新選組秘録―水鏡―

紫乃森統子

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第2部

第十三章 二律背反

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 鬩ぎ合う蝉の声も、漸く終息を感じさせてきている。
 元治元年も八月に入り、数日が過ぎていた。
「ほらよ。おめえの取り分だ」
 そう言って差し出された土方の手には、一両。
「何ですか、このお金」
 土方がくれる小遣いにしては、少々額が多い。
 その手元から視線を上げれば、何食わぬ顔で煙管をふかす土方の横顔があった。
 小遣いにしては多いが、先日皆に支給された、池田屋の褒賞金と考えると、妙に少ない。
 勝手な行動を取ったとはいえ、怪我まで負って戦ったのだから、額はもっと多くて良いはずだ。
「いらねぇなら、俺が懐に入れるぞ」
「ええ!? ちょっと待ってくださいよ!」
 差し出していた一両を懐に仕舞おうとする土方の腕を、伊織は咄嗟に引き止めた。
「何でそうなるんですか! それ、私の分の褒賞金なんでしょう!? 猫糞はやめてくださいよ!」
「何だと?」
 がっしりと両手で腕を掴んでいれば、土方からは少々機嫌の悪そうな睥睨が返る。
 人様の取り分で私腹を肥やそうとしたくせに。
「おめえの取り分なんざ、端っから出てねえんだよ。それを俺が自腹切って出してやろうってんだ」
 何か文句があるのか。
 と、凄んでくる。
「うわ……私の分、出てないんですか……。怪我までしたのに」
「ったりめえだ。本来おめえは留守隊に入れる予定だったんだからな!」
「土方さんの褒賞金額は、いくらなんですか」
「俺ぁ副長だからな、二十三両だ」
「二十三両? 中途半端ですね。クス!」
 確か、局長の近藤には三十両ほどが渡されたのに、副長が二十三両とは。
 もう少し切りの良い、二十五両くらいにならなかったのか。
 幕府も結構世知辛い。
「うるせえ! もういい、てめえにゃ一文だってくれてやらねえ!」
「ああッ! そんな!」
 掴んだ伊織の腕を振り払い、土方は改めて自らの懐へと忍ばせてしまった。
「だいたいなあ、てめえの刀は俺が貸してやってんだ。その上、身の回りの支度金だって、全部俺の懐から出てんだぞ!?」
「……それはまあ、そうですけど」
「池田屋や、こないだの戦で散々振り回したその後、誰がその刀を研ぎに出したと思ってやがる!?」
 先達て、池田屋の一件から連動して起こった、禁門の変。
 その戦でも、伊織は留守役を申し付けられた。
 だが、無論、それを甘んじて受けるでもなく、初陣を経験したのであった。
 たったの一日で勝敗は決まり、幕府側の圧勝。
 長州は御所に発砲したことで帝のおかんむりを買い、逆賊の汚名を着ることに相成ったのだ。
 新選組の側でも、この戦を機に、隊士の数が激減していた。
 何も、戦死が全てではない。
 どさくさに紛れて脱走した者が殆どだ。
 そんな激戦の中、伊織も土方から借用している大刀を振るったのだった。
「だって、土方さんの刀ですから。研ぎに出すのも、土方さん、ですよね」
