辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

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99話 義母と2人

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 リヒトの身体で、奇跡はもう1つ起きていた。

 孔雀色の髪を掌で1つにまとめ、リヒトは自分の項をフォーゲルに見せた。


「本当だ! 奴隷紋が綺麗に消えている」

 処刑場で付けられた性奴隷の紋は、リヒト自身の魔力と結び付けて、組み込まれた魔法を有効にするものだった。

 心臓の拍動と呼吸が止まり短時間ではあるが、肉体が死亡した状態となり、奴隷紋の魔法の根源であるリヒトの魔力の喪失と共に、失効したのだ。


「私もまさかこんなことになっているとは… 女神の花畑を気持ちよく歩いていたら、頬が急に熱くなって、痛くて痛くて目を開いたら、ヴァルムが大声で泣いていて、本当に驚きました」
 髪を放して背中に下ろすと、リヒトはフォーゲルの向かい側の椅子に腰を下ろす。
 

「おやっ!? 死ぬと女神の花畑に旅立つという話は本当なんだね?!」
 興味津々で、フォーゲルが瞳を輝かせる。

「私自身は死んでいたとは、思いもしなかったのですが… でも美しい花畑でした、亡くなた祖父母が手を振っていたので側へ行こうとしたら… "まだ来るのは早い"と諭されて、どうしようかフラフラしていたのです」
 あまり喜んではいけないのだが、リヒトは懐かしい人たちに再会できたことが嬉しくて、自分の胸に手を当てた。

「なるほど… お祖父様とお祖母様がリヒトを救ってくれたのだね」
 プファオ公爵家から贈られた、お茶を淹れたカップを手に取り、フォーゲルは最後の一口を飲み干してテーブルの上の受け皿に戻した。

「はい」
 頬を染め、うっかり死んでしまって、恥ずかしいという顔をするリヒトも、カップを手に取り残りのお茶を飲み干す。



 フォーゲルはうなずきながら、リヒトの話を聞き… 
 リヒトを殺そうとして、逆に自分の命を失ったナーデルを思い出していた。

 心優しいゾネならばきっと… 女神の花畑まで、愛するナーデルを迎えに来ただろうと。




 手に持つカップをテーブルに戻すと…
 不意にリヒトは、ベッドで熟睡するシルトの寝顔を、憂いに満ちた瞳でながめ、ため息をついた。






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今回はドイツ語にお世話になりました。 リヒト→光 プファオ→孔雀 シルト→盾 シュナイエン→雪が降る  フリーゲ→ハエ ギフト→毒 ドウルヒファル→下痢 シュメッターリング→蝶 シュピーゲル→鏡 ナーデル→針 ゾネ→太陽 ヴァルム→暖かい スマラクト→エメラルド  ドイツ語が分かる方、ごめんなさい! きっと吹き出してしまったでしょうね(-_-;)  私はドイツ語、全然わかりませんが…ココまで読んで下さり、ありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです☆彡
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