14 / 29
第2部
第十三章 二律背反
しおりを挟む鬩ぎ合う蝉の声も、漸く終息を感じさせてきている。
元治元年も八月に入り、数日が過ぎていた。
「ほらよ。おめえの取り分だ」
そう言って差し出された土方の手には、一両。
「何ですか、このお金」
土方がくれる小遣いにしては、少々額が多い。
その手元から視線を上げれば、何食わぬ顔で煙管をふかす土方の横顔があった。
小遣いにしては多いが、先日皆に支給された、池田屋の褒賞金と考えると、妙に少ない。
勝手な行動を取ったとはいえ、怪我まで負って戦ったのだから、額はもっと多くて良いはずだ。
「いらねぇなら、俺が懐に入れるぞ」
「ええ!? ちょっと待ってくださいよ!」
差し出していた一両を懐に仕舞おうとする土方の腕を、伊織は咄嗟に引き止めた。
「何でそうなるんですか! それ、私の分の褒賞金なんでしょう!? 猫糞はやめてくださいよ!」
「何だと?」
がっしりと両手で腕を掴んでいれば、土方からは少々機嫌の悪そうな睥睨が返る。
人様の取り分で私腹を肥やそうとしたくせに。
「おめえの取り分なんざ、端っから出てねえんだよ。それを俺が自腹切って出してやろうってんだ」
何か文句があるのか。
と、凄んでくる。
「うわ……私の分、出てないんですか……。怪我までしたのに」
「ったりめえだ。本来おめえは留守隊に入れる予定だったんだからな!」
「土方さんの褒賞金額は、いくらなんですか」
「俺ぁ副長だからな、二十三両だ」
「二十三両? 中途半端ですね。クス!」
確か、局長の近藤には三十両ほどが渡されたのに、副長が二十三両とは。
もう少し切りの良い、二十五両くらいにならなかったのか。
幕府も結構世知辛い。
「うるせえ! もういい、てめえにゃ一文だってくれてやらねえ!」
「ああッ! そんな!」
掴んだ伊織の腕を振り払い、土方は改めて自らの懐へと忍ばせてしまった。
「だいたいなあ、てめえの刀は俺が貸してやってんだ。その上、身の回りの支度金だって、全部俺の懐から出てんだぞ!?」
「……それはまあ、そうですけど」
「池田屋や、こないだの戦で散々振り回したその後、誰がその刀を研ぎに出したと思ってやがる!?」
先達て、池田屋の一件から連動して起こった、禁門の変。
その戦でも、伊織は留守役を申し付けられた。
だが、無論、それを甘んじて受けるでもなく、初陣を経験したのであった。
たったの一日で勝敗は決まり、幕府側の圧勝。
長州は御所に発砲したことで帝のおかんむりを買い、逆賊の汚名を着ることに相成ったのだ。
新選組の側でも、この戦を機に、隊士の数が激減していた。
何も、戦死が全てではない。
どさくさに紛れて脱走した者が殆どだ。
そんな激戦の中、伊織も土方から借用している大刀を振るったのだった。
「だって、土方さんの刀ですから。研ぎに出すのも、土方さん、ですよね」
「だろう! おめえが持てる金なんざ、この世にゃあ一銭だってねえんだよ」
「……ちッ」
どうしても金が欲しい、というわけではないが、土方のこの言い方がどうも気に入らない。
金が入ったら、せめて着物くらいは自分で新調しようと考えていたのに。
「ほっほう、舌打ちとはいいご身分だ。怪我ももう完治してんだ、さっさと稽古にでも行ったらどうだ……?」
やや口の端を引き攣らせ、土方は嫌味たっぷりに笑った。
稽古。
つまり、金の無心をする余裕があるなら、佐々木のところにでも行って来い。
という意味である。
「でも、みんな褒賞金が出て、ウハウハしながら遊里に出掛けてるのに……」
そんな中、自分ばかりが真面目に剣術稽古に出掛けるのは、少々面白くない。
「じゃあ、てめぇも遊郭に行きてえのかよ」
「そういう意味じゃないですけど」
憮然として返すと、土方は意地悪く鼻を鳴らす。
「だろうなぁ? おめえが行っても、面白れえことなんざ、一つもねえもんなあ?」
「そういう土方さんは、行かないんですか」
「うるせえ、俺はいいんだよ」
切り替えした途端に、このあしらい様。
些か照れ臭そうに、土方は顔を背けてしまう。
自分のこととなると、すぐに話を逸らすのだ。
詮索を受けるのが嫌なのか、それとも、単に話すのが照れ臭いだけなのか。