「だろう! おめえが持てる金なんざ、この世にゃあ一銭だってねえんだよ」
「……ちッ」
 どうしても金が欲しい、というわけではないが、土方のこの言い方がどうも気に入らない。
 金が入ったら、せめて着物くらいは自分で新調しようと考えていたのに。
「ほっほう、舌打ちとはいいご身分だ。怪我ももう完治してんだ、さっさと稽古にでも行ったらどうだ……?」
 やや口の端を引き攣らせ、土方は嫌味たっぷりに笑った。
 稽古。
 つまり、金の無心をする余裕があるなら、佐々木のところにでも行って来い。
 という意味である。
「でも、みんな褒賞金が出て、ウハウハしながら遊里に出掛けてるのに……」
 そんな中、自分ばかりが真面目に剣術稽古に出掛けるのは、少々面白くない。
「じゃあ、てめぇも遊郭に行きてえのかよ」
「そういう意味じゃないですけど」
 憮然として返すと、土方は意地悪く鼻を鳴らす。
「だろうなぁ? おめえが行っても、面白れえことなんざ、一つもねえもんなあ?」
「そういう土方さんは、行かないんですか」
「うるせえ、俺はいいんだよ」
 切り替えした途端に、このあしらい様。
 些か照れ臭そうに、土方は顔を背けてしまう。
 自分のこととなると、すぐに話を逸らすのだ。
 詮索を受けるのが嫌なのか、それとも、単に話すのが照れ臭いだけなのか。
 このところ、伊織は土方との間に妙な隔たりを感じることが多くなっていた。
 何となく、今まで身近に見えていた隊内上層部が、急に不透明になったように思えるのだ。
 局長の近藤も、このところは留守がちであったし、土方は土方で、自身の職務には伊織を一切近付けなくなった。
 それとなく遠ざけられているような気も、しないでもない。
「……分かりましたよ」
 ふう、と一つ吐息して、伊織は立ち上がった。
「剣術の稽古、行ってきますよ」
「ああ、行け行け」
 背を向けたまま、土方は手の甲で追い払うように言い捨てる。
 と。
「剣の道は険しく厳しく、且つ奥深いぞ!! お前のその言葉を待っていた!!!」
 襖を叩き割る勢いで現れたのは、件の佐々木であった。
 いやに鼻息荒く、やる気も充満し過ぎて、全身から溢れ出るほどの存在感。
 一体何時から、そしてどうして、この場にいたのか。
「……うわー。相変わらず鬱陶しいですね、佐々木さん」
「プ! 迎えが来て良かったじゃねえか」
「フフ……その顔、本当は待ち侘びておったのだろう……このッ、お前! 照れ屋さんめ!」
 残暑の頃に、佐々木只三郎の大開放。
 目にするだけで気力を削がれる。
 厳しい面構えで、佐々木は無理矢理片目を瞑ってみせた。
(きも……)
 やはり剣術稽古はやめようか、そう迷った時、土方がやおら顔を上げた。
「何時まで突っ立ってんだ、邪魔だ! 佐々木さん、あんたもさっさと、こいつ連れて出てってくれ!」
「む! そうか、では土方君。祝言にはお主も呼んでやろう!」
「土方さん、私、こんな師匠イヤです」
「ぬううッ!? この私の何が気に入らぬのだっ!!」
「全てです」
「ぬおおお……っ! 何という残酷な事を申すのだお前ッ!?」
「ああーーーっ、もううるせえ!! 出て行け馬鹿共っ!!」

