悪役令嬢独立奮闘記

as

文字の大きさ
上 下
2 / 29
フレイヤ・スフォルツァンドの奮闘

1

しおりを挟む
(鬱陶しいですわね)

フレイヤは内心溜め息を盛大につきながら、目の前の美少女を視界に入れないようにお茶を飲む。

ノルド学院に併設されているカフェテラスで食事をしていたフレイヤのテーブルに

「お邪魔しまーす。」

と言って、こちらの返事も聞かずにフレイヤの前に座ったのだ。

そして食事が終わりフレイヤは食後のお茶を飲んでいるが、件の美少女は食事が終わってもニコニコしてこちらを見るだけ。

一年の半分を雪で覆われているアスガルズ王国この国でお茶は貴重な品なので飲めるのは王族や高位貴族、大商人くらいだ。

フレイヤは四大公爵の一家、スフォルツァンド公爵の令嬢だからお茶をいくらでも飲めるが目の前の美少女、フォルセティ・フリングホルニは貧乏な子爵家の令嬢なので茶葉を買う余裕などない。

ここでフレイヤが「一緒にいかが?」と言えばいいのだろうが、フレイヤは彼女となるべく関わりたくないのだ。

なぜなら

「フォル、こんな所にいたのか。」

と弾んだ声でフレイヤの後方から目の前の美少女を呼んだのがフレイヤの婚約者シグルドで、フォルセティはその浮気相手だからだ。

(婚約者より先に浮気相手に声をかけるって·····)

内心呆れていたが相手が自分より地位が高いので立ち上がり振り返って礼をする。

「あ、フレイヤもいたのか。」

バツが悪そうにしているがフレイヤの髪は白銀に毛先は薄紫でこの国ではスフォルツァンド家しか持たない色だ。

フレイヤの後方から来て顔がわからなくても髪色で気づく。

(まあ、それ髪色さえ気づかないほどフォルセティに夢中なのでしょうけど)

「御機嫌よう、シグルド殿下。わたくしがいて申し訳ございませんわ。
でももう教室に戻ろうと思っておりましたの。
殿下はどうぞお楽しみ・・・・下さいませ。」

扇を広げ高飛車に嫌味を混ぜた。
ついでに自身の髪を撫でながら。

「·····気づかなくて申し訳なかった。
教室まで送ろう。」

「まあ、気づきませんでしたの?
でもそれも仕方ありませんわね。
わたくし・・・・よりも・・・興味深いものがあれば他は目に入らないでしょうから』。」

髪を撫で続けながら目を細めシグルドを見た。

シグルドは否定も肯定も出来ず申し訳なさそうにフレイヤを見つめる。

(さすがヒーローですわ。顔がいいだけに哀れさを誘いますわね。)

プラチナブロンドにアメジストの瞳の端正な顔で心苦しいと表面にだせば大抵の女性は許すだろう。

フレイヤという例外を除けばーー

「いい加減にしろ!
殿下に対して無礼だろう!」

(出た!シグルドの忠犬、このゲームの当て馬ロキ。)

「わたくしのどこが無礼だと仰るのかしら?
殿下、浅薄なわたくしにご教示下さいませ。」

「いや、貴女に無礼を働かれたと思っていない。
ロキが失礼した。」

「殿下!この女の物言いは明らかに嫌味です!
それを許せば付け上がるだけです!!」

(あら、脳筋の癖に嫌味ってわかったのね。)

フレイヤは心中でロキに感心していた。
とはいえ誰が聞いても嫌味とわかろうものだが、ロキに対するフレイヤの評価は五歳児並なのでそれで感心されてもロキは嬉しくないだろう。

「この女?それはわたくしに仰ったのかしら?」

「お前以外に誰がいる?!
いくら殿下と婚約しているからとーー」

「よせ!
フレイヤ、ロキの無礼を詫びる。どうか許してほしい。
私からよく言い聞かせておく。」

「殿下のご命令であればもちろん許します。
ですが毎回皆が集まる場所でこのように大声で吠えたてられては何か意図があると勘ぐってしまいますわ。」

フレイヤは周りを見渡しながら周囲に聞こえるように言った。

その発言に野次馬と化した学院生は騒めき出す。

「確かにいつも廊下とか運動場とか人が大勢いる所でやってるよな。」
「そうよね。」
「さっきもフレイヤ様ではなくフォルセティ嬢に先に声をかけてたぞ。」
「あれはフレイヤ様の後ろから来てたからだろ。」
「でもフレイヤ様の御髪なら後ろからでも気づくのではなくて?」
「そりゃシグルド殿下はフォルセティ様に夢中だから仕方ないんじゃない。」
「名ばかりの婚約者じゃねぇ。」

