辺境に捨てられた花の公爵令息

122話 王都までの道２ シルトside

　罪人を奪い取れば、どんな理由があっても、辺境伯のシルトとて罪を問われ、大罪人となる。

　国王不在で、無能な王太子しかいない王家や、女神の力を軽んじるリーラ、ブラウの、2公爵が国を支配しようというのなら…
　どのみち、この国は近いうちに滅びると、シルトには先が見えていた。

＜民の命を救うのは良い…　だが、シュメッターリング王国を、リヒトや臣下の命を懸かけてまで救う気は無い！！＞

　北方は、＂花の令息＂リヒトを迎え入れ、魔窟の森は縮小し明るい未来が見えつつある。

＜私の役目は北方と北方で暮す民たちを守り、豊かにすることなのだから＞

　幼い頃からこの国の為に祈り続けて来たリヒトが…
　王太子の我がままで冤罪を押し付けられ、処刑されようとしていても、見殺しにするどころか、娯楽として楽しむ貴族たちを見た時から、シルトはこんな国は滅んだ方が良いのでは無いかと、ずっと思っていた。



「シルト殿、もう１つお話ししたいことがあります…」
　言いにくそうに、タイヒが口を開いた。

「何か問題でも？」

「兄からの伝文によると…　プファオ公爵の命令で魔窟の森の前線で、魔獣退治をしていた、王都に残した私の部下たちが、捕縛され牢に入れられているとのことなのです」
　渋い顔でタイヒがため息をついた。

「何だって？！　プファオ騎士団の、騎士たちがですか？！」
　額にシワを寄せシルトは、いよいよこの国は終わりだと感じた。

「皆、私と同じくプファオ公爵に忠誠を誓う者ばかりで、反乱を恐れてのことでしょうが、彼らを何とか出来ないでしょうか？」
　
「魔獣退治の最前線から、そんな理由で騎士たちを退いたと言うのですか？！」
　シルトは平和ボケした愚か者たちが、魔獣に食い殺されることを心から願った。

「ええ、王立騎士団が魔獣の対処をしているそうですが…　我々プファオ騎士団のようにシュネー城塞で何度かやり合っている騎士とは違い、魔獣を見るのも初めての騎士ばかりなので、犠牲者が…」
　胸が悪くなるような話だと、邪気を拭い取るかのように、タイヒは自分の顔をしきりに掌でこすっていた。

「つまり騎士は騎士でも、人間の相手しかしたことが無い騎士か…」
　魔獣を効率良く退治するには、魔獣の種類、特性に応じた、それぞれ違う戦術が必要になる。

　王都にいる騎士のほとんどが、自ら熱心に学ばなければ、学園で少々習った程度の知識しかない。
　

「命令とはいえ、気の毒に…　シュネー城塞の下級騎士にも劣るのだろうな…　魔獣に餌えさを与えるようなものでは無いか」
　ファーレン叔父の隣にいたオーベンが、開いた地図を見ながら、不愉快そうにつぶやいた。

　何人かが同時に、ため息をつく。



「頭が痛い話だ…！」


　広げた地図の王都付近を、シルトは拳で叩いた。