     ***

 半ば追い立てられるように、渋々と副長室を出た伊織。
 縁側から表へ降りるその隣には、いやに至近距離で付き纏う佐々木がいる。
 真南に昇った太陽も、まだまだ熱い日差しを浴びせ掛けていた。
 秋も徐々に近付いている気配はあるものの、それでもまだ、日中は残暑が厳しい。
「さて、では一頭の馬に相乗りで行こうではないか? うふふん」
「……なんで付いてくるんですか、佐々木さん」
「ぬううう!? ど、どういう意味だッ! け、稽古に来るのだろう!?」
「あんまり行きたくないです」
「では何だ、嫁に来るのかっ!? そうか、そうなのだな!?」
「死んでもイヤです」
「むむ、元気がないようだが、どうしたのだ! よもや佐々木失調ではあるまいな!?」
「なんですかそれ」
「なに、お前にとって、この私という栄養分が不足しているのではないか、とな」
「いえ、間に合ってます」
 あっさりと返し続け、伊織はふらふらと屯所の出口へと足を向ける。
 悉くあしらわれるのにもめげずに、佐々木もしつこくその後に付いて来ていた。
 どうしても、稽古に引き摺って行きたい様子だ。
 さて、どうやって撒いてやろうかと、あれこれ思案を巡らせていた、そこへ。
「あれ? 原田さんだ」
 正面に原田と、永倉の姿を見つけ、伊織は思わず足を止めた。
 いや、屯所内なのだから、二人が何処にいようと別段奇妙なことはないのだが。
 けれど、どうにも不自然に感じる。
 二人がいやに深刻な表情で話し込んでいるから、なのだろうか。
 しかし、ここで二人に混じれば、うまく佐々木を撒けるかもしれない。
 ちらりと隣を盗み見れば。
「……浮気か?」
 じっとり怪訝に疑いの目を向ける、佐々木の顔。
 前々から知っていたが、改めて、この人の頭は少しおかしい。
 と、そう思わざるを得ないことが、また少し哀しくもあった。
「私は少々あの二人に話がありますので、どうぞ今日のところはお引取り……」
「む、そんな事で騙されはせぬぞ! 私に隠れて不義密通とは許しがたい!!」
「もうあんた帰ってくれ頼むから!」
 説得を諦め、急ぎ足で原田・永倉両名の元へ向かう。
 が、佐々木も盛大な勘違いを繰り広げながら、執拗に後を追って来た。
「ままま待たんか! くそう、私を捨てるな伊織ッ!!」
「原田さん、永倉さーん! どうかしたんですか、真面目な顔で話し込んで!」
「ぬああん! む、無視ッ!?」
 務めて明るく声をかけた伊織に、件の二人の視線が集中する。
 それとほぼ同時に、それまで深刻だった二人の顔も、ぐっと歪められた。
「おう、新八。来たぞ、変なのが!」
「あー、高宮と……いたな、変態が」
「なんのお話ですか? 珍しく硬い表情で!」
 にっこりと笑いかけても、二人の視線は明らかに伊織の背後に注がれ続け、暫し離れる気配もなかった。
「お主ら、私の小太刀の餌食になりたいと申すか!?」
「何言ってんだ、こいつ」
「ああほら、新八! 見ねえほうがいいぜ!」
「お、おう」
 こそこそと遣り取りを交わす、原田と永倉。
 これもまた、いつもの歯切れの良さに欠けるようだ。
「どうしたんですか、いつもと様子が違いますよ?」
 見上げるほどに長身の原田を窺い、次いで永倉の面持ちを見遣る。
 と、漸く原田がこちらに目を向けた。
「いや、何だかよォ、新八が急に変なこと言い出すもんだから……」
「おい、左之助!」
 すると永倉も、慌てたように原田を遮る。
 平素ならどっしりと構えた風体の永倉も、割合と目が険しさを増しているようだった。
 何か、隠し事でもありそうな二人に、伊織がやや首を傾げたところで。
 再び背後の頭上から声が降った。
「お主らの話などどうでも良いわ! さあ伊織、もう良かろう! 早くせねば二人のトキメキが薄れてしま……」
「黙れこの好色爺!」
 またも気持ちの悪い発言を繰り出した佐々木に、伊織は一言強烈に言い返す。
 そこでやっと、目の前の二人にも苦笑が浮かんだ。
「ぶふふッ!! 高宮、おめえもキツイこと言うじゃねーかよ~!」
「ブフッ! …だそうだけど、佐々木さん、あんた高宮に嫌われてんな!」
「ぬぬうッ! 笑われた……! 伊織、お前の佐々木が笑われたぞッ、早く慰めぬか!」
「だから嫌なら帰ってくださいよ」
「……グスッ」
 あくまで冷たく撥ね付けると、背後から微かにすすり泣く声。
 佐々木が泣いた。
 と、それを機に、永倉の顔が急に和らいだのだ。
(? ……微笑ましいんですか、永倉さん……)
 不可思議なその反応にやや戸惑いを感じれば、永倉もまた大仰に溜息を吐いた。
「なあ、あんた。最近の局長、どう思う?」
 突如問われ、伊織は思わず眉根を寄せる。
どう、とは。
「ええと、局長、ですか。そうですねえ」
 近頃外出の多い近藤とは、滅多に顔を合わせることもない。
