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五.御城下の戦
しおりを挟む深手を負った体には、城までの道のりは至極困難なものだった。
本来ならば、休み無く行けば半日と掛からずにたどり着ける距離だ。
だが、街道に出るのは愚か、山中の間道でさえ堂々と行くには危険が伴うのである。
もしも今、この状態で敵に出会せば、勝てる自信はない。
空にはまだ残照が漂っているはずだが、わざと間道を外れて木々の深い道無き道をゆく泰四郎の周囲には、既に宵闇が満ちていた。
空に月や星が出ているのか否かさえも判らない。
人の気配は無く、己の荒い息遣いだけが風と森の音に混じった。
山中には、日中に立ち上った草いきれの残り香。
乱れた息を整えようと深く息を吸い込めば、微かな鉄の匂いが鼻を突く。
己の血と、悦蔵の流した血、そして、誰のものとも知れぬ返り血の匂いだった。
***
夜半には、一面に墨を流したような暗闇の中を歩かなければならなかった。
些か血を流し過ぎたせいか時折眩暈に襲われながらも、泰四郎は歩みを止めずに一路二本松の城下を目指す。
負傷のためか、或いは単に深い夜陰のためなのか、心成し視界が薄ぼんやりとしているのも感じていた。
ほぼ壊滅状態にまで追い込まれた激戦から間もなく、足場の悪い夜の山中を手探りで行かねばならないことが、泰四郎の疲労に拍車をかける。
銃創の疼きは依然として消えず、執拗に泰四郎の身体を蝕んだ。
――城下に程近い糠沢上之内が戦場となった。
奥州街道側の守備が未だ守られているかどうかは知る由も無いが、遅かれ早かれ、軍事総裁・丹羽丹波率いる二本松主力軍も城下へ引き揚げざるを得ない状況に陥るだろう。
今の泰四郎は、忌々しいほどに敵の強さを痛感している。
あたかも張りぼて人形のようにばたばたと斃された大勢の味方の屍を踏み越えて、ここにいるのだ。
敵が間もなく城下に迫るであろうことは、火を見るよりも明らかだった。
敵よりも早く、城下に辿り着かねばならない。
悦蔵を弔った後、泰四郎の念頭に浮かんだのは次に差し迫った二本松城下の守備であったのだ。
死に至らないまでも重傷を負った身体、長い緊張、そして徐々に襲い来る空腹と乾き。
山中は充分な湿気があるというのに、喉は内側から罅割れそうなほどだ。
泰四郎は最も傷の深い右肩を庇いながら、夜通し山中を歩き通した。
***
七月二十七日未明。最後には身体を引き摺るようにして、泰四郎は漸く二本松城下に入った。
糠沢から山中を突っ切って来たために、既に体は衰憊の色濃い。
足は愚か、まるで体中の感覚が麻痺したかのように五体の全てが覚束ない。
それでもようよう山を抜け、開けた視界の中に朝靄漂う阿武隈河が見えると、泰四郎は安堵の息をつき、そして僅かな憂いを覚えた。
この河を越えれば、城下だ。
だが、渡し舟を出す船頭の姿は無く、小さな船が数艘放置されているのみ。
白々とした薄藍色の暁闇の中、ひぃんと静寂が聞こえるようだった。
人影がないのは、此処が日の出前の町外れだから、というばかりではない。
恐らく民は皆、家を捨てて城下を離れたのだろう。
ここが戦場となることは、最早避けられない。
それでも士たる者たちは城と主君がある限り、如何に無謀と知りながらもそれを守らんと戦うだろう。
悦蔵とともに帰り着くことが叶わなかったのは、彼にとって幸いなことだったと思うべきなのか。
生き残ったばかりに、己にはもう一つの死地が待ち構えている。
城下での戦も、きっと上之内での戦とそう大差はあるまい。
二本松の主力部隊がいくら束になって守備しようとも、敵の兵力とはその軍備からして雲泥の差があるのだ。
泰四郎は、これからこの地に訪れるであろう惨状を思い、ふと目を伏せた。
その伏せた視界に、自らの手許がゆらりと映る。
そこには拭いきれない血糊と膏がこびり付いた、自らの得物。激しく撓んだ刀身が、斬り捨てた敵兵の多さを物語る。
最早使い物にはならないだろう。
(刀、か)
それは武士たる者の魂。
捨てても捨てきれぬ、自らの命。
それは歪な姿となった今も確かな鈍色を放っていた。
そこで泰四郎は、漸くあることに気が付いた。
