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164話 取り決め
しおりを挟むリーラ、ブラウ、2公爵家出身の"花の令息" たちを無事に保護し…
今後2人がハイス、キルシュバウム、どちらかの辺境へ赴き女神に祈りを捧げ続けることを条件に、"命の保証をする" と現国王の命令証書をプファオ公爵が考え抜き作成した。
この非常時に面倒ではあるが、何事にも最初が肝心であり… 後の世で、争いごとに発展しないとも限らないからだ。
「本来ならば過去の判例からも、反逆者の一族は全員処刑が決まっていますが… そこは"花の令息"と、その家族という特殊な事情から、反逆行為に関わっていない者は貴族籍を剥奪、財産の没収でとどめました… それで宜しいですか陛下?」
青白い顔でぐったりと横たわる国王に、プファオ公爵は許可を求めた。
「それで良い… 未婚の"花の令息"2人の後見人をプファオ公爵に任せる… お前はここにいる誰よりも良く心得ているからな 」
国王は青白い顔でプファオ公爵の判断に同意した。
「あともう少しだけですからね… 陛下」
リヒトは国王を支えてゆっくりと水を飲ませた。
水と言ってもただの水ではなく、大神殿でリヒトが最後の祭祀を行った時の聖水である。
昏睡状態が長く続いた為に、国王の身体は水以外は受け付けなくなっていたからだ。
3人の書記官が、国王とプファオ公爵との会話を同時に書き記し、立会人の大臣5人が最後に重要書類や公式記録用の魔石が付いた偽造防止のペンを使い…
(リヒトとシルトの結婚で使われた、魔道具を使って後に書類の真偽を確認できるペン)
まったく同じ内容の命令書を、3通作成し、3通にそれぞれ5大臣が1人づつ署名を入れる。
国王が後継者に選んだ、3人の辺境伯への証明書類で、元王太子フリーゲのように、愚かにも"花の令息"を害さないようにとの配慮である。
現王の命令書の効力が何時まで続くかは疑問だが、作らないよりは作った方が良い。
「陛下、最も重要な国土の分配方法なのですが… これはリヒトに任せて欲しいのです」
プファオ公爵の思わぬ提案に、大人しくしていた大臣たちも、これには怒りをあらわに反論しようと身を乗り出すが…
「…義父上?! いくらリヒトが"花の令息"でも、それはあまりにも乱暴ではありませんか?!」
部屋のすみで黙って見守っていたシルトが、大臣たちよりも先に声をかけた。
大臣たちもシルトと同意見だと、口を出すのは控えうんうんとうなずく。
「もちろん、息子が嫁いだ北方により多くの国土を分配させようなどと、不誠実な考えからではありませんからご安心を、シルト殿!」
珍しくからかうようにニヤリと笑いながら、プファオ公爵はシルトを見た。
「リヒトに北方でとり行った祭祀の報告を受け、女神の力の川を上手く扱える範囲を、"花の令息"自身が見極めるのが一番良いのではないかと、思ったのです」
鋭く光る赤金色の瞳で、プファオ公爵は自分と同じ瞳を持つリヒトを見つめた。
「ええ、確かに北方で祭祀を行いましたが… 私の目が届く範囲は限られていました」
人差し指の背で鼻の下をこすりながら、リヒトは宙を睨み思いだしながら答えた。
"花の令息" の力にも、当然ながら限界があるのだ。
「ふむ… 確かにリヒトを通して女神の力を見た感じでは、私にもそれは理解できた」
シルトは顎を撫でリヒトを見つめ、話は本当だと裏付けた。
「始めに北方と南方、どちらとも隣接している東方のキルシュバウムへリヒトを行かせ、一度祭祀をとり行ってはどうかと… 東方の国境が決まれば、北と南も決まりますし」
(いずれ魔窟の森に沈む王都のある西方は抜いて分配する)
「キルシュバウム辺境伯様にも祭祀に参加してもらえば、私が不正を働いていないと証明できますし、納得してもらえるでしょう、流石父上です!!」
プファオ公爵の意見にリヒト自身が賛成した。
「リヒトが祭祀をとり行うならば、東方も少しは魔獣の被害が治まるかもしれません、キルシュバウム辺境伯も、これでは文句は言えまい! シュネー城塞で私はリヒトが起こした奇跡を、この目で見たから良くわかる!」
顎を撫でながら、シルトはベッド脇に座るリヒトから、横たわる国王へと視線を移した。
「それで良い、プファオ」
国王は小さくうなずき、3人の書記官たちが国王の言葉を記録に残す。
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