このところ、伊織は土方との間に妙な隔たりを感じることが多くなっていた。
何となく、今まで身近に見えていた隊内上層部が、急に不透明になったように思えるのだ。
局長の近藤も、このところは留守がちであったし、土方は土方で、自身の職務には伊織を一切近付けなくなった。
それとなく遠ざけられているような気も、しないでもない。
「……分かりましたよ」
ふう、と一つ吐息して、伊織は立ち上がった。
「剣術の稽古、行ってきますよ」
「ああ、行け行け」
背を向けたまま、土方は手の甲で追い払うように言い捨てる。
と。
「剣の道は険しく厳しく、且つ奥深いぞ!! お前のその言葉を待っていた!!!」
襖を叩き割る勢いで現れたのは、件の佐々木であった。
いやに鼻息荒く、やる気も充満し過ぎて、全身から溢れ出るほどの存在感。
一体何時から、そしてどうして、この場にいたのか。
「……うわー。相変わらず鬱陶しいですね、佐々木さん」
「プ! 迎えが来て良かったじゃねえか」
「フフ……その顔、本当は待ち侘びておったのだろう……このッ、お前! 照れ屋さんめ!」
残暑の頃に、佐々木只三郎の大開放。
目にするだけで気力を削がれる。
厳しい面構えで、佐々木は無理矢理片目を瞑ってみせた。
(きも……)
やはり剣術稽古はやめようか、そう迷った時、土方がやおら顔を上げた。
「何時まで突っ立ってんだ、邪魔だ! 佐々木さん、あんたもさっさと、こいつ連れて出てってくれ!」
「む! そうか、では土方君。祝言にはお主も呼んでやろう!」
「土方さん、私、こんな師匠イヤです」
「ぬううッ!? この私の何が気に入らぬのだっ!!」
「全てです」
「ぬおおお……っ! 何という残酷な事を申すのだお前ッ!?」
「ああーーーっ、もううるせえ!! 出て行け馬鹿共っ!!」
***
半ば追い立てられるように、渋々と副長室を出た伊織。
縁側から表へ降りるその隣には、いやに至近距離で付き纏う佐々木がいる。
真南に昇った太陽も、まだまだ熱い日差しを浴びせ掛けていた。
秋も徐々に近付いている気配はあるものの、それでもまだ、日中は残暑が厳しい。
「さて、では一頭の馬に相乗りで行こうではないか? うふふん」
「……なんで付いてくるんですか、佐々木さん」
「ぬううう!? ど、どういう意味だッ! け、稽古に来るのだろう!?」
「あんまり行きたくないです」
「では何だ、嫁に来るのかっ!? そうか、そうなのだな!?」
「死んでもイヤです」
「むむ、元気がないようだが、どうしたのだ! よもや佐々木失調ではあるまいな!?」
「なんですかそれ」
「なに、お前にとって、この私という栄養分が不足しているのではないか、とな」
「いえ、間に合ってます」
あっさりと返し続け、伊織はふらふらと屯所の出口へと足を向ける。
悉くあしらわれるのにもめげずに、佐々木もしつこくその後に付いて来ていた。
どうしても、稽古に引き摺って行きたい様子だ。
さて、どうやって撒いてやろうかと、あれこれ思案を巡らせていた、そこへ。
「あれ? 原田さんだ」
正面に原田と、永倉の姿を見つけ、伊織は思わず足を止めた。
いや、屯所内なのだから、二人が何処にいようと別段奇妙なことはないのだが。
けれど、どうにも不自然に感じる。
二人がいやに深刻な表情で話し込んでいるから、なのだろうか。
しかし、ここで二人に混じれば、うまく佐々木を撒けるかもしれない。
ちらりと隣を盗み見れば。
「……浮気か?」
じっとり怪訝に疑いの目を向ける、佐々木の顔。
前々から知っていたが、改めて、この人の頭は少しおかしい。
と、そう思わざるを得ないことが、また少し哀しくもあった。
「私は少々あの二人に話がありますので、どうぞ今日のところはお引取り……」
「む、そんな事で騙されはせぬぞ! 私に隠れて不義密通とは許しがたい!!」
「もうあんた帰ってくれ頼むから!」
説得を諦め、急ぎ足で原田・永倉両名の元へ向かう。
が、佐々木も盛大な勘違いを繰り広げながら、執拗に後を追って来た。
「ままま待たんか! くそう、私を捨てるな伊織ッ!!」
「原田さん、永倉さーん! どうかしたんですか、真面目な顔で話し込んで!」
「ぬああん! む、無視ッ!?」