「――鞘が」
どこで落としたものか、腰に差していたはずの朱塗りの鞘が無くなっていた。
混戦の最中に落としたのか、それとも、城下へ向かう山中で気付かずに落としたのか。
どちらにしても、上之内の戦からこれまで、腰から鞘の重みが消えたことにすら気付けないほど、余裕を欠いていたらしい。
手許に残るのは、還るべきところを失った一振りの刀だけ。
それがまるで、自分自身のようだと泰四郎は思った。
彼誰時の靄に煙る、阿武隈河のほとり。
泰四郎はふと、今歩いてきたばかりの背後を振り返ったが、そこには誰の姿もない。
森の深い茂みの中から、今にも息せき切って追い掛けて来るような気がしたが、やはり泰四郎の後を追ってくる者はいなかった。
***
阿武隈の急流の中に小舟を漕ぎ出し、渾身の力をもって対岸へ渡ると、既に此処高田口の守備についていた味方の一隊と巡り会った。
泰四郎はそこで僅かな兵糧を分けて貰い、漸く空腹を凌いだのである。凌いだとは言っても、当然充分な量ではない。味方も必要最低限の蓄えしか携帯してはいないのだ。
先に退却した樽井も、どうやらこの高田口を通過して城下に帰り着いているらしい。
ならば既に上之内での大敗の報も城に届いていることだろう。
樽井隊がほぼ全滅の憂き目を見、生き残った者はごく僅かだということも、高田口の守備兵は知っていた。
「青山。おまえ、酷い傷じゃないか。銃創だな、手当をしたほうが良いぞ」
「ああ。だが一刻も早く光現寺に着きたい。手当はそこでする」
城下の砦はまだいずれも無事か、と問えば、守備兵は強く頷いた。
「どの入口もまだ無事だが、いつ敵が迫ってもおかしくない」
そう言うところを見ると、やはり奥州街道沿いを転戦していた本隊も、押されに押されているのだろう。
城下へは白河城奪還戦以来、敗報続きだという。
「樽井隊の生き残りは、おまえの後にもまだ居そうか?」
守備兵は、敗残の味方を敵影と見違えた誤射を懸念して、泰四郎に尋ねる。
泰四郎はその瞬間、思わず眼裏に悦蔵の顔を浮かべてほんの数拍押し黙ったが、やがて静かに首を左右に振った。
自らの手でその遺体を弔ってもまだ、心のいずこかが悦蔵の死を頑なに拒んでいるようだった。
「――いや、恐らく俺で最後だろう」
***
城下、光現寺。
そこは、隊長・樽井弥五左衛門の示した約束の場所であった。
泰四郎は高田口を後にすると、行く手を遮るように横たわる小高い丘陵地帯を迂回して、広がる稲田の畦道を抜けた。
稲は徐々に項垂れはじめたものも多いが、刈り取るにはまだ少々早い頃だろう。
光現寺の境内へと続く石段は、高田口からの道が奥州街道に交わる、ほんの手前にある。
泰四郎は高田口から城下へと入り、竹ノ内を過ぎ、そして亀谷平に辿り着いた。
このあたりにまで来ると、逃げずに家に留まる町人たちの姿がちらほらと見られるが、彼らも間もなく城下を後にしようという者たちだ。彼らの出で立ちと倉皇振りを見れば、それは自ずと知れることだった。
ある一家は財産を丸ごと持ち出そうと、大八車に荷を山と積み、ある老人は名残惜しそうにしながら、小さな荷物を手にとぼとぼと歩く。まだ若そうなある母親は、風呂敷包みを一つ背負い、片手に幼い子どもの手を引いていた。
各々が、散り散りに逃げていく。
泰四郎は道の端で足を止め、一家が大八車に家財を乗せて慌しく立ち退いていく様をぼうっと眺めた。
すれ違い様、一家の主らしき初老の男が、道端の泰四郎に気付いて気まずそうに会釈し、足早に去っていく。
町屋の者だろうが、戦場から舞い戻った武士の姿に、何か胸に痞えるものでも感じたのだろう。
まるで、逃げていくことを恥じているかのようだ。
武士なら、戦から逃げることは確かに恥だろう。だが、女子どもや町屋の者が戦を逃れるのは至極当然のことで、恥でも何でもない。
彼が恥と感じるのは、恐らく、故郷を捨てて出奔することにあるのだろう。
逃れ行く人々は、まだ敵の手が及ばない北を目指して城下を出ていく。
泰四郎はその流れに逆らうようにして、再び城下の内へ向けて歩み出した。
***
「泰四郎さん……!」
境内に上ってすぐ、声変わりをして間もない少年の声がした。
