辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

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166話 雨降りの辺境キルシュバウム

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 分厚い布に樹液を塗って加工した、防水効果のあるフードを頭からすっぽり被り…
 シルトはレーグネリッシュ城塞の、城壁上部にある歩廊から渋い顔で魔獣を睨んだ。

「また、アイツか!!」

「シルト様、お気を確かに!! ほら、雨も小降りになって来ましたよ?  順調にリヒト様の祭祀が進んでいる証拠ではありませんか! これはとても素晴らしいことですよ!?」
  不機嫌な主君を慰めるノイ。 

「あの落ち着きの無い黒い犬!! クソッ、オルトロスめ!!」
 罵りながら、ふとななめ前に立つヴァルムに、シルトは心配そうに声をかけた。


「おい、ヴァルム!!」

「何ですか義兄上?」
 ヴァルムが被るフードが少しずれ、艶やかな孔雀色の髪がはみ出していた。

「フードをもっと深く被れ! ああなっても知らないからな?!」
 シルトはキルシュバウム騎士団の若い騎士をチラリと見た。

「わぁ―――っ!!!」
 悲鳴を上げると大慌てでヴァルムは、フードを深く被り直した。


 リヒトと共にシルトがキルシュバウムへ来て一番驚いたのは… 住人も騎士も、オメガもアルファも関係なく、全員髪が1本も生えていなかったことだ。

 キルシュバウム騎士団のツルツルのスキンヘッドを見て、シルトは顔をしかめた。

 北方のシュネー城塞は、魔窟の森からあふれた瘴気の影響で、万年雪におおわれていたが…
 東方の辺境キルシュバウムの最前線、このレーグネリッシュ城塞は、目の前に広がる魔窟の森から出た瘴気で、1年じゅう雨が降り続けているのだ。

 厄介なのがこの雨に含まれる瘴気が、人から髪をすべて奪うらしく…
 シルトたちも気を付けなければ、北方へ帰る頃には頭をツルツルにして、帰ることになるかも知れないのだ。


「頼むリヒト!! この呪われた雨を一刻も早く、我々の頭上から消し去ってくれ!!」
 女神に祈りを捧げつつ、シルトは切実に心からリヒトに願った。

 北方の住民たちが美形ぞろいと言われる所以ゆえんは、美しい青銀色の髪を持つ者が多いからだ。

「まさかキルシュバウムがこんなにも、恐ろしい場所とは知らなかった!!」
 オーベンば青い顔でつぶやいた。

 シュナイエン騎士団の面々は、大量発生した魔獣の襲撃よりも、自慢の髪を失う恐怖にくじけそうになっていた。


「シルト様は大丈夫ですよ! お優しいリヒトさまなら、髪が無くてもきっと今と変わらず愛してくれますよ… でも、未婚で婚約者もまだいない私などは…」
 シルトを慰めるうちに、段々自分が落ち込んで行くノイに、フェルゼンが肩をたたいた。


「私の妻のような、可愛い花嫁を一緒に探してやるよノイ、元気を出せ!」


 さりげなく惚気を言うのを忘れずに、フェルゼンはノイを慰めた。







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