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【閑話】〜リッツヘルム〜前編
しおりを挟む俺は元々マセル公爵領地の孤児院育ちだった。
マセル公爵領は海に面した部分もあり土地も肥沃で潤っていて、代々の当主は寛容で領民にとって住みやすい所だ。
孤児院も定期的に領地の代官が来て物資や医療、教育もしてくれる、他所では考えならない待遇だった。
俺は勉強はそれほど出来なかったが、棒を振り回して遊ぶのは好きだったし、周りで一番強かった。
たまたま代官が俺達の遊びを見て俺と何人かが私設騎士団に誘われた。
その時に衣食住は保証するが命は保証しないと言われた意味をもっと深く考えれば良かったんだが、俺も他のやつも阿呆だった。
一も二もなく喜び代官に着いて行った先には地獄が待っていた。
訓練、訓練、実践の繰り返し。
公爵は仕事が出来れば貴賎を問わないが、怠ける者や仕事ができない者は容赦なく切り捨てる人だった。
少しでも出来たら次の難易度があがる。
俺と一緒に孤児院から騎士団に入った奴らは脱落して領地から追い出されるか実践で死んでしまった。
偶に挫折したり大怪我して逆恨みする阿呆がいるが速やかに処理される。
元々命の保証はしないと最初に言われていたから、どうなろうと自分が選んだ事を恨むのは筋違いだ。
俺は金と女の子にチヤホヤされたくて欲望をやる気に変換し食らいついていけた。
才能もあったんだろう。
10代の終わりから20半ばまで辺境を周り実力をつけて公爵位から授けられる騎士爵を賜った。
ただの孤児に一代とはいえ爵位をくれる公爵は超実力主義者だと思った。
その分教育も徹底している。
決して公爵家に背く行いをしないように教えこまれた。
その時に何故孤児院があんなに待遇がよかったのかがわかった。
才がある子供は貴族も孤児も関係ない。
衣食住や教育を充実させ領地内の子供から能力のある子供を見つけ、引き取って更に教育して領地を富ませるためだ。
階級社会の(皇家除く)最高峰である筆頭公爵家がよく思いついたなと思うが、個人の栄華ではなく領地のひいては帝国の栄華を突き詰めたらそうなったんだろう。
それを他の貴族に強要しない常識も持っている。
その公爵が何故あんなボンクラを公爵家の養子に迎え入れたのか、騎士も使用人も当時は謎だった。
俺は25才で公爵家の暗部に引き抜かれ公爵の護衛をしつつ諜報活動もしていた。
顔もまあまあいいし金も貧乏貴族より持っていて、爵位持ち。
なのに好きになる子には大抵振られた。
理由は一緒に穏やかな人生を歩める人がいいだの、優しい人がいいだの、挙句には貧乏でも笑って食卓を囲みたいと言われた。
俺が全て与えてあげる!
そう力説しても振られるーー
同僚は肉食系にはモテるぞと要らん励ましをもらった。
そっちは趣味じゃないと言ったら一生独身だと返された。
だが俺は妥協しない。
子兎のようなか弱いけど芯がしっかりした胸の大きな嫁さんを貰うんだ!
話が逸れたが、公爵の養子のオウクスは実子のサウスリアナ様より劣ってる癖に偉そうにしていた。
顔がまあいい方だったから邸の侍女を何人か味方につけ、サウスリアナ様を牽制しているが、そもそもサウスリアナ様が義兄に全く興味がないように見える。
サウスリアナ様は公爵と同じで能力があり仕事に真摯であればそれでいいし、そうでなければ歯牙にもかけない。
己に厳しいが人には強要はしない。
貴族の務めを知っていて、誰にでも分け隔てなく接する。
女性としての魅力にかけるが皇后となるに相応しい人物だ。
だが皇太子はそう思わなかったようで、皇族の義務も忘れ女狐に溺れ、サウスリアナ様を虐げていた。
学園の中では公爵家の権威は意味を成さない。
何代か前の阿呆皇帝が平等なんぞと言ったからだ。
帝国自体がバリバリの階級社会なのに学生の間だけの平等になんの意味があるんだ。
学生の時に下のものが上の者を潰そうとし、失敗して卒業すれば一族がやられる。
平民でもわかるのに貴族って阿呆の集まりなんだろうか?
そしてこの制度を利用した皇太子は歴代最高の阿呆だ。
それに便乗したオウクスや貴族子息は言葉が思いつかない。
そんな状況は公爵にも伝えたが娘を信じてるのか興味が無いのか「そうか」と言ったきり特に行動は起こさなかった。
起こせなかったと言った方がいいか。
サウスリアナ様は公爵に自身の境遇を伝えなかったし、学園は帝国法で平等を謳ってるから誰も手が出せない。
公爵は今の時代にあっていない法律を(学園内は平等も含め)改正したいと思っているようだが遅々として進んでいない。
原因は王妃や宰相等公爵の活躍を望まない派閥だ。
俺からしたら国の仕事を頑張ってやってんのに認めて貰えず、娘は苛めを受けて義息子は阿呆以下。
何が幸せなんだろうと思う。
そして皇太子達の苛めは日に日に酷くなり流石のサウスリアナ様も様子が変に見えた。
元々感情が希薄なので何処がどうとは言えないが、戦場や盗賊討伐では些細な違和感を拾えなければ死だ。
常に最前線に出されていたから敏感になった。
だから気づいたんだが、それは遅かった。
サウスリアナ様が学園で刺されて邸に運んで来られたと報告が入ったからだ。
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