 池田屋以来、その名を上げた新選組の局長として、日々諸藩のお偉方との談合に忙しいのであろう。
 そうとは見当がつくのだが。
「俺は気分が悪いな。毎日毎日付き合いだの何だのと言っちゃあフラフラ出歩いてよ」
 こちらは以前と変わらず、毎日、血反吐の出る稽古漬けの日々。
 語る永倉の表情が、再び険阻になっていくのが見て取れた。
「俺にはどうも、局長ばかりが偉くなったように見えて仕様がねえ」
「うーん、まあなあ。確かに、たまーに顔見たとくりゃあ、妓の匂い振り撒いてんもんなー」
 二人から出るその言い分に、伊織はどうとも答えを失った。
 事実、それは伊織から見ても否定は出来ないように思うのだ。
 余り良くないところへ首を突っ込んでしまったらしい。
「あんたはどう思う」
 再度、念を押すような問いを投げ掛ける永倉に、伊織は不意に視線を移ろわせた。
「さあ、私も最近は、あまり局長にはお会いしてませんから……」
 この場は曖昧にお茶を濁すのが得策かと思えたのだが、そうと返せば次には原田が詰問する。
「じゃあよぉ、土方さんはどうなんだよ。側にいるんだ、近藤さんに対してどういう了見でいるのかぐれえは分かるだろ」
「う、でも、この頃土方さんも、あんまりそう突っ込んだ話をしてくれないんで……」
 ずい、と顔を覗き込む原田に対し、伊織はそれとなく回避を謀る。
 と、両名が同時に、大きな落胆の色を浮かべた。
「あんだよ、お小姓のおめえも蚊帳の外ってか?」
「まったく、局長だの副長だの、何なんだ一体。俺らは同志じゃねえのかよ。同志である以上、立場は同等なんじゃねえのかよ」
 憤慨も露骨に見せ付ける二人を前に、どんな表情をして良いかのかも判断に困る。
 徒に反論して、意図とは逆に憤りを煽っても困るし、かと言って二人の意見に乗じることは、もっと出来ない。
「私も最近、相手にされていないような気がして、寂しいとは思いますけどね」
 結局こんな相槌しか捻り出せない我が身が、一層歯痒い。
 その後、まだ延々と話の続きそうな二人に、おざなりに暇を告げる以外、思いつくことが出来なかった。
「新選組も、いろいろとあるようだな?」
 その場を離れつつ、ふと佐々木が声を低めて言う。
「しかし、お前もあの場で二人に賛同しなかったのは褒めてやろう」
「それはどうも」
「同志といえど、長は必要だ。元々百姓出の近藤が、苦労もせずに諸藩と遣り合っているとは、到底思えぬ」
 どうしたことか、急に真面目に話し出す佐々木を、伊織は意外な思いで見上げた。
「そうですよね? 私もそれに同感です。今だって、局長は余程苦労されてるんだと思いますよ」
 内実を知らぬが故の、憤懣なのだろう。
 永倉の言い分が、全く理解出来ぬわけでも、ないのだが。
 また隊内部の雲行きが怪しくなってきたのは、紛れもない現状であった。
 重く下駄を鳴らし、伊織は屯所の門へと足を向ける。
 と。
「――!」
 ふと顔を上げた伊織の視界に、開いた門前の間口に、横切る人影が映った。
「あの人……!」
 見間違えるはずもない、あの女。
 以前、黒谷からの帰りに出会った、己の姿に酷似した女が、今目の前を過ぎて行ったのだ。
 咄嗟に門外へと駆け出て、周囲を見渡す。
 だが。
「いない……」
 素早く首を巡らすも、その姿を再び捉えることは出来なかった。
 たった今過ぎたばかりのその姿は、影も無い。
「伊織! どうした! 突然私を置いて行くとはあんまりではないかッ!」
 少々突飛だったその行動に、佐々木も慌ててついてくる。
「今。通りましたよね?」
「? 何がだ?」
「……私にそっくりな、女の人」
 呆然と尋ねるが、佐々木は不思議そうに首を傾げるばかり。
 真正面を通り過ぎたのに、見ていなかったのだろうか。
 立ち往生したまま、伊織は暫し、その過ぎ去った方向を眺めた。
 伊織を幕末の時代に呼び寄せたのが、彼女。
 彼女に出会う直前、会津藩本陣でも、奇妙なことを言われた。
 似ている、と。
 そこに、何かの関連があるとしたなら。
 そこまで思案し、伊織はくるりと佐々木を仰ぎ見た。
「すみません、佐々木さん!」
「何だ、急に改まりおって」
「これから黒谷に行く用事が出来ました。やはり稽古はまた今度お願いします」
「黒谷? 何だ、では私も……」
「いや、来なくていいです。ていうか、来ないでくださ……」
「それで、何をしに行くのだ?」
 と、すっかりついて来る気になっている佐々木の一言で、伊織は口籠った。
 そういえば、前回もすんなりとは目通り出来なかったのではなかったか。
 佐々木只三郎の実兄、手代木直右衛は、会津藩重役。
「く……! じ、じゃあ、いいですよ。通行証代わりにお供願います」
「つ、通行証……」
 酷く不名誉な衝撃を隠せぬ面持ちの佐々木を引き連れ、伊織はその足で、再び会津藩本陣、金戒光明寺へと赴いたのであった。