務めて明るく声をかけた伊織に、件の二人の視線が集中する。
それとほぼ同時に、それまで深刻だった二人の顔も、ぐっと歪められた。
「おう、新八。来たぞ、変なのが!」
「あー、高宮と……いたな、変態が」
「なんのお話ですか? 珍しく硬い表情で!」
にっこりと笑いかけても、二人の視線は明らかに伊織の背後に注がれ続け、暫し離れる気配もなかった。
「お主ら、私の小太刀の餌食になりたいと申すか!?」
「何言ってんだ、こいつ」
「ああほら、新八! 見ねえほうがいいぜ!」
「お、おう」
こそこそと遣り取りを交わす、原田と永倉。
これもまた、いつもの歯切れの良さに欠けるようだ。
「どうしたんですか、いつもと様子が違いますよ?」
見上げるほどに長身の原田を窺い、次いで永倉の面持ちを見遣る。
と、漸く原田がこちらに目を向けた。
「いや、何だかよォ、新八が急に変なこと言い出すもんだから……」
「おい、左之助!」
すると永倉も、慌てたように原田を遮る。
平素ならどっしりと構えた風体の永倉も、割合と目が険しさを増しているようだった。
何か、隠し事でもありそうな二人に、伊織がやや首を傾げたところで。
再び背後の頭上から声が降った。
「お主らの話などどうでも良いわ! さあ伊織、もう良かろう! 早くせねば二人のトキメキが薄れてしま……」
「黙れこの好色爺!」
またも気持ちの悪い発言を繰り出した佐々木に、伊織は一言強烈に言い返す。
そこでやっと、目の前の二人にも苦笑が浮かんだ。
「ぶふふッ!! 高宮、おめえもキツイこと言うじゃねーかよ~!」
「ブフッ! …だそうだけど、佐々木さん、あんた高宮に嫌われてんな!」
「ぬぬうッ! 笑われた……! 伊織、お前の佐々木が笑われたぞッ、早く慰めぬか!」
「だから嫌なら帰ってくださいよ」
「……グスッ」
あくまで冷たく撥ね付けると、背後から微かにすすり泣く声。
佐々木が泣いた。
と、それを機に、永倉の顔が急に和らいだのだ。
(? ……微笑ましいんですか、永倉さん……)
不可思議なその反応にやや戸惑いを感じれば、永倉もまた大仰に溜息を吐いた。
「なあ、あんた。最近の局長、どう思う?」
突如問われ、伊織は思わず眉根を寄せる。
どう、とは。
「ええと、局長、ですか。そうですねえ」
近頃外出の多い近藤とは、滅多に顔を合わせることもない。
池田屋以来、その名を上げた新選組の局長として、日々諸藩のお偉方との談合に忙しいのであろう。
そうとは見当がつくのだが。
「俺は気分が悪いな。毎日毎日付き合いだの何だのと言っちゃあフラフラ出歩いてよ」
こちらは以前と変わらず、毎日、血反吐の出る稽古漬けの日々。
語る永倉の表情が、再び険阻になっていくのが見て取れた。
「俺にはどうも、局長ばかりが偉くなったように見えて仕様がねえ」
「うーん、まあなあ。確かに、たまーに顔見たとくりゃあ、妓の匂い振り撒いてんもんなー」
二人から出るその言い分に、伊織はどうとも答えを失った。
事実、それは伊織から見ても否定は出来ないように思うのだ。
余り良くないところへ首を突っ込んでしまったらしい。
「あんたはどう思う」
再度、念を押すような問いを投げ掛ける永倉に、伊織は不意に視線を移ろわせた。
「さあ、私も最近は、あまり局長にはお会いしてませんから……」
この場は曖昧にお茶を濁すのが得策かと思えたのだが、そうと返せば次には原田が詰問する。
「じゃあよぉ、土方さんはどうなんだよ。側にいるんだ、近藤さんに対してどういう了見でいるのかぐれえは分かるだろ」
「う、でも、この頃土方さんも、あんまりそう突っ込んだ話をしてくれないんで……」
ずい、と顔を覗き込む原田に対し、伊織はそれとなく回避を謀る。
と、両名が同時に、大きな落胆の色を浮かべた。
「あんだよ、お小姓のおめえも蚊帳の外ってか?」
「まったく、局長だの副長だの、何なんだ一体。俺らは同志じゃねえのかよ。同志である以上、立場は同等なんじゃねえのかよ」
憤慨も露骨に見せ付ける二人を前に、どんな表情をして良いかのかも判断に困る。
徒に反論して、意図とは逆に憤りを煽っても困るし、かと言って二人の意見に乗じることは、もっと出来ない。
