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116話 シルトの船3 挿絵 地図

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 畑や森を避けて平原を選んで進み、シルトの"船"はアルテーリエ大河まで馬で半日の行程を、わずか1時間半に短縮した。

 船着き場より少々下流に出て、川面にすべり出した"船"は…
 大きなしぶきを上げて王都(上流)へと高速で進む。

 
「わあ、すごい!! 水上だと一段と早くなりますね!!」
 水面ギリギリを飛ぶように進む感覚に…
 リヒトは服がしぶきで濡れても気にせずに、大はしゃぎで船首の縁につかまり顔を出して水面を見下ろした。

「水面には陸地のように、大きな起伏が無いから早く進められるんだ」
 シルトも縁につかまり、船から投げ出されないよう、リヒトの腰を抱いて支えていた。

「なるほど…あっ!! もう船着き場を通り過ぎた!! 何て早いんだ!!」
 瞳をキラキラと輝かせたリヒトは…
 見る見る小さくなってゆく船着き場を見て、満面の笑みを浮かべた。

「ほらリヒト! 上流から下って来た船とすれ違うから、側面へ行こう… 私たちが船首にいては操船の邪魔になってしまうからな」

「ああ! 申し訳ありません、ファーレン叔父上、そこまで思い至りませんでした!」
 慌ててリヒトはシルトと共に船のはしへ寄り、操船台に座るシルトの叔父にペコリと頭を下げた。


「はしゃぐ気持ちは良く分かるさ、私も初めてシルトにこの席に座って操船しろと言われた時には、同じように大はしゃぎしたからな!」
 シルトとよく似た空色の瞳で、楽し気に笑うシルトの叔父ファーレンに…
 やっぱりそうですよね、とリヒトは微笑み返す。

 初めてリヒトが会った時、ファーレン叔父には顔や身体の左側半分に、ただれたような古い瘴気の痕が残っていた。

 だが、毎朝リヒトやシュピーゲルと共に、神殿で朝の祈りに参加するようになると、禍々しい瘴気に侵された痕は綺麗に消え…
 長年ファーレンを苦しめ、生きる気力を奪っていた、古傷の痛みからも解放された。

 失った左手と左足が元に戻ることは無いが、"船"の操船という新たな役目をシルトが任せたことで、ファーレンは騎士時代ほどではないが、気力と健康を取り戻しつつあった。


「わわわわわわっ――――!!! 危ないです兄上!! ひいいいい~っ!!」
 大河を下る船に接近すると、ヴァルムはノイから離れ、叫びながらリヒトに走り寄りギュウギュウとしがみついた。

「もう… こんな大きな身体をして、お前は子ネズミのように気が小さいなぁ!」
 ギュウギュウとしがみつくヴァルムの腕を、リヒトはトンッ… トンッ… とたたいた。

 大きなしぶきを立てて、下る船と無事にすれ違い…

「だって兄上~っ! この船、馬より早いから、すごく怖くないですか?」
 がっくりとヴァルムは、自分より小柄な兄の肩に顎を乗せて、ため息をつく。

「私はドキドキ、ワクワクするけどなぁ?」
 けろりと楽しそうなリヒト。

「今日は叔父上が操船しているから、そんなに怯えなくとも大丈夫だヴァルム! ヘルムだと、ちょっと分からないがな」
 カラカラと笑うシルトに…

「自分は動かせもしないくせに!! うるさいぞ、シルト!!」
 操船台に座ったヘルムが、むっ… と怒鳴る。

 本当は自分が操船を担当したかったが、シルトにはずされて…
 ヘルムは朝からずっと、大人げなくむくれていた。

「お前こそ、うるさい! 気が散るから隣で騒ぐなヘルム!」
 父親に怒られるいい年をした妻子持ちの従兄弟を、シルトはからかいを含んだニヤニヤ笑いで見る。

 幼馴染の気安さである。

「お2人は本当に仲が良いのですね?」
 2人の口喧嘩を見ていて、うらやましそうにリヒトが言うと…

「そういうお前たち兄弟こそ、仲が良いではないか?」

 大きな身体でリヒトにしがみつくヴァルムをチラリと見て…


 シルトは自分と兄ゾネの関係を、ふと振り返った。




【シュメッターリング王国のヴァイス王家が統治する、オースティン大陸の地図】


王都がある西方地域は、これまで『花の令息たち』の祈りの力によって、『魔窟の森』はたいして脅威きょういではありませんでしたが… 読み手さんたちがわかりやすいよう『魔窟の森』が広がっている様子を描いてみました(*´ω`)

ここまで読んで下さり、ありがとうございます☆彡
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