     ***

 佐々木の存在のお陰もあってか、今回は難なくその門を潜ることが出来た。
 今ばかりは、多少感謝もせねばならないだろう。
 丁重に叩頭しながら、容保の現れるのを待つ伊織。
 無論、佐々木も今ばかりは厳粛な面持ちである。
 いつもこうしていてくれれば、伊織としても接し易いように思うのだが。
 そう息を吐こうとした頃に、漸く正面から声が返った。
「おお、久しいな! 天晴れであるぞ!」
「殿、意味がわかりませんぞ」
 穏やかながら、明るさを感じさせる容保の声。
 発言に突っ込むのは、きっと梶原の声だろう。
 幾らか日が経ったためか、この殿の調子をすっかり失念していたことに気が付く。
「まあまあ、余も少しそちが気にかかっていたのでな。会えて嬉しい。ささ、面を上げよ! がばっと上げよ!」
「は、ははあ……」
 何となく気の抜ける思いで、そろりと正面を向けば。
 やはり、そこには満面に微笑んだ容保公が鎮座していた。
 そして、傍らにはやはり、梶原が。
「殿にもお変わりないようで、何よりですね、はい……」
 伊織の中の容保想像図とは、相当にかけ離れているものの、やはり実物のほうも好感が持ててしまう。
 こんな人懐こい笑顔を見せられては、畏まった物言いも出来なくなってしまうではないか。
 しかし、携えてきた話題までも、悠長な語らいで終えるわけにはいかない。
「実は、殿と、そして梶原様にお尋ねしたいことが少々」
「うむ、何なりと申せ? でも後で、余の話も聞いてくれ?」
「あ、はあ、私で良ければお聞きしますよ……」
 いちいち勢いを圧し折られる感覚を覚えつつ、伊織は漸く本題を打ち明ける。
「殿も、梶原様も、私を誰かに似ている、と仰られましたね」
 容保のその目を直視して口火を切れば、一瞬にしてその表情が曇った。
「実は、そのことで余も……」
「会いました。その、私に瓜二つな人に」
 単刀直入に言ってしまえば、言葉を紡ぎかけた容保が、声を呑む。
 同様に、梶原の顔色もやや青褪めた様子である。
「確かに、凄く似ていました。若い女性です」
 二人が言っていたのは、あの人のことではないのか。
 そう問うても、眼前の二人は暫し黙したままであった。
 沈黙したままに、奇妙そうな眼差しで目配せし合う、容保と、梶原。
 その雰囲気が、急速に緊張するのが分かった。
「いや、それは見間違いではないのか?」
 不意に伊織に目を向け、確かめる梶原。
 梶原も、その涼しげな面持ちをやや硬くしている。
 何を根拠に見間違いだ、などと言うのか。
 不審を覚えながらも、伊織はもう一言、言い返した。
「暗がりではありましたが、本当に、私そのものでした。見間違うはずがありません!」
「しかし……」
 怪訝に見合う二人を前に、伊織は更に詰め寄る。
「お二人は、私をご覧になって、どなたに似ていると仰ったのですか。あの女性ではないのですか?」
 その問い掛けから、暫時の沈黙を経て、やっと梶原が声を顰めた。
「我が家中に、高木小十郎というものがおる」
「はい」
 伊織が身を乗り出して耳を欹てれば、後を引き継ぐように、容保の声が告げた。
「その高木の娘に、そちは酷似しておるのだ。もう、見たままに、生き写しと言っても過言ではないくらいにな」
 何だ。
 聞いてみれば、何のことはない。
 では、あの女性は、その人で間違いないのだろう。
 真相を知り得て、伊織はほっと胸を撫で下ろす。
「……そうですか、お武家の娘さんでしたか」
 あの強さも、それで何となく納得してしまうが、それはやや浅はかに過ぎるだろうか。
 兎も角、実在するのだ。
 二度も神出鬼没な様を見せ付けられ、解せぬ言葉もかけられた。
 それだけに少々不気味にも思えていたが、実在するなら一先ずは安堵も出来る。
 それと共に表情の弛んだ伊織だったが、話し手の二人は未だ硬い面相を続けている。
