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129話 救出計画2

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 深夜となり、人々が寝静まった王都は闇の中に沈み、どこかで吠える犬の声だけが、けたたましく聞こえた。



 神殿中央の女神の円環で祈りを捧げるリヒトに… シルトは静かにすり寄り、細い肩に手を乗せ、リヒトの耳元で囁いた。

「行って来る」

「どうか、お気をつけてシルト様」
 瞳を閉じたまま、静かに答えたリヒトの首筋に、シルトはキスを1つ落とした。




 神殿を出て馬に乗り、シルトたちは静かな街中を疾走し、真っ直ぐ牢獄へと向かう。

 予想通り牢獄を守る騎士の数は少なく、タイヒの正確な先導もあり、難無くシルトたちはプファオ公爵家の親族たちを、無事に保護することができた。

 保護した人たちはプフランツェ侯爵家から来た馬車に分乗させ、侯爵領を通りアルテーリエ大河を使い、通常の船で北方へ下ることになる。

 ここまではシルトたちの作戦通りだったが… 牢獄にはブラウ公爵家の親族たちも、収監されていた。

 貴族用の牢獄である。

 ブラウ公爵家の者がいてもおかしくは無い。


「どうしましょうか、シルト殿」
 タイヒとシルトは正直、リヒトやプファオ公爵をおとしいれたブラウ公爵家のことなど、放置したかったのだが…
 ヴァルムがそうさせなかったのだ。

「義兄上! ブラウ公爵家の"花の令息"がいます」
 鉄格子を付けた監視用の窓から、ヴァルムは牢の内部を見て学園で見たことがある"花の令息"を見つけた。

「リヒト1人に責任と義務を押し付けた、役立たずの"花の令息"か?」
 冷笑を浮かべたシルトは、皮肉を込めてヴァルムに問い返した。

「…はい」
 大きなため息を付いて、シルトは仕方なく牢の鍵を開いた。

「"花の令息"を保護する、後は知らん! 扉の鍵は開けておくから勝手にすると良い」

「ア… アナタ方は誰ですか?! リーラ公爵の手のものですね?! 私たちをどうするつもりなのです?!」
 怯え切ったブラウ公爵家のオメガたちが大騒ぎをする。

 その部屋には、ブラウ公爵の家族だけが、集められていた。

 ブラウ公爵自身と王太子の側近だった長男は、恐らくプファオ公爵と同じ場所にいるのだろう。

「"花の令息” を保護するだけだ、他の者は嫌なら来なくて良い! ヴァルム、連れ出せ!」


「嫌っ!! 止めてください、止めて――っ!! 放して―――っ!!」

「ああ、もう! 良いから来てよ! 助けにきたんだから!」
 迷わずヴァルムは16、7歳のオメガの細い腕を掴み立たせた。

 奴隷商人に売られるとでも思っているのか、見苦しく泣き叫ぶ"花の令息"にうんざりする救出作戦に関わった騎士たち。

 正直、シルトは全員置いてゆきたいと思ったが、後からリヒトに責められると、分かっているから、嫌々ながらも保護するのだ。

 いろいろな意味で勘違いをして怯えるオメガたちを、なだめるつもりのないシルトは、面倒臭そうに、自分のマントを開いてシュナイエン騎士団の騎士服を見せた。

 ハッと一番年長のオメガ、ブラウ公爵夫人が息を呑み、シルトが誰かを知る。

「アナタは… 北方のシュナイエン騎士団の方ですか?」

「そうだ、そのシュナイエン辺境伯だ! リーラ公爵家とは関係ない、それでお前たちは行くのか行かないのか、どっちだ? 先に言うが連れて行けるのはこの部屋にいる者だけだ!」

 ブラウ公爵夫人は、両隣にいた5、6歳ぐらいの子供たちの手を引き、立ち上がる。


「やれやれ…」

 ハァ―――ッ と、シルトは大きなため息をついた。







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