「私も最近、相手にされていないような気がして、寂しいとは思いますけどね」
結局こんな相槌しか捻り出せない我が身が、一層歯痒い。
その後、まだ延々と話の続きそうな二人に、おざなりに暇を告げる以外、思いつくことが出来なかった。
「新選組も、いろいろとあるようだな?」
その場を離れつつ、ふと佐々木が声を低めて言う。
「しかし、お前もあの場で二人に賛同しなかったのは褒めてやろう」
「それはどうも」
「同志といえど、長は必要だ。元々百姓出の近藤が、苦労もせずに諸藩と遣り合っているとは、到底思えぬ」
どうしたことか、急に真面目に話し出す佐々木を、伊織は意外な思いで見上げた。
「そうですよね? 私もそれに同感です。今だって、局長は余程苦労されてるんだと思いますよ」
内実を知らぬが故の、憤懣なのだろう。
永倉の言い分が、全く理解出来ぬわけでも、ないのだが。
また隊内部の雲行きが怪しくなってきたのは、紛れもない現状であった。
重く下駄を鳴らし、伊織は屯所の門へと足を向ける。
と。
「――!」
ふと顔を上げた伊織の視界に、開いた門前の間口に、横切る人影が映った。
「あの人……!」
見間違えるはずもない、あの女。
以前、黒谷からの帰りに出会った、己の姿に酷似した女が、今目の前を過ぎて行ったのだ。
咄嗟に門外へと駆け出て、周囲を見渡す。
だが。
「いない……」
素早く首を巡らすも、その姿を再び捉えることは出来なかった。
たった今過ぎたばかりのその姿は、影も無い。
「伊織! どうした! 突然私を置いて行くとはあんまりではないかッ!」
少々突飛だったその行動に、佐々木も慌ててついてくる。
「今。通りましたよね?」
「? 何がだ?」
「……私にそっくりな、女の人」
呆然と尋ねるが、佐々木は不思議そうに首を傾げるばかり。
真正面を通り過ぎたのに、見ていなかったのだろうか。
立ち往生したまま、伊織は暫し、その過ぎ去った方向を眺めた。
伊織を幕末の時代に呼び寄せたのが、彼女。
彼女に出会う直前、会津藩本陣でも、奇妙なことを言われた。
似ている、と。
そこに、何かの関連があるとしたなら。
そこまで思案し、伊織はくるりと佐々木を仰ぎ見た。
「すみません、佐々木さん!」
「何だ、急に改まりおって」
「これから黒谷に行く用事が出来ました。やはり稽古はまた今度お願いします」
「黒谷? 何だ、では私も……」
「いや、来なくていいです。ていうか、来ないでくださ……」
「それで、何をしに行くのだ?」
と、すっかりついて来る気になっている佐々木の一言で、伊織は口籠った。
そういえば、前回もすんなりとは目通り出来なかったのではなかったか。
佐々木只三郎の実兄、手代木直右衛は、会津藩重役。
「く……! じ、じゃあ、いいですよ。通行証代わりにお供願います」
「つ、通行証……」
酷く不名誉な衝撃を隠せぬ面持ちの佐々木を引き連れ、伊織はその足で、再び会津藩本陣、金戒光明寺へと赴いたのであった。
***
佐々木の存在のお陰もあってか、今回は難なくその門を潜ることが出来た。
今ばかりは、多少感謝もせねばならないだろう。
丁重に叩頭しながら、容保の現れるのを待つ伊織。
無論、佐々木も今ばかりは厳粛な面持ちである。
いつもこうしていてくれれば、伊織としても接し易いように思うのだが。
そう息を吐こうとした頃に、漸く正面から声が返った。
「おお、久しいな! 天晴れであるぞ!」
「殿、意味がわかりませんぞ」
穏やかながら、明るさを感じさせる容保の声。
発言に突っ込むのは、きっと梶原の声だろう。
幾らか日が経ったためか、この殿の調子をすっかり失念していたことに気が付く。
「まあまあ、余も少しそちが気にかかっていたのでな。会えて嬉しい。ささ、面を上げよ! がばっと上げよ!」
「は、ははあ……」
何となく気の抜ける思いで、そろりと正面を向けば。
やはり、そこには満面に微笑んだ容保公が鎮座していた。
そして、傍らにはやはり、梶原が。
「殿にもお変わりないようで、何よりですね、はい……」
伊織の中の容保想像図とは、相当にかけ離れているものの、やはり実物のほうも好感が持ててしまう。
こんな人懐こい笑顔を見せられては、畏まった物言いも出来なくなってしまうではないか。
