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172話 最北端
しおりを挟むオーステン大陸の北方に位置するシュナイエン王国が立国してから、2年が過ぎようとしていた。
「やっとここまで来れたのですね… シルト様」
青い空の下、感嘆のため息をつきながら、リヒトは隣に立つシルトを見上げ、大きな手を握り締める。
「そうだな!!」
国王夫妻はオーステン大陸の最北端に立ち、海の向こうの地平線の彼方を、眼を細めてながめた。
「1度だけ、アルテーリエ大河を船で下り海へ出たことがありますが… こうして王国内から海を見るのはとても感慨深いものがありますね」
リヒトとシルトは数えきれないほど祭祀をとり行い、ようやく北方の魔窟の森を完全に消し去ることが出来たのだ。
北方より少し遅れてはいるが、東方と南方でも"花の令息"たちの活躍で、同じ現象が起きつつある。
「本当によく頑張ったなリヒト! 礼を言うぞ! お前がいなければ、今頃北方も魔窟の森に沈んでいたからな…」
国王夫妻にとって、けして平穏な2年間では無かった。
王都からの避難民たちと、元から先住していた北方の貴族たちとの間で、大きな軋轢が生まれ…
魔窟の森の跡地を開発した、新たな土地を巡る争いが何度も勃発し、その度に国王夫妻が板挟みとなり、長い時間を掛けて話し合って来たが、100年は続きそうなほど、今も揉めている。
他にも魔窟の森と魔獣を抑え込んだ、"花の令息"リヒトの噂を聞きつけた他国の王族が、自国の魔獣を封じさせようと、リヒトの誘拐を企んだりと…
魔獣被害は減少した分、もっと恐ろしい人間の欲望が巻き起こした災厄が、幾多の試練となり国王夫妻を苦しめた。
もちろん… 2人に起きたのは、悪いことばかりでは無かったが。
「海辺は冷えるな… 身体によくないリヒト、そろそろ戻ろう!」
華奢な肩を引き寄せ、シルトは小さな唇へキスを落とすと、リヒトのお腹を大きな掌で温めるように撫でた。
「確かに少し寒くなってきましたね…」
身体が弱い質では無いが、細身のリヒトが出産すること自体に、シルトは恐怖を感じているらしい。
「まったく私はどうしようもない愚か者だ! お前を孕ませてしまうなんて!!」
「大丈夫ですよ! フォーゲル様も母上も無事に2人出産したのですから、私だってシルト様に元気な子を抱かせて見せますから」
広い胸に手を置き背伸びをして、リヒトは心配顔のシルトの唇にキスをした。
大きなため息をついて、リヒトのキスに応えるシルト。
2人が水陸両用の"シルトの船" まで戻ると、ヴァルムが困った顔で船の周りを歩き回っている。
「あっ!! 義兄上、良かった~っ!!」
バタバタと走り寄り、ヴァルムは眠りこけた小さな王子を、ひょいとシルトに渡した。
「おや、シュベールトは眠ってしまったの?」
シルトの腕の中で眠る、父親そっくりの容姿をした美しい小さな王子の頬に、リヒトがキスを落とす。
この小さな王子をリヒトが出産した際、酷い難産になり…
シルトは激しく動揺し、自慢の青銀色の髪と同じぐらい顔色を真っ青にして、女神の神殿と、リヒトが出産する領主館の寝室を行ったり来たり、忙しなく行き来した。
その時味わった苦痛が、2人目を身籠ったリヒトを出産で失うのではないかと、シルトを怯えさせているのだ。
4
今回はドイツ語にお世話になりました。 リヒト→光 プファオ→孔雀 シルト→盾 シュナイエン→雪が降る フリーゲ→ハエ ギフト→毒 ドウルヒファル→下痢 シュメッターリング→蝶 シュピーゲル→鏡 ナーデル→針 ゾネ→太陽 ヴァルム→暖かい スマラクト→エメラルド ドイツ語が分かる方、ごめんなさい! きっと吹き出してしまったでしょうね(-_-;) 私はドイツ語、全然わかりませんが…ココまで読んで下さり、ありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです☆彡
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