赤い鞘

紫乃森統子

文字の大きさ
上 下
7 / 7

あとがき

しおりを挟む
   あとがき


 どうもこんにちは、紫乃森統子と申します。
 今作が初めての方は、初めまして! 他作品のあとがきで既にお会いしていた方は、お久しぶりです。
 私の故郷でもある二本松藩(現福島県二本松市)の郷土史から拾い上げた「赤鞘の二壮士」をテーマにしたお話なので、殆どの方には馴染みのない人名とか地名ばかりだったかと思いますが、如何でしたでしょうか……。
 赤鞘の二壮士を描いたものですが、主人公は青山泰四郎です。
 泰四郎が右肩負傷して尚、刀を左に持ち替えて奮戦~っていうところを資料で読んで、うっかり惚れてしまったがために書いちゃった作品です。
 当時泰四郎21歳、悦蔵20歳と、若手ではあるけど立派な大人ですから、この作品ほど子どもっぽくはなかったと思われます。
 人物のキャラクターに関しては、いつもの通り私の創作もふんだんに入っていますので、あしからず。

 実を申しますと、この作品、一度完結させた後に、結末を改訂しています。
 というのも、書き始めに私が参考にした郷土史家・紺野先生の記録に「城下で戦死」とあり、また、平島郡三郎氏による「二本松寺院物語」には戊辰戦争を生き抜いていた、と真逆のことが書かれているのを確認したために、初稿ではラストを暈しておりました。

 ところが。
 何とも有り難いことに、その後泰四郎氏のご子孫に当たる方よりご連絡を頂戴し、断片的ではあるもののその後の様子をお伺いすることが叶いました。
 ゆえに、作品のラストもまた修正すべきであろうと思い至った次第です。
 この場をお借りして、お話を伺わせて頂きましたKさまに改めて感謝申し上げます。

 戦によって「負傷」していたはずの泰四郎ですが、戦傷者名簿の中にその名前はありません。
 戦の規模にしては戦傷者名簿の人数はあまりに少ないのですが、それは偏に当時の人々が「負傷を恥じて申し出なかった」ためであろうと考えられます。
 恐らく、泰四郎もそうした中の一人であったのでしょう。

 基本的には史実の流れを変えることなく書き切ったつもりですが、多少の創作もそこはそれ、ご了承ください(笑)
 因みに、幕末の二本松藩というと、「二本松少年隊」くらいなら知ってるよ! という人もいるかもしれないですね。
 ラスト付近でちらっと名もなき少年隊士が登場しています。彼は作中で名前こそ出ていませんが、二本松少年隊に名を連ねる徳田鉄吉をモデルに登場させました。

 また、本作では敵方として登場の川村純義(通称を与十郎)氏、日高壮之丞氏の両名は、共に明治の海軍大将として知られています。

 どうしても会津藩や白虎隊の知名度に隠れて認識されにくい我が藩(笑)ですが、男としては勿論、人間的に見てかっこいい藩士たちの活躍があったんです。
 現地は史蹟なんぞほぼ残っていませんし、他地域に比べて華々しい観光名所があるわけでもありません。
 でも、この地の歴史を知る人には、旧領地に足を踏み入れた途端、そこかしこが史蹟として見えることでしょう。
 二本松の城は焼け落ち、正面の箕輪門も後世復建されたものが建つのみです。
 だけど、当時の建造物が残っていないことこそ、城を枕に戦い抜いた二本松藩の誇りでもあるのではないでしょうか。
 戊辰の役において、確かに東軍は賊軍の汚名を受けはしましたが、新たな世の中になって長い年月を経た今、敵も味方もなく、日本の大転換期に命を懸けて戦ったすべての方々を讃え、また犠牲となられた方々のご冥福をお祈りします。


平成二十四年九月十七日(平成二十五年八月改訂)
紫乃森 統子


 ※本作参考:「二本松寺院物語(平島郡三郎)」「武士道 二本松少年隊の記録(紺野庫治)」「二本松少年隊(紺野庫治/福島中央テレビ)」「絵でみる二本松少年隊(二本松史談会/国書刊行会)」ほか
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