しかし、携えてきた話題までも、悠長な語らいで終えるわけにはいかない。
「実は、殿と、そして梶原様にお尋ねしたいことが少々」
「うむ、何なりと申せ? でも後で、余の話も聞いてくれ?」
「あ、はあ、私で良ければお聞きしますよ……」
いちいち勢いを圧し折られる感覚を覚えつつ、伊織は漸く本題を打ち明ける。
「殿も、梶原様も、私を誰かに似ている、と仰られましたね」
容保のその目を直視して口火を切れば、一瞬にしてその表情が曇った。
「実は、そのことで余も……」
「会いました。その、私に瓜二つな人に」
単刀直入に言ってしまえば、言葉を紡ぎかけた容保が、声を呑む。
同様に、梶原の顔色もやや青褪めた様子である。
「確かに、凄く似ていました。若い女性です」
二人が言っていたのは、あの人のことではないのか。
そう問うても、眼前の二人は暫し黙したままであった。
沈黙したままに、奇妙そうな眼差しで目配せし合う、容保と、梶原。
その雰囲気が、急速に緊張するのが分かった。
「いや、それは見間違いではないのか?」
不意に伊織に目を向け、確かめる梶原。
梶原も、その涼しげな面持ちをやや硬くしている。
何を根拠に見間違いだ、などと言うのか。
不審を覚えながらも、伊織はもう一言、言い返した。
「暗がりではありましたが、本当に、私そのものでした。見間違うはずがありません!」
「しかし……」
怪訝に見合う二人を前に、伊織は更に詰め寄る。
「お二人は、私をご覧になって、どなたに似ていると仰ったのですか。あの女性ではないのですか?」
その問い掛けから、暫時の沈黙を経て、やっと梶原が声を顰めた。
「我が家中に、高木小十郎というものがおる」
「はい」
伊織が身を乗り出して耳を欹てれば、後を引き継ぐように、容保の声が告げた。
「その高木の娘に、そちは酷似しておるのだ。もう、見たままに、生き写しと言っても過言ではないくらいにな」
何だ。
聞いてみれば、何のことはない。
では、あの女性は、その人で間違いないのだろう。
真相を知り得て、伊織はほっと胸を撫で下ろす。
「……そうですか、お武家の娘さんでしたか」
あの強さも、それで何となく納得してしまうが、それはやや浅はかに過ぎるだろうか。
兎も角、実在するのだ。
二度も神出鬼没な様を見せ付けられ、解せぬ言葉もかけられた。
それだけに少々不気味にも思えていたが、実在するなら一先ずは安堵も出来る。
それと共に表情の弛んだ伊織だったが、話し手の二人は未だ硬い面相を続けている。
「しかしな。会った、というのはやはり思い違いであろうぞ」
「どうしてですか? 私は実際に、窮地を助けられもしたんですよ、その娘さんに」
ならば一度きちんと会いたい、と、そう願い出ようとした。
その寸前。
容保自らが席を立ち、伊織の傍へと歩を進めたのである。
柔らかな風を起こして、間近に膝を折るその姿を、伊織は戸惑いつつ見詰めた。
近くで見れば、息をするのも憚られるような、端麗な面立ち。
その目と目を合わせ、容保は静かに口を開いた。
「その娘は、もう……幾月も前に亡くなっておるのだ」
「――は……?」
我が耳を疑った。
顔に見惚れている場合でない、その発言。
己の身の回りに起こり始めている――否、既にこの時代へ来た時から、事は起こっているのだが――その真相の手掛かりを、確かに今、掴んだと思ったのに。
「そんな、では、私が見たあの人は、誰なんですか!」
つい目元も険しくなる伊織に、容保は困惑したように眉尻を下げる。
その顔に、伊織も少々自省した。
「いえ、その……この世に、そうそう似た人がいるとも思えませんし……」
「余は、そちが嘘を申しているとは思っておらぬ。ただ」
「ただ?」
「その娘が既に亡いのは事実。それは恐らく、他人の空似であろう」
「……そう、なのでしょうか」
些か腑に落ちないながらも、それ以上容保に突っ掛かるわけにもいかない。
いくら神出鬼没な女だからと、まさか幽霊でもあるまいし。
けれど。
(――そういえば)
と、伊織は不意に落胆から覚めた。
――私がこの世にいない今、あなたに死なれちゃ困るんだ。
とは、確か、あの女の言っていた言葉だ。
(この世に、いない……?)