フレイヤは自身の嘲りも聞こえていたが些末でしかない。

重要なのは学院生にシグルドが意図を持って態と・・フレイヤを蔑ろにしている、貶めていると周知させるのが目的だった。

フォルセティは周りの学院生の自身に不利な発言を聞き、立ち上って反論しようとしたが、フレイヤの扇を閉じる音でタイミングを逃がしてしまう。

シグルドも聞こえていたようで焦ってフレイヤに言い訳をし始めた。

「何も意図はない。
そのように感じていたなら私の態度に問題があったのだろう。
貴女を貶めるつもりはなかった。それだけは信じて欲しい。」

「殿下がそう仰るのであれば臣下として疑うなど出来ませんわ。」

王族の言葉を疑って反逆したと思われたくないと多分に含みを持たせる。

「フォルセティ様に御用がありましたのですわね。
『邪魔者は退散致しますわ。』
では御機嫌よう。」

軽く礼を取り優雅さを失わないように人垣を通り抜ける。

その際にチラリとフォルセティを見たが、唇を噛んでスカートを握りしめていた。

(泣いて周りの同情を買いたかったでしょうけど、今回は無理でしたわね)

フレイヤは教室に戻る途中の空き教室に入り扉を閉めた瞬間に結界が貼られる。

「お疲れ様でーす☆」

横からボソボソ声の陰気な黒髪少女が近づく。
フレイヤは驚く様子もなく少女を見た。

「結界なんて貼って大丈夫ですの?
学院は授業以外の魔法は禁止してますのに。」

もしバレたら謹慎処分だけでは済まない。

「大丈夫☆この結界は私お手製の魔道具で貼ってるから。学院にバレるような稚拙な物じゃないよ☆」

彼女が作ったのなら王国が誇る学院全体に敷かれている魔力感知の魔法陣も児戯に等しいものだろう。

「取り敢えずこれで今日のイベントは終わりましたわ。」

「良かったねぇ。最初はハラハラしたけど途中からはワクワクしたよ☆」

「見世物ではありませんのよ。
こちらはいつ強制力が働くかとドキドキしておりましたのに!」

「そうだよね。
ごめん、フレたんがめっちゃ堂々としててたから·····」

彼女のしょんぼりとした姿に庇護欲がわき、気にしてないと笑顔で返した。

「傲慢令嬢の役なんですもの。そう見えていたなら誰も気づかないですわね。それはそれで良かったですわ。」

「うん、すっごい高飛車で王子を凹まして、ヒロインに付け入る隙を与えない偉そうさだった。
でも無神経な発言だったよ。」

「·····本当に反省していらっしゃるの?」

イマイチ悪かったと思ってるのかわからない言い方だとフレイヤの顔が引きつった。

「反省してるよ!
私だって綱渡り状態は一緒なんだから!!」

一生懸命訴えるように言っているので(俯いた状態でボソボソ声だが)、本当に悪いと思っているのだろう。

「まあ、よろしいですわ。
今回もなんとかゲームのセリフを入れられましたし。」

ゲームではフォルセティをフレイヤが無視していたらシグルドがフォルセティに先に声をかけそれに怒ったフレイヤが『わたくしに気づかないなんて他の者に興味がありましたのね。』
と言ってフォルセティを憎々しく睨みロキが吠えシグルドもヒロインを庇う。
そしてフレイヤは悔しげに「邪魔者は退散しますわ」とカフェテラスを出ていく。

ゲーム内のセリフさえ入っていれば付け足すのは自由だ。

「今回で確信したのですが、悪役令嬢には強制力が働きますが、他の方にはないようですわ。」

「うーん、多分働いてると思うんだけど。」

「ですがシグルドはヒロインを庇いませんでしたわ。」

「でもロキは公爵令嬢のフレたんをあの女呼ばわりしてるし、シグルドは侮辱発言をなかなか止めなかった。
その上女狐に骨抜きで全く婚約者を尊重してない。
フレたんのお兄さんもあの場に居て何も言わなかった。」

確かに普通なら側近があれほど暴言を吐いたらもっと早く止めるべきだ。

最悪側近を降ろし罰を与えなければならないのに注意のみ。

兄は·····居たなという程度の存在感だった。ロキが全面に出すぎて忘れていた。

「困りましたわ。
婚約者としては最低ですが統治者の能力は十分ありましたのに。」

「あの女狐を選ぶ時点で能力があるか疑問だけど?」

「うぐっ、そうですわね。
わたくしも人を見る目はまだ未熟ですわ。」

「落ち込まないでよ。私達また16才なんだから☆
それより後は階段落ちがあるから気をつけて。」

「気が重いですわね·····」

「乙女ゲームに付き物とはいえねぇ~。
この【エッダ物語~竜の加護を授けられし乙女~】の山場なんだから避けられないもんね。」








しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

処理中です...