「しかしな。会った、というのはやはり思い違いであろうぞ」
「どうしてですか? 私は実際に、窮地を助けられもしたんですよ、その娘さんに」
 ならば一度きちんと会いたい、と、そう願い出ようとした。
 その寸前。
 容保自らが席を立ち、伊織の傍へと歩を進めたのである。
 柔らかな風を起こして、間近に膝を折るその姿を、伊織は戸惑いつつ見詰めた。
 近くで見れば、息をするのも憚られるような、端麗な面立ち。
 その目と目を合わせ、容保は静かに口を開いた。
「その娘は、もう……幾月も前に亡くなっておるのだ」
「――は……?」
 我が耳を疑った。
 顔に見惚れている場合でない、その発言。
 己の身の回りに起こり始めている――否、既にこの時代へ来た時から、事は起こっているのだが――その真相の手掛かりを、確かに今、掴んだと思ったのに。
「そんな、では、私が見たあの人は、誰なんですか!」
 つい目元も険しくなる伊織に、容保は困惑したように眉尻を下げる。
 その顔に、伊織も少々自省した。
「いえ、その……この世に、そうそう似た人がいるとも思えませんし……」
「余は、そちが嘘を申しているとは思っておらぬ。ただ」
「ただ?」
「その娘が既に亡いのは事実。それは恐らく、他人の空似であろう」
「……そう、なのでしょうか」
 些か腑に落ちないながらも、それ以上容保に突っ掛かるわけにもいかない。
 いくら神出鬼没な女だからと、まさか幽霊でもあるまいし。
 けれど。
(――そういえば)
 と、伊織は不意に落胆から覚めた。
 ――私がこの世にいない今、あなたに死なれちゃ困るんだ。
 とは、確か、あの女の言っていた言葉だ。
(この世に、いない……?)
 あの時目の前にいた彼女は、そう言った。
 この世にいないとは、何かの比喩でも何でもなく、既に亡いという、そういう意味か。
 そこまで考えた瞬間、伊織の背筋がぞくりと粟立った。
 それと同時に。
「おっ、と!」
 と、容保の慌てるような声が傍近くで起こった。
 何事かと目を向ければ、容保はやや焦りつつ、その胸元を押さえている。
「どうかなさいましたか、公?」
 押さえた胸元を凝視して尋ねると、即座に伊織の脳裏に悪い予感が立ち上る。
 不自然に胸を押さえる行為、というのは、何か少々気色が悪いのだ。
 たとえ容保のような、容姿端麗な男性でも。
(容保様まで佐々木さんと同族だったら、どうしよう……)
 そんな危惧を覚えてしまうのも、己の奇怪な環境のせいであろう。
 伊織がそんな疑いを持った、次の瞬間。
 見詰めた先の容保の胸元が、妙に膨れ上がったのだ。
「!!?」
 目を離せずにいれば、今度はモコモコと蠢き出す始末。
「かかか容保様、何か動いておられますが……!!?」
「ああ、困ったなあ、大人しうしておれと申したのになあ」
 ははは、と照れ笑いを浮かべる容保。
 その横合いから、梶原もその手元を覗き込んだ。
「殿、お八つの時間なのでは?」
「おお! もうそんな時間であったか! そうか、それは悪いことをしてしまったなあ」
 梶原の助言を機に、押し込めた容保の懐が開放されれば。
 何か丸っこい、ふわふわの生き物が、ひょっこりと顔を出した。
(!!! 容保様の懐からッ、なんか雛!? ひよこ!!?)
「いやあ、すまぬ。お八つを与えねばならぬので、余はこれで失礼するぞ」
 震撼する伊織をまるで気にする様子もなく、容保はヒヨコを抱えてさっさと立ち上がる。
「は、はあ……」
 驚きが先に立ち、曖昧に返答するしか出来ない伊織。
 畳を擦るように部屋を出て行く、容保の背を見送っていた。
「おお、待たせてすまなかったなー、あっちで殿と一緒にお八つ食べような、ピヨ丸ぅー」
(名前も付けてるーーー!!)
 容保の去った、その後。
 室内に気まずい空気が流れたのは、言うまでもない。

