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161話 国王の決断
しおりを挟む国王は1くち、2くちと… リヒトの介助で水を飲み、ホッ… とため息をつく。
「私は… シュメッターリング王国、最後の王となる…」
国王は厳かに宣言した。
「陛下!! お待ちください、それは…」
国王の言葉をさえぎるように、声を上げる無礼な大臣を、シルトはじろりと睨んだ。
「黙れ!! そのうるさい口を閉じておけ! 私が良いと言うまで開くな!!」
剣の柄に手を掛け、シルトは鞘から半分刃を出して見せた。
「ヒッ… 申… 申し訳ありません!」
何か月も昏睡状態が続いたため、大臣たちは以前よりも国王を軽んじる傾向が強くなっていた。
そうなった原因の1つが、国王代理の元王太子フリーゲが、無能な愚か者だった為に、王家に対する臣下たちの不信を招いたからだ。
国王はシルトを見上げて苦笑し、謝意を込めて小さくうなずいた。
空色の瞳を伏せて、シルトは小さく頭を下げる。
乱暴な態度が目立つが、シルトは決して国王を軽んじているのではなく、配慮しての行動で…
昏睡状態から目覚めてすぐに、難しい決断をいくつも下さなければならないことに、シルトは同情し、国王の命令を効率良く通そうと、あえて乱暴に振る舞い、危機感のない大臣たちをねじ伏せているのだ。
「陛下、もう決めてしまわれたのですか?」
静かにプファオ公爵が国王にたずねると…
「王都は女神の加護を失い魔窟の森へと沈み、ヴァイス王家は私を最後に直系は絶える… 3公爵も、プファオ公爵を残すのみ… ならば…」
国王はゆっくり一呼吸おいてから、話を続けた。
「東方のキルシュバウム辺境伯、南方のハイス辺境伯、北方のシュナイエン辺境伯… それぞれの当主を我が養子に迎え、この国を三分の一ずつ相続させ、3人に立国を命ずる」
「…立国?!」
予想外の話を聞き、リヒトはただ、ただ、仰天した。
「・・・・・・」
言葉を失ったシルトも、ポカーンと口を開けて茫然としていた。
「そうだリヒト、お前は予定通り"花の令息"として王妃になるのだ」
楽し気に笑いながら、国王は痩せ細り骨と皮だけになった手をのろのろと伸ばし、リヒトの手に触れた。
「陛下…」
「それはいけませんぞ!! 国王陛下!! 断じてそんなことは許されませんぞ!!」
「そうです!! 陛下、どうかお考え直しを!! 今はご病気で気弱になっておられる」
「そのようなこと、貴族たちから大きな反発が出るのは明白です、これでは王家の…」
「ウルサイ、黙れ―――っ!!!! 黙らんか―――っ!!!!」
一斉にごちゃごちゃと、大騒ぎし始めた大臣たちの大声で、シルトはハッ… と我に返り、怒鳴りつけた。
「辺境伯殿こそ、お黙り下さい!! このような常軌をいっした話をを聞いて、黙ってなどおられませぬ!!!」
「そうです!! アナタはご自分が王になりたいだけなのでは無いですか?!」
「認めませぬ! 陛下は眠り過ぎて頭がおかしくなられたのですか?! とても受け入れられない!!!」
「クソッ…!!! リヒト、1番うるさい奴を、気絶させろ!! 私では陛下の寝室に血の雨を降らせてしまうからな―――っ!!!」
大臣たちの暴言にシルトは怒り狂い、1人か2人なら殺しても良いような気分になっていた。
「は… はい! シルト様!!」
リヒトも怒りで顔を紅潮させ、稲妻を放とうと手を上げるが、その前に公爵が対処した。
「うがああああぁぁ―――っ!!!!」
「ひぃいいいいっ―――っ!!」
「ああああがっ… ああっ!!!」
大騒ぎする大臣たをひとまとめに、プファオ公爵は稲妻の餌食にしたのだ。
「お… 死んだか?」
大臣全員がバタリッ… と絨毯の上に倒れ込んだ時には、シルトはてっきり全員死んだと思ったぐらい、鮮やかで絶妙な魔法だった。
「少し落ちつかれよ、大臣方… そんなに興奮されては、話の続きが出来ずに陛下が困っておられるでは無いか」
軽く肩でも叩いた後のように、プファオ公爵は大臣たちを諫めた。
「うううう~…」
「公爵… コレは痛い…」
「ああ… 身体が痺れて足腰が… 立たない…」
絨毯に転がったまま、うめき声を上げる大臣たち。
「流石、父上!!」
キラキラと赤金色の瞳を輝かせ、リヒトは尊敬の眼差しを公爵へ向けた。
「構わず話を続けましょう、書記官も同席していますし、我々にはこの時間が竜輝石よりも貴重ですから!」
大臣たちを転がしたまま、プファオ公爵はさらりと話を進める。
今は非常時である。
礼儀正しい生真面目なプファオ公爵でも、手段を選んではいられないのだ。
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