秋も近しとはいえ、境内の緑はまだ匂い立つような瑞々しさを湛えている。
暁の曙光は次第に強まり、境内を明々と照らし出していた。
朝を迎えたばかりの約束の地には、疎らながらも樽井隊の生存者の姿がある。
境内の奥まったところに木造ながらに堅牢な本堂が鎮座している。
泰四郎はその階に腰を下ろして項垂れる人物に目を留めると、ふと泣きたくなるのを堪えて一歩踏み出した。
「樽井、隊長――」
「隊長! 泰四郎さんが……!」
再び少年の声がする。
その声で樽井は漸く、項垂れていた首を擡げた。
泰四郎の視線の先で、疲弊の面持ちをした樽井のそれが、見る間に歓喜の色を帯びる。
だが、泰四郎が現れたことへの欣快と喫驚とが同時に込み上げたのか、樽井の表情はすぐさま今にも崩れそうなほどに歪められた。
「戻ったか、青山」
「遅く、なりました」
樽井を先頭に、敗走してきた仲間たちが次々と泰四郎に駆け寄る。無論、中には傷が深く、退却こそ叶えど既に身体の自由が利かない者もある。
そういう者も含めて、今この場に再び集ったのは、ざっと見ても二十名にも満たないだろう。
二百近くもいたはずの隊が、たった一度の銃撃戦でここまで数を減らそうとは――。
泰四郎は俄かに眩暈を覚えた。
「青山。戻ったのは、おまえだけか。悦蔵は――」
樽井は荒々しく泰四郎の肩に掴みかかると、充血して赤くなったその双眸で泰四郎の目を覗き込む。
瞬間、泰四郎は言葉に詰まった。
悦蔵の、最期の容相が瞼に浮かぶ。
不意に視界が潤み、泰四郎は息を止めて漸く涙を呑んだ。
それでも言葉は出てこず、ただ首を左右に振ることで悦蔵の死を伝えるより他になかった。
泰四郎の様子から全てを察したのか、肩を掴んでいた樽井の手が力なく滑り落ちる。
「……そうか」
「…………」
「あいつは、死んだのか」
茫洋として抑揚のない樽井の声に、またぞろ溢れた涙を、泰四郎は再度呑み込むことは出来なかった。
***
秋も近いとはいえ、まだ僅かに蝉の声が残り、この年は珍しく梅雨も完全に明けておらずに未だ長引いていた。
からりと晴れる日はごく少なく、雨の多い年だ。
それでも境内の其処彼処からは、蝉の声が聴こえてくる。真夏の喧しく暑苦しい声とは違い、晩夏を告げる蝉の少し音の高い声だ。
この日、二本松の城下には街道からの入口を警固せんが為、各所に守備隊を配置した。
城中では果て無き軍儀が開かれているようで、隊長の樽井も指示を仰ぐために早朝から登城したまま、未だ戻っていない。
他に逃れてきた藩士たちと同様に、泰四郎もまた光現寺の境内を借りて簡易的に傷の処置を施した。僅かながらも食事をし、水を飲んで渇きを癒す。
傷は幸いにも浅いものばかりだったが、右肩の傷だけは深く、処置を終えてもやはり右腕は上がらなかった。
左腕だけでこれからの戦に臨まねばならないことに些かの不安を抱き、だが同時に、それも己の定めなのだろう、と、半ば諦めに似た思いも胸を掠めた。
本堂の太い柱に身を預け、泰四郎は呆然と中空を仰ぐ。
重厚な庇の向うに、青空が覗いている。
戦雲立ち込める状況とは裏腹に、今日の空には晴れ間が出ていた。
雲も多いが日差しはなかなかに厳しく、夜間に漂っていた秋の気配を押し返すように、蒸し暑さを助長する。
湿った暑さの中では、余計に体力も消耗しようというものだ。
激戦を潜り抜けた仲間は皆、今以上に体力を失わぬよう、思い思いに休息を取っていた。
誰も皆、無口だった。
光現寺に集った僅かな兵卒は、樽井が戻ればまたすぐに陣地へ駆り出される事だろう。
無論、泰四郎はそれに従うつもりでいる。
刀を収める場所は、もう失ってしまったのだ。
刀は既になまくらだが、それを砥ぎに出す場所も暇もなければ、代わりの刀もない。
敵は銃と砲とで攻めてくるだろうが、藩には最早武器弾薬の余裕はないものと思われた。
元々、軍備は開戦前から明らかに不足していたのだ。
大砲も僅か数門に過ぎず、勢いに乗った強敵を邀撃するには心許ない装備。
そこに止めを刺すかのように、軍事総裁率いる藩の主力軍本隊は未だ城下に帰らなかった。
主力部隊が帰藩するのと、敵軍が襲来するのと、一体どちらが先か――。
ふと思い巡らせてみて、泰四郎は項垂れた。
たとえ主力部隊が城下戦に間に合ったとしても、この城下で惨劇が繰り広げられることに変わりはないだろう。
数多の朋輩の屍が地を埋め尽くした、上之内での戦のように。
否、今度の舞台は上之内のような辺境ではない。
奥州二本松藩、丹羽家十万石の牙城そのものを掛けた戦なのだ。敵も生半可な攻め方をしては来ないはずだった。そして、二本松藩側も死力を尽くす戦いになるだろう。
城下戦は、上之内以上に凄惨な様が広がるに違いない。
だが、そうと知った上でも、何故か二度目の戦闘が恐ろしいとは思わなかった。
泰四郎は、柱を背にしたその更に向こう側に、人の近付く気配で顔を上げた。
半ば振り返ると、その視界の隅にまだあどけなさの残る顔が見える。
光現寺に辿り着いた時点でその無事を知り得ながら、今までろくに会話もなかった少年だ。
「定助か」
定助に呼ばれるよりも早く、泰四郎は自ら声を掛けた。
見たところ、定助には目立った外傷もない。
確かに泰四郎や悦蔵、樽井によって守られていたとはいえ、敵弾の一つも受けずに戦地を抜け出たことは奇跡に近い。
定助は名を呼ばれた後も、暫く居た堪れない様子で所在なく佇んでいたが、やがて意を決したかのように泰四郎の隣に歩み寄った。
何かを言いたげだが、定助の声はなかなか用件を告げない。
それに苛立ったわけではなかったが、泰四郎は胡坐を掻いたまま、「座れ」と自らの傍らに手招きした。
すると定助は、まるでこれから叱責されることを恐れる童のような顔で、神妙に泰四郎の隣に膝を折る。
「あの……」
「ああ」
「…………」
「なんだ?」
何を躊躇しているのかと訝しく思い、泰四郎は漸く、俯いて座る定助の顔を覗き込んだ。
「……おい、何故泣く?」
煮え切らない態度と思っていた定助のそれは、咽び泣くのを精一杯堪えるものだった。
僅かに面食らったものの、年少者に泣かれることが日常茶飯事でもある泰四郎は、またか、と多少嘆息するのみだ。
定助が何を理由に泣くのかが分からず、泰四郎は定助の言葉を待った。
或いは悦蔵の死を悼んで泣くのかとも考えたが、悦蔵の訃報を伝えたのは今朝だ。哀悼には些か間合いがずれている。
「ありがとう、ございました」
定助は肩を震わせ、蚊の鳴くような声で言った。
泰四郎は一瞬、何のことかと眉を顰めたが、それが上之内での撤退援護に対する礼なのだと、間もなく気付いた。
「泰四郎さんと和田さんがいなかったら、きっと俺、あそこで死んでいました」
「……別に、おまえに礼を言われるようなことじゃない。実際おまえを生き延びさせたのは、俺でも悦蔵でもない。樽井隊長だ」
泰四郎は自ら口に上らせながら、改めてそうだと気が付いた。
何のために斬り込んだのか。
それは、前線に取り残された仲間の少年たちを助けるため――
いや、それは違う、と泰四郎は静かに目を伏せた。
本当は、自分も一刻も早く引き揚げたかったはずだ。
より年若の者を見捨てて行けば、自らの汚点になる。
あの場にもしも、悦蔵という存在がなかったなら、あのまま我先にと退却していたかもしれない。
己自身が悦蔵よりも武勇に富んでいると、尚も誇示したいがために斬り込んだのではないのか。
生死を分かつ窮地にありながら、それでも矜持を捨て切れなかった。
ただ、それだけだったのだ。
「俺は、おまえを助けてなどいない」
声音が、知らずと冷たくなった。
定助を突き放す意味の冷たさではなかったが、定助にはそのように聞こえただろう。
だが、定助は萎縮した様子もなく、泰四郎の傍らで俯いたまま、やや強く首を左右に振った。
「もし、泰四郎さんにそのつもりがなかったとしても、俺は助けられたと思っています。事実、あの時泰四郎さんや和田さんがいなかったら、きっと俺は我を失ったまま流れ弾に当たっていました」
「……なら、礼は悦蔵に言ってやれ」
あくまでも、自分は礼を言われる筋合いはないと、泰四郎は静かに突っ撥ねた。
「あいつは、死に際にもおまえの安否を気にかけていた」
「――俺の、せい……です」
今にも掻き消えそうな声で、定助は言った。
そこで漸く、泰四郎は傍らの定助に目を向ける。
何が、と問うよりも一寸早く、定助は酷く嗚咽を上げはじめた。
