131 / 178
129話 救出計画2
しおりを挟む深夜となり、人々が寝静まった王都は闇の中に沈み、どこかで吠える犬の声だけが、けたたましく聞こえた。
神殿中央の女神の円環で祈りを捧げるリヒトに… シルトは静かにすり寄り、細い肩に手を乗せ、リヒトの耳元で囁いた。
「行って来る」
「どうか、お気をつけてシルト様」
瞳を閉じたまま、静かに答えたリヒトの首筋に、シルトはキスを1つ落とした。
神殿を出て馬に乗り、シルトたちは静かな街中を疾走し、真っ直ぐ牢獄へと向かう。
予想通り牢獄を守る騎士の数は少なく、タイヒの正確な先導もあり、難無くシルトたちはプファオ公爵家の親族たちを、無事に保護することができた。
保護した人たちはプフランツェ侯爵家から来た馬車に分乗させ、侯爵領を通りアルテーリエ大河を使い、通常の船で北方へ下ることになる。
ここまではシルトたちの作戦通りだったが… 牢獄にはブラウ公爵家の親族たちも、収監されていた。
貴族用の牢獄である。
ブラウ公爵家の者がいてもおかしくは無い。
「どうしましょうか、シルト殿」
タイヒとシルトは正直、リヒトやプファオ公爵をおとしいれたブラウ公爵家のことなど、放置したかったのだが…
ヴァルムがそうさせなかったのだ。
「義兄上! ブラウ公爵家の"花の令息"がいます」
鉄格子を付けた監視用の窓から、ヴァルムは牢の内部を見て学園で見たことがある"花の令息"を見つけた。
「リヒト1人に責任と義務を押し付けた、役立たずの"花の令息"か?」
冷笑を浮かべたシルトは、皮肉を込めてヴァルムに問い返した。
「…はい」
大きなため息を付いて、シルトは仕方なく牢の鍵を開いた。
「"花の令息"を保護する、後は知らん! 扉の鍵は開けておくから勝手にすると良い」
「ア… アナタ方は誰ですか?! リーラ公爵の手のものですね?! 私たちをどうするつもりなのです?!」
怯え切ったブラウ公爵家のオメガたちが大騒ぎをする。
その部屋には、ブラウ公爵の家族だけが、集められていた。
ブラウ公爵自身と王太子の側近だった長男は、恐らくプファオ公爵と同じ場所にいるのだろう。
「"花の令息” を保護するだけだ、他の者は嫌なら来なくて良い! ヴァルム、連れ出せ!」
「嫌っ!! 止めてください、止めて――っ!! 放して―――っ!!」
「ああ、もう! 良いから来てよ! 助けにきたんだから!」
迷わずヴァルムは16、7歳のオメガの細い腕を掴み立たせた。
奴隷商人に売られるとでも思っているのか、見苦しく泣き叫ぶ"花の令息"にうんざりする救出作戦に関わった騎士たち。
正直、シルトは全員置いてゆきたいと思ったが、後からリヒトに責められると、分かっているから、嫌々ながらも保護するのだ。
いろいろな意味で勘違いをして怯えるオメガたちを、なだめるつもりのないシルトは、面倒臭そうに、自分のマントを開いてシュナイエン騎士団の騎士服を見せた。
ハッと一番年長のオメガ、ブラウ公爵夫人が息を呑み、シルトが誰かを知る。
「アナタは… 北方のシュナイエン騎士団の方ですか?」
「そうだ、そのシュナイエン辺境伯だ! リーラ公爵家とは関係ない、それでお前たちは行くのか行かないのか、どっちだ? 先に言うが連れて行けるのはこの部屋にいる者だけだ!」
ブラウ公爵夫人は、両隣にいた5、6歳ぐらいの子供たちの手を引き、立ち上がる。
「やれやれ…」
ハァ―――ッ と、シルトは大きなため息をついた。
3
お気に入りに追加
1,069
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪
naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。
「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」
そして、目的地まで運ばれて着いてみると………
「はて?修道院がありませんわ?」
why!?
えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって?
どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!!
※ジャンルをファンタジーに変更しました。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる