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159話 反逆者たち2
しおりを挟む「その前に義父上の名誉回復も、忘れずに頼むぞ!!」
「…義父上?!」
念押しするシルトの言葉を聞き、側近と大臣、国王までもが顔に疑問符を浮かべた。
そこで初めて疑問符を顔に浮かべた面々は、シルトの手がベッド脇に座るリヒトの細い肩に、ずっと置かれていることに気付いた。
「おおおお?! これはこれは… はっ!! ですがリヒト殿は確か、王太子殿下の婚約者に暴力を振るい、性奴隷の身分に落とされたはずでは?!」
大臣の1人が黙っていることが出来ず、疑問を口に出した。
この大臣も好奇心に負けて、仮面を着けた姿でリヒトの処刑を見に行った、観客の1人である。
口を滑らせた大臣の言葉が、シルトの怒りに火を付けた。
国王に近い大臣ならば、リヒトと王太子どちらが正しいか、ことの本質を読み解けて当然であり…
まだそんなことを言っているような奴が、国の要職に就いているのかと、シルトの癇に触り、一瞬で激怒した。
「その王太子殿下がリヒトを蔑ろにし、2公爵の反逆に関わったせいで、このような騒乱に至ったのではないか―――っ!!」
「ヒッ…!!」
凄まじいシルトの剣幕に、疑問を口に出した大臣が、真っ青な顔で小さな悲鳴を上げた。
それまで上機嫌で笑っていたシルトが豹変し、背筋が凍りそうな殺気を帯びた目で怒鳴り、大臣たちを無能者と睨み付ける。
「そもそも王太子が国と民を守る立場にあると、責任をしっかりと自覚していたなら、2公爵に付け入られ、女神の加護を失うことも無かった!! もっと"花の令息"のリヒトを大切にしていれば!!」
これ以上、一言でもシルトの気に障ることを言えば、本気で誰かが殺されていただろう。
「陛下、義父上! いい加減 "花の令息"の重要な役目について、この愚か者たちに語った方が良いのではありませんか? そうで無ければこの者どもは、最後まで王都にしがみつくでしょうよ!!」
国王を不敬にも、シルトは睨み付ける。
肩に置かれた大きな手を、リヒトはトントンとたたいてから、慈しむように撫でて、背後に立つシルトを見上げニコリと笑った。
可愛らしく新妻になだめられては、シルトも怒りを保てず、フゥ―――ッ… と息を吐き、小さな唇に軽くキスを落とす。
新婚のシルトは人前だからと、リヒトへの愛情表現を遠慮したりはしない。
真赤に染まったリヒトの顔を見て、シルトはニカッ… と笑い、機嫌を直す。
不謹慎にも大臣の1人が見世物小屋の猛獣使いを、思い出していた。
仲の良い2人の様子を見て、国王は困り顔で笑い、プファオ公爵を見上げてうなずいた。
プファオ公爵は"花の令息"が担う本来の役割と、人知れずリヒトが、幼い頃から神殿で女神に祈りを捧げ続けて来たこと。
その証拠である、リヒト不在により魔獣の襲撃が激化し、そのうえ女神の加護を失い王都は取り返しのつかない過ちを犯したことを、全て大臣たちに語って聞かせた。
「王太子殿下はまだ知らなかったが、リーラ、ブラウの2公爵は話を聞いても、信じようとせず自分の息子たち"花の令息"を出し惜しみしたのだ」
淡々と真実を語るプファオ公爵の話が信じられず、大臣たちは国王を見つめるが…
国王は一度うなずき、沈黙を通した。
「信じなくても良いが、それだとお前たちは2公爵の二の舞を演じて死ぬだけだ! 死ぬなら誰も巻き込まず自分たちだけで死ねよ? 迷惑だからな!!」
鼻で笑い、辛辣に吐き捨てるシルトの袖を、リヒトがキュッ… とつかんで、再び沸き上がったシルトの怒りをなだめた。
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