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157話 王宮3
しおりを挟む国王陛下の執務室の扉を拳で叩き、シルトは紳士的にリーラ公爵の応答を待つ。
当然だが、返事は返って来ないし期待もしていなかった。
「確かにリーラ公爵は執務室の中にいるのだな?」
一番最初にシルトに話しかけて来た王宮騎士にたずねると…
「はい」
王宮騎士はまだシルトを警戒している様子だが、素直に質問に答えた。
王の執務室の扉には防御の魔法が組み込まれていて、前もって入室を許可された者以外には、簡単に開かない仕組みだ。
「まぁ、想定内だな!」
面倒そうに執務室前の廊下を奥へと進み、シルトは隣室へ入ると、執務室側の分厚い石壁に向かって魔法を放った。
石を魔法で細かく粉砕し、石壁からザラザラと砂利が落ち、音を立てて大きな穴があける。
「先に私1人で行く、お前たちはここで少し待て!」
側近たちにはその場で待機させ、シルトは1人で国王の執務室へと入った。
その様子を見ていた王宮騎士は、大人の足でも執務室まで3歩分はある分厚い壁に、あけた大穴を呆然と見た。
執務室へシルトが入ったとたん、背後から熱風が吹き…
「またか!」
揃いも揃って愚かな卑怯者ばかりだと、呆れた顔でシルトは脇へ寄ってリーラ公爵が放った炎の攻撃を避けた。
「クソッ! お前は…っ…ガッ…」
素早く剣を抜き、シルトは公爵の首を刎ねた。
「犯した罪の重さを考えれば、簡単に処刑するのは生ぬるいが、生かしておくと面倒だしな!」
恐怖で口を大きく開いた公爵の頭と胴体が、別々にごろごろと執務室の床に転がった。
「シルト様?! もう、そちらへ行っても宜しいですか?」
隣室からノイが声を掛けた。
「ああ、終わったぞ! これで北方へ帰れるな!!」
グッ… と拳を握り、満面の笑みを浮かべたシルトは大きくうなずき、足元に転がった公爵の頭を見下ろした。
何もかもあまりにも呆気なく終わり、シルトの側近たちは思わずポカーンと口を開いてシルトをながめた。
「いえ、まだ終わりでは無いでしょう?! 王都の民を避難させないと!! リヒト様に叱られますよ?! 稲妻でビリッビリッ… と、されちゃいますから?!」
ノイが我に返り、主君を諫めた。
「とりあえずプファオ公爵やこちら側の騎士たちに幻鳥を飛ばして、目的は達したことを知らせます」
オーベンが幻鳥の用意をする。
フェルゼンは執務机に散らばった書類を、手に取ってながめた。
「仕方ない、リヒトもいるし… 国王陛下の寝室へ行くか!」
嫌そうにシルトはぼやきながら、剣に付いた血をリーラ公爵の上着でぬぐって鞘に納めた。
「本当にアナタ方は謀反を起こしたのでは… 無いのですね?」
王宮騎士が信じられないと言いたげに、ぽつりとたずねた。
「そんな面倒くさいこと、うちのシルト様は絶対にしませんよ、そもそも辺境伯を継ぐ時でさえ、従兄にやらせろとごねたのですから」
幻鳥を放ちながら、オーベンが鼻で笑った。
国王の寝室へ水色の幻鳥が舞い降り、シルトたちがリーラ公爵を討ったという知らせが届いた。
「流石、シュナイエン辺境伯殿だ! こうも早く終わらせるとは…!」
プファオ公爵とシルトは、お互いに対して同じ感想を口にする。
「さてと侍医殿、アナタの孫を殺すと脅していたリーラ公爵は、息子たちと共にたった今死んだ! これで脅威は無くなったのだから、そろそろ陛下を目覚めさせてくれ!!」
プファオ公爵は青い顔をした侍医に、冷ややかに命令した。
「ですが公爵! 長い間ずっと昏睡状態を保っていた為に… 今、陛下を目覚めさせれば、お命がすぐに尽きてしまいます!!」
「目覚めさせなくても、陛下の命はもうすぐ尽きるのだろう? 時間が無い! 早く起こせ!!」
国王のヒヤリと冷たい手を握りながら、リヒトは侍医と公爵の会話を黙って聞いていた。
「分かりました…」
上掛けをめくり国王の胸に手を当て、侍医は深い眠りの魔法を少しづつ解いて行く。
リヒトの手の中で国王の手が、ほのかに暖かくなり… ピクリッ… と動いた。
「父上!! 陛下の手が動きました!」
「ああ…」
公爵はずっと国王の顔を見つめていた。
青白いまぶたが震え、徐々に開き、うつろな瞳があらわれる
侍医は魔石をはめ込んだ魔道具で国王の瞳を照らすと、光に反応して瞳孔が動く。
「陛下は無事にお目覚めになられました」
明かりを消して、侍医はベッドから離れた。
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