辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
174 / 178

172話 最北端

しおりを挟む

 オーステン大陸の北方に位置するシュナイエン王国が立国してから、2年が過ぎようとしていた。


「やっとここまで来れたのですね… シルト様」
 青い空の下、感嘆のため息をつきながら、リヒトは隣に立つシルトを見上げ、大きな手を握り締める。

「そうだな!!」
 国王夫妻はオーステン大陸の最北端に立ち、海の向こうの地平線の彼方を、眼を細めてながめた。

「1度だけ、アルテーリエ大河を船で下り海へ出たことがありますが… こうして王国内から海を見るのはとても感慨深いものがありますね」

 リヒトとシルトは数えきれないほど祭祀をとり行い、ようやく北方の魔窟の森を完全に消し去ることが出来たのだ。

 北方より少し遅れてはいるが、東方と南方でも"花の令息"たちの活躍で、同じ現象が起きつつある。


「本当によく頑張ったなリヒト! 礼を言うぞ! お前がいなければ、今頃北方も魔窟の森に沈んでいたからな…」
 国王夫妻にとって、けして平穏な2年間では無かった。


 王都からの避難民たちと、元から先住していた北方の貴族たちとの間で、大きな軋轢あつれきが生まれ…
 魔窟の森の跡地を開発した、新たな土地を巡る争いが何度も勃発し、その度に国王夫妻が板挟みとなり、長い時間を掛けて話し合って来たが、100年は続きそうなほど、今も揉めている。

 他にも魔窟の森と魔獣を抑え込んだ、"花の令息"リヒトの噂を聞きつけた他国の王族が、自国の魔獣を封じさせようと、リヒトの誘拐を企んだりと…
 魔獣被害は減少した分、もっと恐ろしい人間の欲望が巻き起こした災厄が、幾多の試練となり国王夫妻を苦しめた。


 もちろん… 2人に起きたのは、悪いことばかりでは無かったが。


「海辺は冷えるな… 身体によくないリヒト、そろそろ戻ろう!」
 華奢きゃしゃな肩を引き寄せ、シルトは小さな唇へキスを落とすと、リヒトのお腹を大きな掌で温めるように撫でた。

「確かに少し寒くなってきましたね…」
 身体が弱い質では無いが、細身のリヒトが出産すること自体に、シルトは恐怖を感じているらしい。

「まったく私はどうしようもない愚か者だ! お前をはらませてしまうなんて!!」

「大丈夫ですよ! フォーゲル様も母上も無事に2人出産したのですから、私だってシルト様に元気な子を抱かせて見せますから」

 広い胸に手を置き背伸びをして、リヒトは心配顔のシルトの唇にキスをした。

 大きなため息をついて、リヒトのキスに応えるシルト。

 2人が水陸両用の"シルトの船" まで戻ると、ヴァルムが困った顔で船の周りを歩き回っている。


「あっ!! 義兄上、良かった~っ!!」
 バタバタと走り寄り、ヴァルムは眠りこけた小さな王子を、ひょいとシルトに渡した。

「おや、シュベールトは眠ってしまったの?」
 シルトの腕の中で眠る、父親そっくりの容姿をした美しい小さな王子の頬に、リヒトがキスを落とす。


 この小さな王子をリヒトが出産した際、酷い難産になり…
 シルトは激しく動揺し、自慢の青銀色の髪と同じぐらい顔色を真っ青にして、女神の神殿と、リヒトが出産する領主館の寝室を行ったり来たり、忙しなく行き来した。




 その時味わった苦痛が、2人目を身籠ったリヒトを出産で失うのではないかと、シルトを怯えさせているのだ。







 
しおりを挟む
今回はドイツ語にお世話になりました。 リヒト→光 プファオ→孔雀 シルト→盾 シュナイエン→雪が降る  フリーゲ→ハエ ギフト→毒 ドウルヒファル→下痢 シュメッターリング→蝶 シュピーゲル→鏡 ナーデル→針 ゾネ→太陽 ヴァルム→暖かい スマラクト→エメラルド  ドイツ語が分かる方、ごめんなさい! きっと吹き出してしまったでしょうね(-_-;)  私はドイツ語、全然わかりませんが…ココまで読んで下さり、ありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです☆彡
感想 47

あなたにおすすめの小説

シャルルは死んだ

ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。

はっきり言ってカケラも興味はございません

みおな
恋愛
 私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。  病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。  まぁ、好きになさればよろしいわ。 私には関係ないことですから。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

歳上公爵さまは、子供っぽい僕には興味がないようです

チョロケロ
BL
《公爵×男爵令息》 歳上の公爵様に求婚されたセルビット。最初はおじさんだから嫌だと思っていたのだが、公爵の優しさに段々心を開いてゆく。無事結婚をして、初夜を迎えることになった。だが、そこで公爵は驚くべき行動にでたのだった。   ほのぼのです。よろしくお願いします。 ※ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

処理中です...