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102話 新婚夫婦2

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「あっ! シルト様、お休みになられている間に、連絡用の幻鳥が届いていましたよ?」
 寝室のすみに寄せてあった小さなテーブルの上で、幻鳥が届き光り輝く魔石付きの板をリヒトは取りに行き、シルトに手渡した。


「カルト伯爵からだ… 恐らくナーデルのことだな」
 険しい表情で内容を読み始めるが… 伝文を読み進めるうちにシルトは口をポカーンと開けていた。

「シルト様? 何が書いてあるのですか?」
 伝文を読み、おかしな反応を示すシルトに、人の伝文を知りたがるのは無作法だと思いつつも…
 好奇心が抑えられず、リヒトは立ったまま、椅子に座るシルトの、逞しい肩に手を置いてたずねた。 

「ナーデルはしつけが悪くて失礼した、伯爵の甥に従順で可愛いいオメガがいるから、妾にしてはどうか? 気に入ったなら妻にしても構わない… だそうだ!」
 首を横に振りながら、シルトはあきれて笑った。

「それはまた… 図太いですね、カルト伯爵という人は! 自分の甥が可愛くないのでしょうか!?」
 実の子であるナーデルの遺体も引き取らずにそれか? とリヒトの腹にグツグツと怒りがわきあがる。

「まだ、続きがある… この縁が結ばれなければ、残念だがカルト騎士団を引きあげる」
 なぜかニヤニヤとおかしそうなシルト。

「脅迫ですか?! なんて恥知らずなんだ!!」
 プリプリと怒るリヒトの腰を引き寄せて… シルトは自分の膝に乗せて、頬にチュッ… とキスをする。

 話に夢中で、照れて逃げ出さないリヒトに、気を良くしたシルトは調子に乗り、首筋にもキスを落としてゆく。

「ナーデルを受け入れなかった時点で、こうなることは予想していたから、手は打ってある」
 シルトは悪い笑みを浮かべた。

「そうなのですか?!」
 不思議そうにリヒトは、きょとんとし… シルトの膝から転げ落ちないように、首に腕をまわした。

「カルト騎士団の下級騎士たちに、昨日シュナイエン騎士団へ正式に入団することを許可した」

 下級騎士はカルト騎士団にいては正式な騎士団員になれず、雇われ騎士扱いのままで、ほとんどの騎士がシュナイエン騎士団への正式な入団を希望している。


「上級騎士たちは、無銭飲食で捕まりクビにされ、借金返済の為にシュナイエン騎士団が雇うことにしているし… カルト伯爵が騎士団を引き上げても、中身の騎士を私がほぼ引き抜いた状態なのさ」

「うわぁ――っ! 何て狡猾こうかつで悪い人なんだ、シルト様は! 流石、私の旦那様ですね!!」
 赤金色の瞳を輝かせて、尊敬の眼差しを向けてはいるが、褒めているのか、けなしているのか分からないリヒトである。




 これでカルト伯爵領で収穫した、割高の農作物を買わなくて済むと、シルトは笑った。

 カルト騎士団をシュネー城塞に派遣することで…
 深刻な騎士不足で悩む、シュナイエン辺境伯家は足元を見られ、カモにされていた部分もあったのだ。








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