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78話 騎士たちの雑談2

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 2メートル越えのシルトより、頭1つ分低いヴァルムの、孔雀色の髪をグシャグシャとかき混ぜて撫でた。


「うううっ!! 私は… 初陣なのでお手柔らかにお願いします、義兄上!」
 赤金色の瞳をヴァルムは、ほんの少し不安そうにゆらした。

「私の初陣も、お前と同じで、学園が長期休暇に入った時だった」
 不安そうな義弟の肩に手を乗せ、シルトは思い出話を始めた。

「え、そうなのですか? もっと早いかと、思っていました」 
 血気盛んな若者らしく、経験談を聞きたいと、瞳を輝かせて、ヴァルムは義兄の顔を見た。

 そんな義弟を見て、シルトは悪い笑みを浮かべる。

「私たちの命令を、厳守するのを忘れなければ、初陣でも何とかなる、バカみたいに功を焦り、無茶なことをしなければ大丈夫だ! うちの治療師は腕が良いから、死ぬほど痛い目にあっても、本当に死ぬことは無いだろうから!!」
 バンッ… バンッ… と、ヴァルムの肩をたたき、シルトは豪快に笑った。

「死… 死ぬことは無いけど… 死ぬほど痛い目に、合うのですか?!」
 気になる言葉を放ったシルトに、ヴァルムは青い顔で、恐る恐るたずねた。

「初陣だからなぁ~! 騎士ならみんな最初に経験することだ! 腕か足の1本は、仕方ないだろう! 私が初めて自分の骨を見たのも、初陣の時だったぞ! ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ!」
 シルトはもっと気になる言葉を、ヴァルムに放った。

「自分の骨――っ?!!!」
 まんまと、シルトの言葉に喰いつき、叫び声を上げるヴァルムの肩を…
 バンッ… バンッ… とシルトは、再び勢い良くたたいた。

「ヴァルムは自分の骨を、見たことあるか? 見ると吐きそうになるんだ、覚悟しろよ! ハッ ハッ ハッ ハッ ハッ!」
 義兄シルトは鷹揚おうような態度で笑った。

 ヴァルムはすでに、吐きそうな顔をしている。

「・・・・・・っ!」
 義兄の話は真実なのかと、ヴァルムは尊敬する副団長タイヒを見ると、ニヤリと笑い黙ってうなずいた。


「ヒッ…!」
 ヴァルムはまだ信じられず、シルトの側近たちの顔を見ると…
 オーベンとノイ、その後ろで一言も話さずうなずくだけの、寡黙かもくな男フェルゼンまで、ニヤリと笑いタイヒと同様に黙ってうなずいた。 

 ヒッエエエエ――――――ッ!!!! 声無き悲鳴を上げるヴァルム。



 自分の魔法の腕に絶対的な自信を持つ若いヴァルムが、父親から強力な武器、"ゲヴィターのおの" を与えられたのだから…
 初陣の戦場で高揚感に呑まれ、シルトの命令を無視して暴走するのではないかと心配し、経験豊富な大人の騎士たちは、前もってヴァルムを脅して、本当に骨が見えるような大怪我をしないよう、釘を刺しているのだ。


「治療師がいる、救護所まで自力で歩いて行くのがまた、痛くて… その場で死にたいと思うほど、強烈に痛いんだ!! 頑張れよヴァルム!! ハッ ハッ ハッ ハッ!」

 実際にシルト自身がやらかした、経験談である。



 バンッ… バンッ… バンッ… ともう一度、義弟の肩をたたくシルト。 








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