「俺がもっと早く退却していれば……!」
定助の口振りはまるで、悦蔵の死が己自身の責任だとでも言うかのようだ。
あの時、定助ひとりが早々に退却を始めていたとしても、泰四郎と悦蔵が斬り込まずに済んだかどうかは分からない。
退却命令に従わず、尚も銃撃戦をやめなかった者は、定助以外にもいたのだから。
悦蔵の死は、定助の責任ではない。
「あいつは、戦の最中で死んだんだ。それは誰のせいでもない」
独り言のように言い、泰四郎は玉砂利の敷かれた境内を眺めた。
まだ、太陽の軌道は高い。
本堂の庇の端から差す陽光の眩しさに、泰四郎は微かに目を細めた。
***
樽井が光現寺に戻ったのは、日が中天を過ぎて間もなくであった。
御堂の中に入った樽井を見ると、泰四郎は真っ先に声をかける。
すると同時に、その顔色が酷く曇っていることに気付いた。
「樽井隊長、軍議は……?」
何となくその曇り顔が伝染し、泰四郎も思わず、訊きながら眉根を顰める。
「――青山。おまえは、まだいけるか」
まだ、いけるか。
その問いは、再び戦場を駆ける力があるか、というものに他ならない。
軍議がどのような結果に落ち着き、樽井にどんな指示が下ったのかは、推して知るべしというところだろう。
無論のこと、泰四郎はそれを察して口を引き結ぶと、一つ頷いた。
***
生きて城下に帰り着いた樽井隊の者は、わずかに十七名。
敵を迎え撃つには、あまりに心許ない数だった。
当然、これでは小隊にすら成り得ない。
城下に帰り着いた他の部隊も、殆どが負傷兵を数多抱えており、戦死者も相当数に上る。
少ない兵で、幾つもの要衝を守備しなければならないのだ。当初の部隊編成は最早意味を成さなくなり、再編成を余儀なくされた。
「まだ戦える者は、俺と共に供中口へ来い」
樽井は光現寺に居合わせる部下たちにそう呼びかける。
「我が部隊は、三浦権太夫殿の率いる農兵隊並びに朝河八太夫殿の大砲方と共に、供中口の要害死守を命ぜられた。高田口、大壇口、龍泉寺口にも各銃士隊長率いる部隊が布陣することになっている」
樽井が軍議の要点を口早に報じる傍ら、本堂に集まった者たちからは、動揺にも近いさざめきが起こる。
無理もなかった。
今は戦友とも呼べる者たちの、その凄惨な最期を怒涛の如く目の当たりにして、まだ間もないのだ。
元より弱腰の者であろうと、頑強な精神の持ち主であろうと、敵弾は嘲笑も称賛もなく平等に襲い来るのである。
上之内で負傷し、からがら逃げ帰ってきた者にとっては、樽井が持ち帰った軍議の結果は絶望にも等しい衝撃だったに違いない。
そんな部下たちの士気の低下は、樽井も身に沁みて感じているはずだった。
だが、樽井も重臣ではありながら、軍議によって決定された事には一隊長として従わざるを得ない。
樽井の面持ちにも、やや苦渋の色が浮かんでいた。
「俺は行きます」
誰もが尻込みする中、泰四郎の声だけが揺るぎなかった。満場は静まり、その視線が泰四郎へと一斉に注がれる。
「俺は一人でも征く。臆した者は城下を離れろ。敵は、一兵卒の戦意の有無など考えてはくれないぞ」
言って、一様に凝然として泰四郎を見る仲間へ一瞥した。
じっと泰四郎を見詰める樽井が、ふと破顔した。
「青山の言う通りだ。いずれここも戦地となろう。傷を負い戦えぬ者、戦う意志のない者は、この場から去るがいい」
少なからず狼狽する者たちが、互いの出方を窺うように顔を見合わせる。
だが、樽井は構わず止めの一言を告げた。
「俺が退けと言うまで戦える者だけ、共に来い」
***
二十八日も正午を過ぎると、樽井隊は兵力の補填を経て供中口方面へ布陣した。
阿武隈川の渡河口には、三浦権太夫率いる農兵部隊。
眼前に阿武隈川を見渡す高台に、朝河八太夫の大砲方。
樽井隊は朝河隊と対を成すようにして、反対側の高台に陣を置くこととなる。
城下へはこの峠を越えて行かねばならず、渡河口が破られてもここで挟み撃ちにする策であった。
陣地には急遽、城下から掻き集めた畳二百畳ほどで胸壁を築いて、一応の体裁を整えたが、如何せん半日足らずでの急ごしらえだ。上之内に築いた大掛かりな胸壁のようにはいかない。
