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77話 騎士たちの雑談

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 魔窟まくつの森が良く見える、城壁上部の歩廊ほろうに立つシルトとその側近たち。

「ずいぶん瘴気の勢いが増したな… まったく!! 後、3日ぐらいは大丈夫だと思っていたのに、目算を誤った! おかげで2度目の初夜がおあずけだ!! クソッ!!」

 忌々いまいましそうに新婚のシルトは、魔窟の森に向かってはき捨てた。


「残念ですが、我慢ですよシルト様! リヒト様もきっと残念に思っているはずです、一緒に我慢です、我慢!!」
 ノイが色ボケ君主を、隣で慰めた。

 大勢の民と神官、重臣たちに囲まれて、神殿で大きな祭祀をとり行う最中は、誰もリヒトに手を出すような、愚か者はいないだろうと、ノイは一時的にリヒトの護衛任務をはずされている。

(今回シルトは、無銭飲食で牢獄に入れたカルト騎士団の上級騎士たちに、少しでも借金返済の機会を与えようと、特別に魔獣退治に参加させることにした)

「プファオ騎士団が間に合って、本当に良かった! 公爵には感謝しないといけませんね、カルト騎士団の上級騎士たちの体たらくを考えると、心許ないですし」
 ため息をつきながらオーベンは、新婚ホヤホヤの色ボケ主君に、乾いた笑いを送った後…
 満面の笑みを浮かべて、リヒトの弟ヴァルムと、プフアオ騎士団、副団長タイヒを見た。


「プファオ公爵にはずいぶん急かされましたから… こちらの状況は悪くなる一方だと聞いていましたし、ですがこれほど切迫していたとは驚きです! 王家は本当に、何をやっているのでしょうね?!」 

 タイヒ副団長の王家嫌いは、筋金入りである。

 侯爵家の次男として生まれたタイヒは、元々は王立騎士団の中でも、王族を護衛する精鋭部隊の近衛に属していた。

 当時は側妃であったが、王太子の母親である現王妃付の護衛騎士だったタイヒは、王妃に愛人になれと執拗に迫られ…
 きっぱりとタイヒが断ると、王妃に何かと難癖なんくせを付けられるようになった。

 実家である侯爵家の立場を考えると、タイヒは王妃の不貞を公にすることも出来ず、泣き寝入り状態で騎士団を追われそうになり…
 そんな時、プファオ公爵に腕を見込まれ、副団長待遇で引き抜かれたのだ。
(ちなみにプファオ騎士団の団長とは、名目上ではプファオ公爵自身のことであり、タイヒが実質的に騎士団長である)

 プファオ騎士団に入団したその日から、タイヒは王家ではなく、プファオ公爵家に忠誠を誓っていた。


「本当に、副団長の言う通りです!! 療養中の国王陛下はともかく、本心から王太子殿下に忠誠を誓う者はいないでしょうね… 今まではあの方が、将来、私の義兄になるのだから、尊敬しようと努力しましたが…」
 ヴァルムはチラリと、アナタは本当に尊敬出来る人ですか? と義兄になったシルトに視線を移す。

「"尊敬しようと努力した" か…?」
 自分を値踏みするような、義弟ヴァルムの視線に気づき、シルトはニカッ… と笑った。 

「はい、結局1度もそんな気は、起きませんでしたが…」
 スラリと背が高く、プファオ騎士団の騎士服を着たヴァルムの姿は、見掛けだけならリヒトより、年上の大人に見えるが…
 口を開くと無邪気な大らかさがにじみ出て、シルトはそんな義弟を気に入っていた。

「私の真価は魔獣退治の場で、しっかりその目で確かめると良い! 私もお前の技量を測るつもりだから覚悟しろよ?」
 2メートル越えの自分より、頭1つ分低いヴァルムの孔雀色の髪を、シルトはグシャグシャとかき混ぜるように撫でた。


「うううっ!! 私は… 初陣なのでお手柔らかにお願いします、義兄上!」


 赤金色の瞳をヴァルムは、ほんの少し不安そうにゆらした。








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