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121話 王都までの道 シルトside
しおりを挟むプファオ騎士団、副団長のタイヒは、アルテーリエ大河から引いた農業用の水路を使い…
タイヒの実家であるプフランツェ侯爵家の領地を通り抜け、王都近郊までシルトの"船"で進むことを提案した。
当初はプファオ公爵家の領地を通り、王都近郊の村で船から、公爵が用意した馬に乗り換えて神殿へ向かう予定だった。
だが…
国王殺害未遂の大罪を犯したプファオ公爵家は、家名と爵位をの剥奪、領地、資産のすべてを没収され、プファオ公爵家一族全員が捕縛され、処刑されることになるだろうと…
翌日に出る王太子の布告を聞かなくとも、この場にいる全員が、過去に起きた史実から、予測をつけていた。
そして最後には、北方へ流刑にされたリヒトも、処刑の対象になると。
「王都を通り過ぎた先にプフランツェ侯爵家の領地はあるので、少々大回りになりますが、この船の速度であれば、大して変わらないでしょうし」
広げられたシュメッターリング王国の地図を見下ろし、タイヒはプフランツェ侯爵家の領地を指先でトントンと叩き…
地図には記されていない、領地を通る水路をアルテーリエ大河から、タイヒは記憶をたどり指先で示した。
「どうだろう… ファーレン叔父上、行けますか?」
シルトは向かい側に座り、地図を睨み考え込んでいる叔父にたずねた。
「これだけ川幅があれば、船首を真横へと向きを変えることも可能だろう、良い案だと思う」
叔父は顔を上げ、シルトにうなずいた。
「馬での移動距離を極力少なくした方が、目的地の神殿までの移動時間も短縮出来ますし… 何より、リヒト様とヴァルムの安全を確保したいのです」
チラリとタイヒは視線を動かし…
お互いを勇気づけようと、手を繋ぐヴァルムとリヒトの兄弟を見た。
「問題はその馬なのだが…」
<馬を確保できなければ、王都を目の前にして、そこで足止めを食らうことになる>
困った顔でシルトがポリポリと頭を掻く。
「先程、田舎の邸宅の方へ幻鳥を飛ばしたら、兄(プフランツェ侯爵)もプファオ公爵捕縛の報を聞いたらしく、厩舎の馬を自由に使っても構わないと許可をもらいました」
念のためにタイヒは、兄プフランツェ侯爵に、リヒトとヴァルムがシルトに同行していることを伏せている。
プフランツェ侯爵も、弟タイヒが現王妃に嫌がらせを受け、近衛を辞めざる負えなくなって以来、王家に不信感を持ち…
その一方で、タイヒの仲介でプファオ公爵とは、懇意な関係を築いていた。
魔窟の森が拡大し、これからは魔獣の襲撃が激化してゆくから、王都から離れて地方の領地へ避難した方が良いと、プフランツェ侯爵は、プファオ公爵から説得を受けた最初の人物だった。
「ありがたい! タイヒ殿、この借りはいつか必ず返します!」
「いいえ、私1人では、とてもプファオ公爵をお救いすることは出来ませんから、こちらこそ借りをお返ししますよ!」
2人はギュッ… と握手をして、ニヤリと笑い合った。
「リヒトは当初の予定通り神殿へ行き、祭祀をとり行い魔窟の森の拡大を防ぎ、瘴気と魔獣の襲撃を抑え、民の命を救うことを最優先にする」
隣に座るリヒトの肩に手を置き、シルトは自分を見上げる赤金色の瞳に、疑問や不満は無いかと目顔で問いかけた。
「はい、シルト様お任せください!」
コクリとうなずき、リヒトは肩に置かれたシルトの大きな手に、自分の手を重ねた。
<忠臣プファオ公爵の長男と言うだけはあり、この辛い状況でも、リヒトは自分の役目も責任の重さもよく理解している… 義父上同様、本当に頭が下がる!>
誇らしさと愛おしさで、シルトは胸が熱くなり、人前なのも忘れて綺麗な額にキスを1つ落とした。
「その間、我々騎士はプファオ公爵家の人々をそれぞれ救出し、北方へと連れ帰る… ヴァルム、お前は私と来い、良いな?」
シルトは、リヒトの反対隣にいるヴァルムに念押しした。
「はい、義兄上!」
少し前までの動揺を隠し、ヴァルムも兄リヒトと同じようにコクリとうなずく。
<ヴァルムもこの年齢にしては、良く自制心が働いている、流石プファオ公爵の後継者だ!>
シルトもプファオ家の兄弟に、力強くうなずいて見せた。
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