あの胸壁を盾にしても、惨敗だったというのに。
光現寺から再度出陣に応じて来た者は、泰四郎のほかにも幾人かあったが、心許ない胸壁によぎる思いは、皆同じであっただろう。
使い古した畳の胸壁など、敵の砲弾の前には何の役にも立つまい、と。
泰四郎は、眼下の河川を一望する。
その清かなせせらぎの音は流石にここまで届きはしない。だが、北へ流れ行く水面の移ろいは、普段と変わりなく眺めることが出来た。
いつ敵が攻めて来ても不思議はなく、陣中は緊迫した状況だというのに、泰四郎の胸中は何故か和いでいた。
同じく陣地に留まる兵卒たちは、皆一様に戦々恐々とした気配を纏い、勇み立つ者の姿は目にも久しく見ていない。
そんな中には話しかけてくる者もおらず、泰四郎は築いたばかりの胸壁に凭れて、遠く入相の川面を見るとはなしに眺めるのみだった。
悦蔵がいなければ、ろくに言葉を交わす相手さえいない。気安い仲と呼べる者は、悦蔵を除いて他になかったことを、今更に実感する。そしてそれを、初めて寂しいと思った。
以前はその悦蔵をも、頑ななまでに拒もうとしていたのに。
悦蔵の生前、良い関係を築けていたのかどうかは分からない。仲が良いように見えていたのは外面だけで、実際には心を許し合っていたわけではなかったのだから。
だが、悦蔵に後悔はなかっただろう。常に真っ向から接してきた、悦蔵には。
後悔は、この身にばかり降り積もる――。
今ここに悦蔵が生きていたなら、この陣地の構えの脆さをどう笑っただろう。
満身創痍で再び戦渦に飛び込もうとする皆を、どう励ましただろう。
考えて詮無い事だとは知りながら、胸を去来するのは悦蔵のことばかりだった。
「青山、そいつはもう斬れんだろう」
不意に肩をぽん、と叩かれ、泰四郎は咄嗟に思慮を振り払う。
話しかけてくる者などいないだろうと思われたが、樽井だけは違っていたらしい。
樽井は莞爾とした笑みを浮かべて、下生えの上に腰を下ろすと、泰四郎に肩を並べた。
泰四郎も体躯は大柄なほうだが、それよりもまだ樽井のほうが大きく、肩も泰四郎のそれより少々高い位置にある。
身に着けた具足のために少々動作が大きくなりがちな樽井が、やおら小脇から抱え出したのは、一振りの大刀。
見事な一振りを手渡され、突然のことに思わず泰四郎は反射的に受け取ってしまった。
「………」
手中にずしりと重い、黒塗りの鞘に収まった大刀。
ほんの数拍の後、泰四郎は抜き身を見ることもなく、大刀を樽井の手へ返した。
「申し訳ありませんが……、これは受け取れません」
「何故だ? まさか、その大刀で敵に挑むつもりか?」
樽井の面持ちが強張った。
「おまえの得物は、もう人を斬る事は出来んぞ」
「分かっています。ですが――」
泰四郎は、激戦を潜り抜けた愛刀を左に持ってためつ眇めつする。右肩は、やはりそうすぐには剣を扱えるほどに回復してはくれなかったのだ。
「俺は、これで戦わなきゃならない。……いえ、こいつと命運を共にしたいんです」
「しかし、それではいざという時に……」
「俺は、鞘を失くしました。こいつの、唯一無二のともがらを」
***
敵襲は、翌早朝のことだった。
何時になく深い霧の立ち込める朝で、数間先の人間の顔が白く霞むほどに視界を奪われた。
敵は、この霧を切り裂くようにして、阿武隈川の対岸から大筒を放ったのである。
これが二本松城下戦で最初の砲撃であった。
敵の進軍してきた方角から見ても、泰四郎らが警固していた三春藩との国境付近を通過してきた部隊だろう。
砲声に続き、小銃と思われる乾いた音が乱れ飛ぶのが、僅かな余韻を持って聞こえる。
間違いなく、それは眼前の阿武隈河畔からのものだった。
「全員、迎撃の用意だ。渡河口守備はそう長く持たぬかもしれん」
即刻指示を下した樽井の声は、冷静且つ淡々としていた。
だが、それに反して、下知を受けたその場の全員が瞬時に身を強張らせ、固唾を呑むのが聞こえるようだった。
既に腰が引けている。
「上之内で、俺は既に死んだに等しい。どうせ朋輩の死の上に、僅かに長らえた命だ。惜しむこたぁねぇな」
樽井が、にやりと笑った。
指揮官としての、鹿爪らしい物言いは既に消えていた。これが最後と覚悟を決めているのだろう。その志気が目に見えるような気さえした。