     ***

 金戒光明寺を後にする伊織を、門まで、と送ってくれたのは、梶原であった。
 直に空も茜に染まる時分。
 穏やかに流れる涼風に、伊織は一つ大きく息を吸い込んだ。
「ピヨ丸が失礼をしたが、悪く思わんでくれ」
「え? ああ、いえ……。ていうか、容保様は、大丈夫なんですか?」
 困り笑いの梶原に、伊織はふと口を滑らせる。
 が、頭は大丈夫か、と問わなかっただけ、まだ良いだろう。
 何しろ、相手は会津藩主だ。
「まあ、あれも日頃ご疲労の耐えぬ殿の、唯一のお楽しみなのだよ」
「雛の飼育が、ですか」
「うん、そうだな、ある意味会津藩の若君だと思うぞ」
(ヒヨコが……ッ!?)
「私も……」
 背後からどんよりと落ち込む佐々木の声が介入し、伊織は漸くその存在を再確認するに至った。
「! …あ、うわ。そういえば佐々木さん、いたんですね」
 余りにも大人しすぎたために、すっかり佐々木も一緒だったことを忘れていたのだ。
 振り向けば、そこには頬を桜色に染めた、佐々木。
「私も、伊織のヒヨコになりたいのだが……」
 容保公の前を離れ、つい神経も弛んだのだろう。
 また可笑しな性癖が、首を擡げ始めたらしい。
「おい、伊織殿。何だこの男は? 頭悪いのか?」
(梶原さん、辛辣ぅ!!)
 訝しげに佐々木を見る梶原の目は、非常に刺々しい。
「そ、その人、ちょっと変なんです。そっとしておいてあげて下さ……」
「梶原殿、頭が悪いのは私ではなく、会津公であろう!」
「佐々木さんの馬鹿ーーー!! 駄目でしょう言っちゃああァ!!」
 仰天して叫ぶも、既に佐々木は断言した後。
 すると、梶原もまた酷く考え込むように、俯いて顎を擦った。
「……そう、か? いや、私も常々そうかな、とは……」
「思ってたんですか!!?」
 右に左にと、突っ込みが忙しい。
 と、やや息切れをした伊織の肩に、梶原が労うように手を乗せた。
「まあな。しかし、あれでいて殿は、思慮深くていらっしゃる。信頼を置いて、間違いないお方だ」
 にっこり笑んだ梶原は、やはり快男子的である。
 その一言に安堵の息を吐けば、梶原は再び面持ちを暗くした。
「先は言いそびれたが、私もやはり、同じ顔の人間がそう何人もいるとは思えぬ」
 紡がれた同意に、伊織は瞬時に眉間を狭める。
「死んだ娘の名は、高木時尾といってな。殿の義姉上様、照姫様に付いておった娘なのだ」
 心当たりはあるか、と、梶原が問う。
「高木、時尾?」
 その名を、伊織は呆然と聞いた。
 無類の新選組好き、そして、会津を故郷に持つ自分が、その名を知らぬはずはなかった。
(あの人が、高木時尾……?)
 その人と、自分と、一体何の関係があるというのか。
 そもそも、彼女は、本当ならば今も存命でなければならないはず。
 実際の歴史では、高木時尾は相当の老齢まで生きることになっているのだ。
 それなのに。
 今は、既に亡き人。
(どういう、こと?)
 些かの混乱すら感じ、伊織は固唾を呑んだ。
 そうした伊織の様子を窺うように、梶原が付け加える。
「まさか、とは思うがな。まあ、次に会ったら、確かめて見るといいだろう」

     ***

 呆然としたまま帰り着いた、壬生村の屯所。
 その門を潜ろうとした伊織の前に、ふと人影が立った。
 一瞬、ぎくりと身を強張らせたが、それが斎藤であったことを知ると、ほっと胸を撫で下ろした。
 黒谷を出てから、絶え間なく頭に響く、高木時尾の名。
 歴史の通りなら、彼女はこの斎藤の後妻に納まる人物なのだ。
「斎藤さんでしたか。こんな時間からお出かけですか?」
 動揺をひた隠しにして声をかければ、斎藤からは特に何の感情の色もない視線が返される。
「お前、昼間に永倉さんと話したか?」
「はい? あ、ええ、少し話はしましたけど」
 こちらが質問したのには答えず、斎藤はいつもながらに冷たい面持ちで尋ね返す。
 そこで変に逆らっても仕方がないのは目に見えたもので、伊織も平然と答えるのだが。
「……そうか。お前は暫く、永倉さんたちとは距離を置いたほうがいいだろう」
「は? ……って、斎藤さん、何処へっ?」
 言うだけ言い置いて、斎藤は伊織の脇を通り過ぎると、さっさと門外へ出てしまう。
(あらら、行っちゃったよ……)
 暮れかかった屯所を一目仰ぎ、伊織が奇妙な空気を感じたのは、それから間もなくのことであった。

