上 下
44 / 63
第一章

43、国王の吐露

しおりを挟む
「ユーリアシェ様、お待ちください。」

カーティスは後ろからユーリアシェの手を取る。
マドルクはカーティスの行動に彼を睨みつける。

「王命に逆らえばいくら東伯の息子といえど只ではすまんぞ。」

脅すようにカーティスを睨むが、カーティスは意に介さず肩をすくめる。

「いえ、王家の醜態を外国にまで晒さない為に止めたのですよ。我等は王家の忠臣・・ですから。」

飄々と言い返す。国王もユーリアシェも意味がわからなかった。

「なに?」

「実は先程の除籍届と今回の顛末の手紙をスードに送り、隣国の叔母上の養女にする手続きをお願いしました。叔母の方でも既に準備していたので、手紙が届き次第、処理されるでしょう。」

「何故·····」

「ユーリアシェ様を娶れる機会を逃したくなかったので、急いでしまったのです。

まさかもう一度王族に戻すなど思ってもいませんでしたから。」

先程から初めて聞く話ばかりでユーリアシェの心は大型台風並みに荒れていた。

(待って待って!!娶るって誰が誰を?!ティス兄様って、私を妹の様に思ってたんじゃないの?!)

「計ったのか?!」

マドルクはテーブルを叩きカーティスに殺気を向ける。
部屋にいる護衛騎士も動こうとしたがカーティスが牽制するように告げる。

「何を計ると?
婚約者入替えも王太女を外したのも陛下です。
我等は国境を守る東伯です。
何通りも予測し、それに備えるのは当たり前ではありませんか。」

その言葉にマドルクは殺気を消し耐えるように目を瞑ったが、軈て手を振って人払いをした。


侍従長を残し退室した後、独り言のように呟いた。

「リーシェでは駄目だ。国が滅ぶ。」

いったいどんな心境の変化があったのか?

「陛下。いったい何があったのですか?
数刻前迄は自信を持ってリーシェを跡継ぎにすると言っていたではありませんか?」

マドルクの豹変についていけず困惑して聞く。

「ユーリアシェ、そなたを遠ざけたのは銀の髪だったからだ。」

今更何を言っているのか?
まさかユーリアシェが知らなかったと思っているのか?

「知っていたか。そうだな。なら理由も知っていよう。」

「はい」

「そなたが母上に見えて仕方なかった。だが母上に似ていたのはリーシェだ。
怠惰な所も、男を取る所も、涙で同情を買う所も!」

拳を震わせ、声を荒らげる。

「リーシェが国主となってもイルヴァンの傀儡となるだけだ。あれはリーシェを愛しているのではない。
王配になればハスターバルが放っておくまい。」

(皆解ってるよ!あんた本当に国王?!)

カーティスは呆れを隠さず諭すように言う。

「そうは言ってもあれだけ大勢の前で、国王自ら布告されたのです。
私達を捕らえでもしない限りスードに帰るのを止めるのは無理ですよ。
まあ、捕らえても先程の件で冤罪と思われますけどね。」

「わかっておる。悪足掻きだ。
·····ユーリアシェ、済まなかった。」

その声は老人のように嗄れていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界一の治癒師目指して頑張ります!

睦月
ファンタジー
神のミスにより異世界で暮らすこととなった花道香織は、医師になるという夢を叶えるべく、治癒師の道を歩み始めた。 チート過ぎるAIサポーターのアイに振り回されつつ、香織はこの世界を旅しながら多くの命を救っていく。 タイトル変更しました。 旧題:夢破れた医学生は異世界で治癒師を目指す

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

完璧ヒロインに負けたので平凡令嬢は退場します

琴吹景
ファンタジー
【シュプレイム王国貴族学院伝統の卒業生祝賀会『プロムナード』の会場のど真ん中で、可憐な少女と側近の令息数人を従えた我が国の王太子、エドモンド・シャルル・ド・シュプレイム殿下が、婚約者であるペネロペ・ド・ロメイユ公爵令嬢と対峙していた。】 テンプレのような断罪、婚約破棄のイベントが始まろうとしている。  でも、ヒロインも悪役令嬢もいつもとはかなり様子が違うようで………  初投稿です。異世界令嬢物が好きすぎて書き始めてしまいました。 まだまだ勉強中です。  話を早く進める為に、必要の無い視覚描写(情景、容姿、衣装など)は省いています。世界観を堪能されたい方はご注意下さい。  間違いを見つけられた方は、そーっと教えていただけると有り難いです。  どうぞよろしくお願いいたします。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪役令嬢独立奮闘記

as
ファンタジー
悪役令嬢と設定された少女たちが強制力のせいで役柄を演じつつハッピーエンドを目指す。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

処理中です...