あの時目の前にいた彼女は、そう言った。
この世にいないとは、何かの比喩でも何でもなく、既に亡いという、そういう意味か。
そこまで考えた瞬間、伊織の背筋がぞくりと粟立った。
それと同時に。
「おっ、と!」
と、容保の慌てるような声が傍近くで起こった。
何事かと目を向ければ、容保はやや焦りつつ、その胸元を押さえている。
「どうかなさいましたか、公?」
押さえた胸元を凝視して尋ねると、即座に伊織の脳裏に悪い予感が立ち上る。
不自然に胸を押さえる行為、というのは、何か少々気色が悪いのだ。
たとえ容保のような、容姿端麗な男性でも。
(容保様まで佐々木さんと同族だったら、どうしよう……)
そんな危惧を覚えてしまうのも、己の奇怪な環境のせいであろう。
伊織がそんな疑いを持った、次の瞬間。
見詰めた先の容保の胸元が、妙に膨れ上がったのだ。
「!!?」
目を離せずにいれば、今度はモコモコと蠢き出す始末。
「かかか容保様、何か動いておられますが……!!?」
「ああ、困ったなあ、大人しうしておれと申したのになあ」
ははは、と照れ笑いを浮かべる容保。
その横合いから、梶原もその手元を覗き込んだ。
「殿、お八つの時間なのでは?」
「おお! もうそんな時間であったか! そうか、それは悪いことをしてしまったなあ」
梶原の助言を機に、押し込めた容保の懐が開放されれば。
何か丸っこい、ふわふわの生き物が、ひょっこりと顔を出した。
(!!! 容保様の懐からッ、なんか雛!? ひよこ!!?)
「いやあ、すまぬ。お八つを与えねばならぬので、余はこれで失礼するぞ」
震撼する伊織をまるで気にする様子もなく、容保はヒヨコを抱えてさっさと立ち上がる。
「は、はあ……」
驚きが先に立ち、曖昧に返答するしか出来ない伊織。
畳を擦るように部屋を出て行く、容保の背を見送っていた。
「おお、待たせてすまなかったなー、あっちで殿と一緒にお八つ食べような、ピヨ丸ぅー」
(名前も付けてるーーー!!)
容保の去った、その後。
室内に気まずい空気が流れたのは、言うまでもない。
***
金戒光明寺を後にする伊織を、門まで、と送ってくれたのは、梶原であった。
直に空も茜に染まる時分。
穏やかに流れる涼風に、伊織は一つ大きく息を吸い込んだ。
「ピヨ丸が失礼をしたが、悪く思わんでくれ」
「え? ああ、いえ……。ていうか、容保様は、大丈夫なんですか?」
困り笑いの梶原に、伊織はふと口を滑らせる。
が、頭は大丈夫か、と問わなかっただけ、まだ良いだろう。
何しろ、相手は会津藩主だ。
「まあ、あれも日頃ご疲労の耐えぬ殿の、唯一のお楽しみなのだよ」
「雛の飼育が、ですか」
「うん、そうだな、ある意味会津藩の若君だと思うぞ」
(ヒヨコが……ッ!?)
「私も……」
背後からどんよりと落ち込む佐々木の声が介入し、伊織は漸くその存在を再確認するに至った。
「! …あ、うわ。そういえば佐々木さん、いたんですね」
余りにも大人しすぎたために、すっかり佐々木も一緒だったことを忘れていたのだ。
振り向けば、そこには頬を桜色に染めた、佐々木。
「私も、伊織のヒヨコになりたいのだが……」
容保公の前を離れ、つい神経も弛んだのだろう。
また可笑しな性癖が、首を擡げ始めたらしい。
「おい、伊織殿。何だこの男は? 頭悪いのか?」
(梶原さん、辛辣ぅ!!)