     ***

「土方さー……」
 真っ直ぐ副長室に向かい、障子を開け放ったところで、伊織は愕然とした。
 いつもなら土方の背中があるはずの、文机の前。
 そこに、それはいたのだ。
「あ。お帰り」
「!?」
 振り向いたそれは、楊枝に刺した沢庵片手に、ひらひらと陽気に手を振る。おまけに文机の上には淹れ立ての茶も揃っている。
 あんぐりと開けた口を閉じるのも忘れ、伊織は呆然とそれを眺めた。
「んな……ななななんであんたがここに……」
 驚愕と動揺とで、うまく舌の回らない伊織を見上げる、その人。
「殿様は驚いていらした?」
「や、私のほうが驚いて……いや、その前に、なんでここに!」
 伊織に生き写しのその人は、満面に微笑む。
 全てを見透かしたような、そんな悪戯っぽさすら、垣間見える気がした。
「聞いたんでしょう? 私が高木時尾よ。あんた多分私の生まれ変わりか何かだと思うのよねぇ。ま、簡単だけど、そんなところで理解してもらえれば嬉しいな」
 本当に簡単である。
 こちらは幕末に来てからこれまで、訳も分からず、ただ生き延びようと死に物狂いだったというのに。
 問い詰めてやりたいことは山とある。
 が、言いたい事が有りすぎて、何一つ言葉になって出て来ない。
 そうして、やっと声になった言葉が。
「ああああんたなぁあ!! なんっでもっと早く出て来ないんだよ!? あんたみたいなのはもっと序盤で登場しとけよぉぉお!!!」
 だった。
 事情に通じる者のいない心細さが炸裂した瞬間であった。
「まあまあ、そう怒らないで。私なんかココじゃもう死んだことになってるのよ? 可哀想だと思わないの? 本当なら七十五まで生きる予定らしいのに」
「えっ! そうなの!? …ってそれは兎も角! これ、今のこの状況は一体どういう……!」
「あー、ごめん。そういうの一言で説明するの無理。ただねぇ、私がこの世にいないってことは、今の時代にいるはずの人間が一人足りてないってことなのよ。だから、私の役割をさ、代わりにあなたに担って欲しいと思ったんだけど」
 あっさりと口にする時尾の声は、至って明朗である。
 伊織としては、冗談ではない。
 そこまで振り回されてたまるものか。
 溜りに溜まった精神的苦労に、伊織の肩は小刻みに憤りを表す。
「だから、新選組にいるよりも、あなたには国許の会津に帰ってもらいたいんだけど」
 この上よくもしゃあしゃあと言ってのける時尾に、伊織の憤慨は、頂点に達した。
「んもーーー!!! 私にこれ以上、どうしろって言うんだよアンタァアア!!!」
「おう、おめえ、人の部屋で何叫んでいやがる……」
「!!!? はッ! 土方さん!?」
 思いがけずかけられた声に、憤りも潮が引くように覚めた。
 振り返れば、たった今部屋に戻ったらしい、土方の怪訝な表情。
「一人で大声出しやがって、とうとうおめえも頭おかしくなりやがったか」
 げっそりと見下ろす土方の、一人で、という言葉に、伊織は時尾を見遣った。
 だが。
「……き、消えてる……」
「ハァ? おめえも若いくせに耄碌しやがったか……」
 ふっと蔑むような吐息が、土方の口元からこぼれた。
「あ、あの女ッ……! 言いたい事言って消えやがってえッ!」
 まだまだ聞きたい事は山積していたのに。
 一先ず。
 これでまた、黒谷へ向かう用事が出来たことだけは、確信できた伊織であった。


【第十四章へ続く】
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