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124話 プフランツェ侯爵領2

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「母上?!」
 目を丸くして、自分に駆け寄ろうとする母親をリヒトが見ていたら…


「母上―――――――っ!!!!」

 姿変えの魔法が組み込まれたペンダントを使い、容姿を擬装ぎそうしたヴァルムが舟から飛び出し、公爵夫人を捕まえて、ギュウ… ギュウ… と抱きしめた。


「え?! どなた?! 誰? この方は誰ですか――っ?! えええええっ?!」
 リヒトに駆け寄り、感動的な親子の再会を果たそうとしていた公爵夫人は…
 いきなり見たことも無い、号泣する男に抱き付かれ… 困惑するばかりだった。


「母上!! 母上!! うううっ… 母上――――――っ!!!」

「えええ?! ど… どなたかと、勘違いをしていませんか? 私はアナタを… 産んだ覚えはあ… ありませんよ?!」

 自分の容姿が、他人になっていることなどすっかり忘れて…
 リヒトと同じ体格の小柄な母を、抱き締めて離さず、大声で叫びながら顔をぐちゃぐちゃにして泣くヴァルム。
  
 シルトの側近たちはその光景を見て、ブフッ… と、同時に噴き出した。

「姿変えの魔法を解かないと… 母上は変な人に抱き付かれたと困っているよ?」
 眉尻を下げながらため息をつき、リヒトは鼻水を母の肩にたらすヴァルムの腕を… トンッ… トンッ… とたたいてなだめた。

「母上! 母上! 母上―――――っ!!!」
 号泣し過ぎて、ヴァルムの耳に人の話は一切届かなかった。

「リリリ、リ… リヒト? こ、こ… この方は、ド… ドコか具合でも… 悪… 悪いのですか?!」
 母は目を白黒させて、号泣する男に細腕を突っ張らせて、グイグイと押し返そうとするが… 
 男の鼻からたれた鼻水が、ビロ~ン… と母の肩から糸を引き、母は何とも言えない複雑な表情になる。


 見るに見兼ねたシルトが、ヴァルムの首根っこを掴み、バリッ… と母から引きはがすと…

「落ち着けヴァルム! 義母上が困っているぞ?」

 ゴツくてっとい指で、ヴァルムのおでこに、カンッ…! と小気味いい音を立てて、デコピンをした。


「痛あっ―――っ!! 痛いですぅ~! 義兄上~!」
 ようやく我に返り、ヴァルムはデコピンをされた額を押さえた。

「今は忙しいのだから、甘えるなヴァルム! さっさと魔法を解け」
 首根っこを放し、シルトはヴァルムの首に掛けた魔法のペンダントを指差した。

 祭祀をとり行う為に、神官たちと神殿に長い時間、こもることになるリヒトよりも…
 シルトと共にプファオ騎士団の騎士や親類たちを、救出する役を担うことになったヴァルムの方が、プファオ公爵家の特徴的な孔雀色の髪と、赤金色の瞳を人目に曝すことが多くなる。


 それだけ危険になるならばと…


 急遽、姿変えのペンダントをヴァルムが使うことになったのだ。

(今は練習時間である)










※ヴァルム、高1~2ぐらいの年齢です。
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