***
間もなく供中口が突破され、樽井隊と朝河隊の待ち構える愛宕山の峠道を、隊伍を組んで登ってくる数多の黒い影が見え始めた。
霧は、まだ晴れない。
たゆたうような白い霧の流れの中に、敵影が向かってくる。
遠くは米粒のように小さく薄い影も、愛宕山の陣へ切迫するにつれて、肉眼に見える数は次第に増えた。
「愈々か」
誰かが噛み潰した声を上げた。
すると、泰四郎の傍らに息を潜めていた樽井が、やおら立ち上がり、より丘陵地の高みへと足音を忍ばせて移動する。
何処へ、と問おうとして、泰四郎は口を噤んだ。
斜面の上を仰げば、樽井の向かう先は自ずと知れたからだ。
「大筒……」
泰四郎が呟くのと、樽井が砲台に辿り着くのとはほぼ同時であった。
先制攻撃を仕掛けるに、大筒を使うのだろう。
敵の接近を待ち、間合いを計る。
敵の進行速度がいやに遅く感じられるのは、恐らくこの霧と、緊迫感のせいだろう。
眼下の敵影が漸く大筒の飛距離に入り、樽井の采配を持つ手がすっと真上に伸ばされた。
「大筒、用意」
未だ潜めた命令の声に、打ち手は砲台に弾薬を込め、着火の態勢をとる。
砲手以外の者たちも、既に胸壁の影に身を潜め、各々が小銃や火縄銃を構えて待つ。
泰四郎も同様だった。
陣の真下を通る敵の隊列に単身斬り込んで行きたくなる衝動を抑え、新たに宛がわれていた火縄銃を構える。
そして、待った。
「撃てっ」
短い攻撃命令に、大筒はその身をも割り裂こうかといわんばかりの轟音を立てた。
近付く隊列の、恐らくは先頭辺りに命中したかに見えた。
すると、朝河隊の陣営からも砲弾が撃ち込まれ、霧は瞬く間に爆風によって晴れていく。
幸いにも、陣地には目隠しとなる雑木が多く、峠道に面して急傾斜なため、慌てて反撃態勢を取り出した敵の攻撃も届き難い。
「小銃休むな、撃て! 敵に反撃の隙を与えるな!」
敵に、銃を構える暇も与えないほどに、砲と銃とで狙撃する。
絶え間なく耳に入る銃声や声は数限りなく、つい早暁までは静寂そのものだった場所とは思い難い騒音の渦となっていた。
敵も新式銃で対抗する手を緩めず、隊列後方からは数門の大筒が、黒々とした砲口をこちらへ向けている。
「樽井隊長、大筒です!」
あれが陣地に命中すれば、逆に一網打尽の返り討ちに遭ってしまう。
味方の誰かが、臆したように声を張り上げた。
敵の大砲でまたも壊滅かと、絶えず火縄の手順を繰り返していた泰四郎も僅かに危惧を覚えた。
が、それは今は杞憂に終わる。
大筒の飛距離は、然程延びるものではない。敵の砲門は、未だ離れ過ぎていたのだ。
だが、二本松藩側の優勢かと思われたのも束の間。
雨霰と銃撃を加えることが出来たのも、攻撃開始からほんの僅かの間だけだった。
朝霧で湿気を含んだか、火縄銃は火の付きが悪く、あまつさえ、二本松藩側の武器といえばこの火縄銃が主流なのである。
敵は瞬く間に態勢を立て直し、峠道の両側を挟む丘陵地の、その屹立とした斜面を、攀じ登って反撃に出始める。
這い登ってくる敵を斜面の上から撃ち落とすが、敵兵の数は一向に減ることもなく、寧ろ火縄の補填がその数についてゆかずに敵は益々陣地に迫った。
「撃て! 撃ち落せっ! 大筒は速射だ!」
「駄目です、間に合いません……!」
樽井の指示にも焦りが滲み、砲手の声は焦眉の急に最早叫合そのものとなっている。
敵の攻撃が陣営に届き始め、陣営に築かれた簡素な胸壁を突き破る。
二重三重に括り付けた畳は、敵弾の勢いに負け、千切れた藺草が無数に飛散した。
胸壁と呼ぶには、あまりに脆弱な代物だった。
対面の愛宕山斜面に、敵の砲弾が撃ち込まれたのは、その直後だった。
地鳴りと地響きが轟き、足元からその衝撃が伝わる。
爆風に乗った土砂の飛礫は樽井陣営にも降り注ぎ、バラバラと音を立てて具足に叩きつけられた。
樽井陣営からは、驚く声すら上がらなかった。
敵の放つ銃砲の威力は、こちらとは比べるまでもなく圧倒的であった。
愛宕に布陣していた朝河隊は、砲撃の直後に蜘蛛の子を散らすように解散した。恐らく、隊長である朝河が斃れたか、瀕死の重傷を負ったのであろう。
