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85話 祭祀の影響4
しおりを挟むシュネー城塞から少し離れた位置に流れる、女神の力の川から何も無い暗い場所へと、細い川を通すのは案外簡単だった。
それどころかリヒトにとっては、気持ちの良い作業と言っても良い。
<何の気兼ねも無く、女神の力を流すだけで良いなんて! こんな気楽で良いのだろうか?!>
微笑みながらリヒトは、"流れ正しの儀" を続けた。
<暗く淀んでポッカリと空白だった大地に、瞬く間に女神の川からあふれた力が浸透して恵みの光が広がって行く… こんなに早く祭祀の成果が表れるなんて、なんてやり甲斐のある仕事なのだろう!!>
むしろ王都のような、村や町が付近に密集する土地の方が、厄介なのである。
王都付近の女神の川は、少し力を減らしてしまっているが、それでも女神の力が強力なのは変わらない。
女神の力の流れの加減を、ほんの少し間違えると、大災害になりかねないからだ。
その手のことについては、歴代の"花の令息" たちが手記として残した記録を片っ端から読むと、それぞれの令息たちが、どれだけ苦労したかがうかがい知れる。
<ああ! 本当に、腕が鳴る!! ここは、"花の令息" の腕の見せどころ! 私はこの北方の地を初めて整える人間になるのだ!! 何て光栄で誇らしいことだろう!! シルト様ありがとうございます、アナタに出会えて私は本当に果報者です!>
女神の力に抱擁され、リヒトの瞳に歓喜の涙が、一粒こぼれた。
長い長い厳しい夜が明け、シュネー城塞に朝が訪れた。
どんよりと瘴気で曇った寒々しい朝ではなく…
太陽の光が真っ直ぐ大地を照らす、清浄で穏やかな朝だ。
シュネー城塞内で暮す領民たちが、リヒトと共に女神へ祈り続けて勝ち取った朝だった。
祭祀を聞きつけ、シュネー城塞中の人々が、神殿に詰めかけたが中には入れず、仕方なく自分の家で祈りを捧げた領民たちは…
朝になると異変に気付き、家の外へ出て空を見あげた。
「この世の終わりか? オレたちはいつの間にか死んで、女神の世界へ来てしまったのか?」
晴れ渡った青空に、感嘆の声を上げる者もいれば…
「ねぇ!! お空が青いよ?! どうして青いの?! どうして?」
シュネー城塞から、1度も出たことの無い子供たちなどは、晴れた空が青いことを知らず…
不思議そうに首をかしげた。
「何て暖かいのだ! マントを着ていると、暑いぐらいだ!」
重い上着を脱ぎ捨て、素肌で陽光を浴びたいと、裸になる者もいた。
「町が汚れたネズミ色に見える… 何てみすぼらしいんだ!」
雪が消えた、自分たちが暮らす街を見て、文句を垂れる者。
そして人々は口々に、自分の目が信じられないと、隣にいる誰かと言葉を交わしては…
雲1つ無い高い空を、飽きること無く見あげた。
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