上 下
161 / 178

159話 反逆者たち2

しおりを挟む

「その前に義父上の名誉回復も、忘れずに頼むぞ!!」

「…義父上?!」
 念押しするシルトの言葉を聞き、側近と大臣、国王までもが顔に疑問符を浮かべた。

 そこで初めて疑問符を顔に浮かべた面々は、シルトの手がベッド脇に座るリヒトの細い肩に、ずっと置かれていることに気付いた。


「おおおお?! これはこれは… はっ!! ですがリヒト殿は確か、王太子殿下の婚約者に暴力を振るい、性奴隷の身分に落とされたはずでは?!」
 大臣の1人が黙っていることが出来ず、疑問を口に出した。

 この大臣も好奇心に負けて、仮面を着けた姿でリヒトの処刑を見に行った、観客の1人である。

 口を滑らせた大臣の言葉が、シルトの怒りに火を付けた。

 国王に近い大臣ならば、リヒトと王太子どちらが正しいか、ことの本質を読み解けて当然であり…
 まだそんなことを言っているような奴が、国の要職に就いているのかと、シルトのかんに触り、一瞬で激怒した。

「その王太子殿下がリヒトをないがしろにし、2公爵の反逆に関わったせいで、このような騒乱に至ったのではないか―――っ!!」

「ヒッ…!!」
 凄まじいシルトの剣幕に、疑問を口に出した大臣が、真っ青な顔で小さな悲鳴を上げた。

 それまで上機嫌で笑っていたシルトが豹変し、背筋が凍りそうな殺気を帯びた目で怒鳴り、大臣たちを無能者と睨み付ける。

「そもそも王太子が国と民を守る立場にあると、責任をしっかりと自覚していたなら、2公爵に付け入られ、女神の加護を失うことも無かった!! もっと"花の令息"のリヒトを大切にしていれば!!」
 これ以上、一言でもシルトの気に障ることを言えば、本気で誰かが殺されていただろう。

「陛下、義父上! いい加減 "花の令息"の重要な役目について、この愚か者たちに語った方が良いのではありませんか? そうで無ければこの者どもは、最後まで王都にしがみつくでしょうよ!!」

 国王を不敬にも、シルトは睨み付ける。

 肩に置かれた大きな手を、リヒトはトントンとたたいてから、慈しむように撫でて、背後に立つシルトを見上げニコリと笑った。

 可愛らしく新妻になだめられては、シルトも怒りを保てず、フゥ―――ッ… と息を吐き、小さな唇に軽くキスを落とす。

 新婚のシルトは人前だからと、リヒトへの愛情表現を遠慮したりはしない。

 真赤に染まったリヒトの顔を見て、シルトはニカッ… と笑い、機嫌を直す。



 不謹慎にも大臣の1人が見世物小屋の猛獣使いを、思い出していた。

 仲の良い2人の様子を見て、国王は困り顔で笑い、プファオ公爵を見上げてうなずいた。

 プファオ公爵は"花の令息"が担う本来の役割と、人知れずリヒトが、幼い頃から神殿で女神に祈りを捧げ続けて来たこと。

 その証拠である、リヒト不在により魔獣の襲撃が激化し、そのうえ女神の加護を失い王都は取り返しのつかない過ちを犯したことを、全て大臣たちに語って聞かせた。


「王太子殿下はまだ知らなかったが、リーラ、ブラウの2公爵は話を聞いても、信じようとせず自分の息子たち"花の令息"を出し惜しみしたのだ」

 淡々と真実を語るプファオ公爵の話が信じられず、大臣たちは国王を見つめるが…
 国王は一度うなずき、沈黙を通した。


「信じなくても良いが、それだとお前たちは2公爵の二の舞を演じて死ぬだけだ! 死ぬなら誰も巻き込まず自分たちだけで死ねよ? 迷惑だからな!!」


 鼻で笑い、辛辣しんらつに吐き捨てるシルトの袖を、リヒトがキュッ… とつかんで、再び沸き上がったシルトの怒りをなだめた。






しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

処理中です...