やがて爆風で舞い上がった埃と煙が晴れると、愛宕の斜面は無残に抉られ、被弾した味方と思しき亡骸が点在しているのが見えていた。
樽井隊もまた、倉皇として要害である愛宕の峠道の陣を捨てた。
一箇所に齧りついていても、朝河隊と同様の末路を辿るのは明らかだったのだ。
元より統制が取れているとは言い難い樽井隊の者も、半ば混乱状態で峠を逃れることとなった。
瞬きする間に人が撃たれ、ばたばたと折り重なるように倒れ伏す。
伏した身体の銃創からは、滾々と赤黒い血が溢れ、瞬く間に地面を染めた。
敵弾を受けて尚藻掻く者は、血に塗れた身体で地を這いながら呻き声を上げる。
その光景は、屈強な武人すらも震撼させた。
***
「ちくしょう……!」
口惜しさに唸りながら、泰四郎は市街地の中へと駆けた。前方を駆けていく樽井の背中すら、粉塵に霞んで見えた。
砲撃を免れた味方の多くは、口々に悲鳴をあげながら、泰四郎や樽井とは間逆の方向へ、――つまりは城下町の外れの方向へと散らばっていく。
遁走兵の余りの多さに、泰四郎は思わず足を踏み留め、周囲を逃げ惑う者たちの誰にともなく声を荒げた。
「貴様ら、今更逃げ道などあると思うのかっ! 死する覚悟で来たんじゃないのか!!?」
臆した者は来るなと、再出陣の前に念を押したはず。
その上で樽井に従って来た以上、後に戻ることなど許されない。
味方の軍備の劣悪さは、これまでの惨敗戦で身に染みていたはずなのだ。大砲の一発撃ち込まれた程度で戦場を捨てるなど、泰四郎には考えられぬことだった。
「おれはもう御免だ、死にたい奴だけ戦いやがれ…!」
「そうだ、どうせ勝ち目はねぇよ。あんたァあの大筒の威力が分からねぇのか!?」
「ふざけるな、戦え! 戦って死んでった奴らに、どう詫びるつもりだ!?」
蒼白に引き攣った顔で捨て台詞を吐き捨て、逃げて行く兵卒たち。彼らに怒鳴り散らしながらも、泰四郎は自らの脚が震えるのを止められない。
檄を飛ばしていながら、まだ死を恐れている己がいる。
だが、逃げることを良しとしない己がそれに打ち克っているのもまた事実だった。
逃げれば、負けだ。
敵にも、己自身にも、そして悦蔵にも負ける。
泰四郎の足をまだ戦場へと向かわせるのは、勇気でも正義感でもなかった。
ただ、持てる限りの矜持そのものだった。
「青山、捨て置け。戦う気のない奴は足手纏いになるだけだ」
先を行く樽井の踵も俄かに返り、激昂する泰四郎を宥めるように言った。
樽井の声が掛かると同時に、逃げ行く兵たちは各々の武器をぞんざいに放り、倉皇としてその場を走り去っていく。
地面に叩きつけられた火縄の銃は、がらんと音を立てて転がった。
僅かながら筒に付着した血痕は、恐らく持ち主の負傷から滲み出した血だろう。
打ち捨てられた銃を見詰め、泰四郎は歯噛みした。
「この、腑抜けどもが……!」
「構うな、行くぞ」
樽井は言い、城下を覆う戦火の中を目掛けて駆け去った。
大筒に吹き飛ばされるのは、どんな感覚なのだろう。
自分を討った相手の顔すら知らぬまま、死んでいくのはどんなにか無念なことだろう。
俄かに、今し方陣地に撃ち込まれた砲弾による惨劇が蘇る。
――今、遁走すれば、命ばかりは助かるかもしれない。
敵との、悦蔵との、己自身との戦い。そのすべてをかなぐり捨てて行くならば、今以上の恐怖を味わわずに済む――。
考えるでもなく、それはごく自然に脳裏に浮かんだ。
「……くそっ」
この期に及んで、まだ人間の本能が首を擡げる。
泰四郎は、音もなく胸中の深みに眠り、ともするとじわじわと競り上がってこようとする怯懦を振り落とすが如く、強くかぶりを振った。
「俺に退路などあるものか!」
悦蔵を失った今だからこそ、この矜持を捨てることは出来ないと思った。それを捨ててしまうことば、悦蔵が見ていた青山泰四郎という人間を、自ら消し去ってしまうことと同義だった。
一足早く樽井が向かった、方々で黒煙を上げる城下を仰ぎ見る。
それから泰四郎の足が城下を目指して地を蹴るまでには、ほんの瞬きする間もなかった。
【終.赤い鞘】へ続く
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