訝しげに佐々木を見る梶原の目は、非常に刺々しい。
「そ、その人、ちょっと変なんです。そっとしておいてあげて下さ……」
「梶原殿、頭が悪いのは私ではなく、会津公であろう!」
「佐々木さんの馬鹿ーーー!! 駄目でしょう言っちゃああァ!!」
仰天して叫ぶも、既に佐々木は断言した後。
すると、梶原もまた酷く考え込むように、俯いて顎を擦った。
「……そう、か? いや、私も常々そうかな、とは……」
「思ってたんですか!!?」
右に左にと、突っ込みが忙しい。
と、やや息切れをした伊織の肩に、梶原が労うように手を乗せた。
「まあな。しかし、あれでいて殿は、思慮深くていらっしゃる。信頼を置いて、間違いないお方だ」
にっこり笑んだ梶原は、やはり快男子的である。
その一言に安堵の息を吐けば、梶原は再び面持ちを暗くした。
「先は言いそびれたが、私もやはり、同じ顔の人間がそう何人もいるとは思えぬ」
紡がれた同意に、伊織は瞬時に眉間を狭める。
「死んだ娘の名は、高木時尾といってな。殿の義姉上様、照姫様に付いておった娘なのだ」
心当たりはあるか、と、梶原が問う。
「高木、時尾?」
その名を、伊織は呆然と聞いた。
無類の新選組好き、そして、会津を故郷に持つ自分が、その名を知らぬはずはなかった。
(あの人が、高木時尾……?)
その人と、自分と、一体何の関係があるというのか。
そもそも、彼女は、本当ならば今も存命でなければならないはず。
実際の歴史では、高木時尾は相当の老齢まで生きることになっているのだ。
それなのに。
今は、既に亡き人。
(どういう、こと?)
些かの混乱すら感じ、伊織は固唾を呑んだ。
そうした伊織の様子を窺うように、梶原が付け加える。
「まさか、とは思うがな。まあ、次に会ったら、確かめて見るといいだろう」
***
呆然としたまま帰り着いた、壬生村の屯所。
その門を潜ろうとした伊織の前に、ふと人影が立った。
一瞬、ぎくりと身を強張らせたが、それが斎藤であったことを知ると、ほっと胸を撫で下ろした。
黒谷を出てから、絶え間なく頭に響く、高木時尾の名。
歴史の通りなら、彼女はこの斎藤の後妻に納まる人物なのだ。
「斎藤さんでしたか。こんな時間からお出かけですか?」
動揺をひた隠しにして声をかければ、斎藤からは特に何の感情の色もない視線が返される。
「お前、昼間に永倉さんと話したか?」
「はい? あ、ええ、少し話はしましたけど」
こちらが質問したのには答えず、斎藤はいつもながらに冷たい面持ちで尋ね返す。
そこで変に逆らっても仕方がないのは目に見えたもので、伊織も平然と答えるのだが。
「……そうか。お前は暫く、永倉さんたちとは距離を置いたほうがいいだろう」
「は? ……って、斎藤さん、何処へっ?」
言うだけ言い置いて、斎藤は伊織の脇を通り過ぎると、さっさと門外へ出てしまう。
(あらら、行っちゃったよ……)
暮れかかった屯所を一目仰ぎ、伊織が奇妙な空気を感じたのは、それから間もなくのことであった。
***
「土方さー……」
真っ直ぐ副長室に向かい、障子を開け放ったところで、伊織は愕然とした。
いつもなら土方の背中があるはずの、文机の前。
そこに、それはいたのだ。
「あ。お帰り」
「!?」
振り向いたそれは、楊枝に刺した沢庵片手に、ひらひらと陽気に手を振る。おまけに文机の上には淹れ立ての茶も揃っている。
あんぐりと開けた口を閉じるのも忘れ、伊織は呆然とそれを眺めた。
「んな……ななななんであんたがここに……」
驚愕と動揺とで、うまく舌の回らない伊織を見上げる、その人。
「殿様は驚いていらした?」
「や、私のほうが驚いて……いや、その前に、なんでここに!」
伊織に生き写しのその人は、満面に微笑む。
全てを見透かしたような、そんな悪戯っぽさすら、垣間見える気がした。
「聞いたんでしょう? 私が高木時尾よ。あんた多分私の生まれ変わりか何かだと思うのよねぇ。ま、簡単だけど、そんなところで理解してもらえれば嬉しいな」
本当に簡単である。
こちらは幕末に来てからこれまで、訳も分からず、ただ生き延びようと死に物狂いだったというのに。
問い詰めてやりたいことは山とある。
が、言いたい事が有りすぎて、何一つ言葉になって出て来ない。
そうして、やっと声になった言葉が。
「ああああんたなぁあ!! なんっでもっと早く出て来ないんだよ!? あんたみたいなのはもっと序盤で登場しとけよぉぉお!!!」
だった。
事情に通じる者のいない心細さが炸裂した瞬間であった。
「まあまあ、そう怒らないで。私なんかココじゃもう死んだことになってるのよ? 可哀想だと思わないの? 本当なら七十五まで生きる予定らしいのに」
「えっ! そうなの!? …ってそれは兎も角! これ、今のこの状況は一体どういう……!」
「あー、ごめん。そういうの一言で説明するの無理。ただねぇ、私がこの世にいないってことは、今の時代にいるはずの人間が一人足りてないってことなのよ。だから、私の役割をさ、代わりにあなたに担って欲しいと思ったんだけど」
あっさりと口にする時尾の声は、至って明朗である。
伊織としては、冗談ではない。
そこまで振り回されてたまるものか。
溜りに溜まった精神的苦労に、伊織の肩は小刻みに憤りを表す。
「だから、新選組にいるよりも、あなたには国許の会津に帰ってもらいたいんだけど」
この上よくもしゃあしゃあと言ってのける時尾に、伊織の憤慨は、頂点に達した。
「んもーーー!!! 私にこれ以上、どうしろって言うんだよアンタァアア!!!」
「おう、おめえ、人の部屋で何叫んでいやがる……」
「!!!? はッ! 土方さん!?」
思いがけずかけられた声に、憤りも潮が引くように覚めた。
振り返れば、たった今部屋に戻ったらしい、土方の怪訝な表情。
「一人で大声出しやがって、とうとうおめえも頭おかしくなりやがったか」