晩夏の蝉

紫乃森統子
歴史・時代
当たり前の日々が崩れた、その日があった──。 まだほんの14歳の少年たちの日常を変えたのは、戊辰の戦火であった。 後に二本松少年隊と呼ばれた二本松藩の幼年兵、堀良輔と成田才次郎、木村丈太郎の三人の終着点。 ※本作品は昭和16年発行の「二本松少年隊秘話」を主な参考にした史実ベースの創作作品です。  

妻の献身~「鬼と天狗」 Spin Off~

篠川翠
歴史・時代
長編の次作である「鬼と天狗」の習作として、書き下ろしてみました。 舞台は幕末の二本松藩。まだ戦火が遠くにあった頃、少しひねくれたところのある武士、大谷鳴海の日常の一コマです。 尚、鳴海は拙作「直違の紋に誓って」でも、主役の剛介を会津に導くナビゲーター役を務めています。

朝敵、まかり通る

伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖! 時は幕末。 薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。 江戸が焦土と化すまであと十日。 江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。 守るは、清水次郎長の子分たち。 迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。 ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。

空蝉

横山美香
歴史・時代
薩摩藩島津家の分家の娘として生まれながら、将軍家御台所となった天璋院篤姫。孝明天皇の妹という高貴な生まれから、第十四代将軍・徳川家定の妻となった和宮親子内親王。 二人の女性と二組の夫婦の恋と人生の物語です。

松前、燃ゆ

澤田慎梧
歴史・時代
【函館戦争のはじまり、松前攻防戦の前後に繰り広げられた一人の武士の苦闘】 鳥羽伏見の戦いに端を発した戊辰戦争。東北の諸大名家が次々に新政府軍に恭順する中、徳川につくか新政府軍につくか、頭を悩ます大名家があった。蝦夷地唯一の大名・松前家である。 これは、一人の武士の目を通して幕末における松前藩の顛末を描いた、歴史のこぼれ話――。 ※本作品は史実を基にしたフィクションです。 ※拙作「夜明けの空を探して」とは別視点による同時期を描いた作品となります。 ※村田小藤太氏は実在する松前の剣客ですが、作者の脚色による部分が大きいものとご理解ください。 ※参考文献:「福島町史」「北海道の口碑伝説」など、多数。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

黄昏の芙蓉

翔子
歴史・時代
本作のあらすじ: 平安の昔、六条町にある呉服問屋の女主として切り盛りしていた・有子は、四人の子供と共に、何不自由なく暮らしていた。 ある日、織物の生地を御所へ献上した折に、時の帝・冷徳天皇に誘拐されてしまい、愛しい子供たちと離れ離れになってしまった。幾度となく抗議をするも聞き届けられず、朝廷側から、店と子供たちを御所が保護する事を条件に出され、有子は泣く泣く後宮に入り帝の妻・更衣となる事を決意した。 御所では、信頼出来る御付きの女官・勾当内侍、帝の中宮・藤壺の宮と出会い、次第に、女性だらけの後宮生活に慣れて行った。ところがそのうち、中宮付きの乳母・藤小路から様々な嫌がらせを受けるなど、徐々に波乱な後宮生活を迎える事になって行く。 ※ずいぶん前に書いた小説です。稚拙な文章で申し訳ございませんが、初心の頃を忘れないために修正を加えるつもりも無いことをご了承ください。

淡き河、流るるままに

糸冬
歴史・時代
天正八年(一五八〇年)、播磨国三木城において、二年近くに及んだ羽柴秀吉率いる織田勢の厳重な包囲の末、別所家は当主・別所長治の自刃により滅んだ。 その家臣と家族の多くが居場所を失い、他国へと流浪した。 時は流れて慶長五年(一六〇〇年)。 徳川家康が会津の上杉征伐に乗り出す不穏な情勢の中、淡河次郎は、讃岐国坂出にて、小さな寺の食客として逼塞していた。 彼の父は、淡河定範。かつて別所の重臣として、淡河城にて織田の軍勢を雌馬をけしかける奇策で退けて一矢報いた武勇の士である。 肩身の狭い暮らしを余儀なくされている次郎のもとに、「別所長治の遺児」を称する僧形の若者・別所源兵衛が姿を見せる。 福島正則の元に馳せ参じるという源兵衛に説かれ、次郎は武士として世に出る覚悟を固める。 別所家、そして淡河家の再興を賭けた、世に知られざる男たちの物語が動き出す。

処理中です...