユーリアシェは周りを見渡した。
確かに重症の者はいなかった。
それでもこの戦いが自分のせいでおこり、自分は守られるだけだった。
「皆様、ありがとうございます。」
深く頭をさげながら皆を守れる武器が欲しいと強く思った。
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