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131話 女神の導き2

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「ブラウ公爵家の"花の令息"を保護してくれたそうですなぁ、礼を言いますぞ」
 ヴァッサーファルは穏やかに笑い、頭を下げた。

「大神官殿… あの甘ったれな子供が、本当に女神の神託を受けたのですか? リヒトとは大違いでしたよ…」
 泣き叫びながら、大騒ぎする子供のような令息を思い出し、心底嫌そうにシルトは真偽をたずねた。

「残念ながら本物です、リーラ公爵家の令息も… 2人とも女神の神託を受けた時、私がこの手で儀式をとり行いましたから間違いないです」

「もしや… リーラ公爵家の"花の令息"も、私に保護しろと言われるのでは、無いでしょうね?!」
 険しい顔でヴァッサーファルを睨むシルトに…

「出来ればそうして頂きたい」
 それまでの和やかな雰囲気を消して、ヴァッサーファルは真剣に依頼した。

「大神官殿は、無理をおっしゃいますなぁ…」
 大きなため息をつき、シルトはリヒトの寝顔を見下ろしながら、孔雀色の髪を一房取り、指先でもてあそんだ。

「本来ならば、一時代に1人しか現れないはずの"花の令息"が、続けて3人も女神の神託で選ばれた時、私はこの国の慶事と受け取りました… 女神の力が弱まりここ何代かの"花の令息"たちはとても苦労していましたから」

「その話なら、私も以前、国王陛下に聞いたことがあります」

 話の内容を思い出そうと、シルトは神殿の天井を見上げ、リヒトが女神の川から汲み上げた、宙をただよう光の粒を目で追った。


『このシュメッターリング王国の繁栄に、陰りが見え始めていたところへ3人の"花の令息" を女神に与えられた… 女神は何時でも我々を導いて下さる』

 国王の言葉を思い出し、シルトはうなずいた。



「だが、この状況に至って、3人の令息は3方の辺境を満たす為に、現れたのではないかと思うようになりました… 現にリヒトは北方を女神の祝福で満たしている」

「なるほど… 確かにリヒトをシュネー城塞に受け入れた時に、女神の導きだと私も感じていました」

「つまりですな、シルト殿… 女神はとっくの昔に、この王都ブルーメを… シュメッターリング王国に見切りを付けていたのではないかとね」

 寂しそうにかさついた手のシワをこすりながら、ヴァッサーファルは自分の側近にも話せなかった最悪の予想を、シルトを見込んで打ちあけた。


「その話が本当なら、東と南の辺境伯を王都に呼びつけて、手伝ってもらわないと私としては割に合わないですなぁ?」

「私も現地の神官を通して、2人の辺境伯に依頼したのですが、向こうは今、魔窟の森が拡大して、この王都と大差ない状況らしく、それどころではないと突っぱねられまして…」

「ああ… 北方は"花の令息"のリヒトを、独占しているのだから、私が何とかしろと?」
 渋い顔で頭をポリポリとかくシルトに…

「まぁ、早い話が、そういうことですな! もう一人、"花の令息"を保護しなければ、南か東、どちらかの辺境を見殺しにすることになりますぞ! シルト殿?」

 忙しい身のシルトには、東や南の辺境とは、あまり交流が無いが、魔獣と瘴気の被害にあえぐ苦悩はよくわかる。


「ヴァッサーファル殿… 意地の悪い言い方は止めてくれ!」


 プファオ公爵を救ったら、王都の民を避難させる為の時間稼ぎぐらいはするつもりだった、シルトだが…
 その前に外郭の平民街の様子を見て、非難させる前に民は魔獣化するのではないかと、危惧していた。



 そしてこの状況をふまえ、何をどうすれば1番効率が良いか…
 どうしても、1つの答えに行きつくのだ。




 王宮を制圧し、国王陛下を保護したら、速やかに王国中に布告を出す。


 "王都ブルーメは魔窟の森と魔獣によって陥落する、全王都民は王都から非難しろ" と。









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