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154話 一歩も退かず

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 シュナイエンの騎士、プファオの騎士、王立騎士団の騎士が、シルトを囲んで全員、処刑台の前に集まった。

 神殿からの連絡用の幻鳥を受け取り、神殿の中心部から瘴気が発生したと知り…
 プファオ公爵が口火を切った。

「シルト殿、王宮を落とすというのなら、今が"その時"でしょうな!」
 公爵は不安げな2人の息子を順番に見てから、シルトへと視線を移した。

「ええ、義父上が処刑場から脱出したと知られるのも時間の問題でしょうし… 流石に神殿から瘴気が発生したのですから、今はリーラ公爵も少しは慌てて、その対応に追われて混乱しているだろう…」

 大神官はシルトたちだけではなく、当然王宮や地方の主要都市の神殿にも、純白の幻鳥を送っているはずである。
 

「神殿と王宮は目と鼻の先にありますし、流石にリーラ公爵も今までのように、無視出来ない状況のはずです」
 大勢の部下たちを死なせ、リーラ公爵に個人的な恨みを持つようになった、王立騎士団の副団長が口を開いた。

「リーラ公爵邸も近所にありますし、これで無視するのであれば、頭がおかしいのでしょう」
 タイヒも口をはさんだ。

「よし! では、国王陛下の保護を最優先とする! リヒトとプファオ公爵は腕利きの近衛の相手をお願いします、残りは王宮騎士の相手だ!」

 王立騎士団の仕事が王都を守ることなら、王宮騎士は王宮を警備するのが仕事で、そして近衛騎士は王族の護衛が仕事だ。

 田舎から出て来たばかりの、リーラ騎士団のように簡単な相手ではない。

 人数的にもシルトたちの倍はいて、何よりシルトたちよりも、王宮のことを熟知している。


 シルトもゆったりと構えて見えるが、けして油断しているわけでは無い。







 プファオ公爵は処刑場のすみで逃げずに、公爵の様子を心配そうにうかがっていた公爵邸の使用人たちに声をかけた。

「皆には心配をかけたな、私はこの通り、まだ生きているぞ!」

「公爵様!! 一体、何がどうなっているのですか?! あの方たちは… ああ! リヒト様にヴァルム様?!」
 プファオ公爵家の親子3人で顔を見せた為、使用人たちは腰を抜かしそうになっていた。

「お前たちには苦労をかけたな、本当に今まで公爵家に仕えてくれて感謝する! 公爵家の隠し金庫の場所は知っているな?」

「はい、旦那様存じております」
 親の代から公爵家に仕えている執事が答えた。

「邸の中にあるものを全部売り払い、金を使用人たち皆で等分に分けて、親類縁者を全員連れて王都から避難しなさい… それと私が面倒を見ていた、孤児や学校の生徒たちの避難も頼む」
 プファオ公爵は威厳を持って、最後の命令を使用人たちに出した。


「旦那様、それは…?!」

「行くあてが無いのなら、北方にあるプファオ公爵領へ行きなさい、かなりの田舎だが安全に暮らせるはずだ… 王都はもうすぐ魔獣に襲撃される、リヒトも北方のシュナイエン辺境伯殿に嫁いだしな…」
 公爵は側で話を聞いていたシルトの方に向かって、リヒトの背中を押した。

「おお… リヒト様が!! 北の辺境伯様に!! 何と素晴らしいことでしょうか、正直に言いますと… 私どもは王太子殿下が大嫌いでしたから!」
 執事はここぞとばかりに王太子の悪口を言った。 

「執事殿とは気が合いそうだ! 私もウジ虫王太子が大嫌いなんだ!」
 ニヤリと笑いシルトは、リヒトの細い腰をぐいっ… と引き寄せ、頬にチュッと音を立ててキスをした。 

 カアッ… とリヒトは顔を真っ赤に染めるが…
 フェルゼンの助言を聞き、シルトの態度に少しずつ慣れ、照れて騒いだりせず黙って受け流すことにした。

「では公爵様、我々は先に王都のお屋敷から北方の公爵領へ、引っ越しを済ませておきますので、どうかお早めにお帰り下さい」
 公爵の捕縛後もプファオ公爵邸に残っていた使用人は、代々プファオ公爵家に仕えて来た者たちばかりだった。

「いや、私はだな…」

 大罪人になってしまい、将来どうなるか、まだ見通すことが出来ず、公爵自身の問題に巻き込むのを避けようと配慮し財産を分けろと命令したが…
 結局使用人たちは公爵の命令を聞く気は無いようだ。


「良いではありませんか、義父上! これから北方はリヒトを迎えて、繁栄の時を待つばかりですから、人は多い方が良いのですよ!」
 大らかに口添えするシルトに、執事は満足そうに笑った。

「リヒト様は、本当に良い婿様を見つけられたようで安心しました」

「そうなんだよ!」
 生まれた時から可愛がってもらっていた執事に、シルトを褒められニコニコとリヒトは嬉しそうに笑った。

「まったく、お前たちは本当に頑固だな、どうなっても知らないからな」
 プファオ公爵は大きなため息をつき、苦笑いを浮かべた。

「そうと決まれば公爵様、私どもはこれで失礼します! 引っ越しの準備がありますので!」
 使用人たちは晴れ晴れとした顔をして、帰って行った。


「父上が頑固だから、使用人たちも皆、頑固なんですよ」

 こっそりとシルトに耳打ちするヴァルム。

 
 シルトは忍び笑いをもらした。
 





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