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120話 野営2

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 皆が寝静まり、リヒトは仮眠をさせていたヴァルムを起こしにかかる。
 ぱんっ… ぱんっ… ヴァルムの腕をたたきリヒトは…

「ほらヴァルム、起きなさい! 立派な騎士になりたいなら、見張り番ぐらい出来なければ、安心してお前に背中を預ける人がいなくなるよ?! ヴァルム?!」

「うううう――っ…  痛っ!!」
 穏やかに起こすのが面倒になり、リヒトはなかなか目を開けないヴァルムのお尻をつねったのだ。
 




 焚き火を囲み、大きなあくびをするヴァルムを、苦笑いを浮かべて新婚夫婦が見つめていると…
 シルトの元に、城主館から連絡用の青い幻鳥が届く。


「食事の後で、城主館と定時連絡はすでに終えているのに… 何でしょう?」
 不思議そうにリヒトがつぶやいた。

「何かあったようだ… 魔獣の襲撃で無ければ良いのだが…」
 定時連絡以外で届く幻鳥は、緊急連絡の可能性が大きかった。


「・・・っ!!」
 魔法の伝文を読み進めるうちに、シルトの顔が緊張で強張って行く。

「シルト様?」

「・・・・・・」
 不安そうに、隣に座りシルトを見上げるリヒトに…
 シルトは伝文の内容を伝えるのを一瞬、ためらった。

「義兄上、魔獣の襲撃ですか?!」
 焚火をはさんだ向かい側に座るヴァルムも、シルトの緊張に気付き、一気に目が覚めたらしく…
 シルトが口を開くのを待っていた。


「義父上が… プファオ公爵が、国王陛下の殺害未遂で捕縛されたそうだ!」
 緊張で口が乾き、シルトは唇をぺろりとなめた。

「父上が国王陛下の殺害未遂?! そんなのあり得ない!!」
 リヒトの声に、眠っていた騎士たちが次々と目を覚ました。

「そうだリヒト、プファオ公爵にはあり得ない話だ! この伝文は王都の大神官ヴァッサーファル殿からシュピーゲルに届いたものだが、大神官殿も2公爵にはめられたのは間違いないと言っている」
 気絶するのではないかと思うほど、リヒトは真っ青になり、震えていた。

 自分自身の処刑が決まった時よりも、怯えているのだ。


「そ… そんな… 父上はどうなるのですか?!」
 声を震わせたヴァルムがシルトにたずねた。

「王都中を数日掛けて、大罪人として引き回されてから処刑される… 明日、王太子の名で国中に布告が出される予定だ」
 同じ大罪による処刑でも、国王殺害未遂とリヒトがぬれぎぬを着せられた、男爵令息への暴行とは、比べ物にならないほど、罪の重さが違う。


 震えるリヒトを引き寄せて、シルトは抱き締めた。


「ひどい!! ひどい!! 父上は誰よりも国王陛下と、この国のことを考えているのに!!」

「その通りだリヒト! プファオ公爵ほどの忠臣はいない」
 プファオ公爵の忠誠心が、2公爵たちの反感を買い落とし入れられたのだと、シルトには分かっていた。

「私だけでなく、父上まで!! この国は本当に終わってしまいます!!」
 大きな動揺で流れ落ちる涙を拭うのも忘れ、リヒトはシルトを見上げて言いつのった。

「そうだ、このまま処刑などさせない!!必ず公爵をお救いするぞリヒト!!」
 細いリヒトの肩を力強くつかみ、この場でシルトは誓いを立てるように宣言する。

「シルト様!! シルト様!! …どうか …父上をお願いします!!」
 いつも気丈なリヒトでもこらえきれず、シルトの広い胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

「ボンヤリしてはいられない!! 急がなければ!!」
 いても立っても、いられないと、ヴァルムは斧を装着する為のベルトを騎士服の上に付け始めた。

「待て、ヴァルム! どちらにしても朝までは動けない、それにシルト殿の話は、まだ終わってないぞ!!」
 目を覚まして話を聞いていたタイヒが、ヴァルムの腕をつかんで止めた。

「タイヒ殿の言う通りだヴァルム、今後のことは今のうちに話し合わなければ、ならないのだから、落ち着くんだ!!」

「でも、義兄上!!」
 "ゲヴィターの斧" を引き寄せ、ヴァルムは涙ぐんでお守り代わりに抱き締めた。

 見掛けだけは大人だが、中身はまだ純粋な10代の少年である。

 兄に続いて、父までも大罪人に仕立て上げられたのだから、酷な話だった。



「建国当初からある、女神の子孫と言われる公爵家の当主を無実の罪で斬首すると言うのだ! 王都の愚か者たちこそ女神ヘの反逆行為だと思い知らせてやらないとな!!」


 シルトの瞳が冷たく光る。




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