げっそりと見下ろす土方の、一人で、という言葉に、伊織は時尾を見遣った。
だが。
「……き、消えてる……」
「ハァ? おめえも若いくせに耄碌しやがったか……」
ふっと蔑むような吐息が、土方の口元からこぼれた。
「あ、あの女ッ……! 言いたい事言って消えやがってえッ!」
まだまだ聞きたい事は山積していたのに。
一先ず。
これでまた、黒谷へ向かう用事が出来たことだけは、確信できた伊織であった。
【第十四章へ続く】
0
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
晩夏の蝉
紫乃森統子
歴史・時代
当たり前の日々が崩れた、その日があった──。
まだほんの14歳の少年たちの日常を変えたのは、戊辰の戦火であった。
後に二本松少年隊と呼ばれた二本松藩の幼年兵、堀良輔と成田才次郎、木村丈太郎の三人の終着点。
※本作品は昭和16年発行の「二本松少年隊秘話」を主な参考にした史実ベースの創作作品です。
アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!
坪庭 芝特訓
恋愛
女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。
零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。
接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。
零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。
ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。
それに気付き、零児の元から走り去った響季。
そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。
プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。
一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。
夜の街で、大人相手に育った少年。
危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。
その少女達は今や心が離れていた。
ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!
そうだVogue対決だ!
勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!
ひゃだ!それってとってもいいアイデア!
そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。
R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。
読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
検索用キーワード
百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ
土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
赤い鞘
紫乃森統子
歴史・時代
時は幕末。奥州二本松藩に朱鞘を佩いた青年がいた。名を青山泰四郎。小野派一刀流免許皆伝の、自他共に認める厳格者。
そんな泰四郎を幼少から慕う同門の和田悦蔵は柔和で人当たりも良く、泰四郎とは真逆の性格。泰四郎を自らの目標と定め、何かとひっついてくる悦蔵を、泰四郎は疎ましく思いつつも突き放せずにいた。
やがて二本松藩の領土は戊辰戦争の一舞台となり、泰四郎と悦蔵は戦乱の中へと身を投じることとなる…。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
幕末レクイエム―士魂の城よ、散らざる花よ―
馳月基矢
歴史・時代
徳川幕府をやり込めた勢いに乗じ、北進する新政府軍。
新撰組は会津藩と共に、牙を剥く新政府軍を迎え撃つ。
武士の時代、刀の時代は終わりを告げる。
ならば、刀を執る己はどこで滅ぶべきか。
否、ここで滅ぶわけにはいかない。
士魂は花と咲き、決して散らない。
冷徹な戦略眼で時流を見定める新撰組局長、土方歳三。
あやかし狩りの力を持ち、無敵の剣を謳われる斎藤一。
schedule
公開:2019.4.1
連載:2019.4.19-5.1 ( 6:30 & 18:30 )
浅葱色の桜 ―堀川通花屋町下ル
初音
歴史・時代
新選組内外の諜報活動を行う諸士調役兼監察。その頭をつとめるのは、隊内唯一の女隊士だった。
義弟の近藤勇らと上洛して早2年。主人公・さくらの活躍はまだまだ続く……!
『浅葱色の桜』https://www.alphapolis.co.jp/novel/32482980/787215527
の続編となりますが、前作を読んでいなくても大丈夫な作りにはしています。前作未読の方もぜひ。
※時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦組みを推奨しています。行間を詰めてありますので横組みだと読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。
※あくまでフィクションです。実際の人物、事件には関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる