辺境に捨てられた花の公爵令息

148話 戦意

　バチッ…！　バチッ…！　バチッ…！　と音を立て、リヒトの放った稲妻が1人、2人…　次々と近衛騎士を戦闘不能にしてゆく。

　だが、8人目の近衛騎士だけは、仲間の騎士が倒される姿を見て、慌てて魔法の盾を作り、リヒトの稲妻を弾くことに成功した。

＜焦らず、慌てず…　冷静に対処する！＞
　何度も何度も自分に言い聞かせてから、戦いに挑んだリヒトは、近衛騎士に自分の攻撃を躱かわされても、すぐに次の攻撃を繰り出すことが出来た。

「稲妻が弾かれるというのなら…！」
　リヒトは処刑台に向かって走りながら掌から再び稲妻を放つが、今度の稲妻はリヒトの手と繋がったまま、鞭ムチのようにしなり近衛騎士にグルリと巻き付き襲いかかった。


「ぐぅおおおおっ――――――っ…！！！」
　自分に気合いを入れる雄たけびを上げ、近衛騎士はすかさず盾を作り身を護るが…
　バチバチッ…！　バチッ…！　バチッ…チッ…！　と激しい音と共に火花が弾けギリギリと、リヒトの稲妻の鞭は勢いを増し、盾で身を守る騎士から煙が立ち上る。

　歯を食いしばって、力押しで盾を破ろうとするリヒトと、必死に抵抗する近衛騎士。

　一旦、戦いが膠着こうちゃくすると、魔力量が勝敗を決めることになる。
　そこで一気に終わらせようと、リヒトが瞬時に大量の魔力を投入すると、近衛騎士の作り出した盾は砕け散り、騎士の身体を稲妻の鞭が締め上げ気絶させた。


　攻撃に魔力を集中させた為に、姿変えのペンダントへの魔力の供給が絶たれ、リヒトの姿が本来の姿へと戻ってしまう。


　襲撃が始まってすぐに、物陰に隠れ…　ことの成り行きを見極めようとしていたリーラ公爵の長男アルムは、リヒトの姿を視認して自分の目を疑った。

　神官服を着て、神殿で祈りを捧げることしか能の無いオメガが…
　それも北方に奴隷紋を付けて流された＂花の令息＂が、荒々しく近衛騎士と戦っているのだから、アルムが衝撃を受けて当然だった。
　　

「他の者はともかく、アイツは捕縛しなければ！！」


　近衛騎士とリヒトが戦う間に…
　突然の襲撃に取り乱した貴族たちが逃げ惑う観客席から、貴族たちにまぎれ込んでいた、シュナイエンと王立騎士団の騎士たちが飛び出した。

「お待たせしましたプファオ公爵！」
　処刑人をたたきのめし、プファオ公爵を繋いでいた鎖を切った。

「助かった！　礼を言いますぞシュナイエンの騎士の方々！　それに団長殿に副団長殿まで！！」
　騎士服を脱いでいても、シルトの側近たちとも、王立騎士団の騎士たちとも面識があるプファオ公爵は、相手の正体を正確に認識し、よどみなく礼の言葉を口にした。

「申し訳ありません公爵！！　魔獣退治に手間取りまして…　残念ながら力及ばず西方の魔窟の森の前は、放棄いたしました」
　王立騎士団の騎士団長は、悔しそうにプファオ公爵に報告した。

「リヒト様のお話では、すでに女神の加護は失い…　王都が落ちるのは時間の問題とのことです、それで我々は王立騎士団の方々に、無駄死にするよりも民たちを王都から逃がすことを、優先させるよう依頼しました」
　公爵の手枷足枷を剣の柄で手際良く砕きながら…
　誤解の無いようにと、オーベンは簡単に状況を説明した。


「そうですか…」

　騎士団長の指が欠けているのにプファオ公爵は気付き、同じように悔しそうな顔をする。