辺境に捨てられた花の公爵令息

72話 許可証 シルトside

 よく似た兄弟を見つめながら、シルトはやれやれ困ったなぁ…　と頭をかいた。

＜プファオ公爵から連絡があった時は、シルトもリヒトに、＂ほぼ全て＂　の内容を話しているが…＞


　几帳面な公爵らしく、頻繁ひんぱんに王都の状況を知らせようと、シルトへと幻鳥で送って来るのだが…
　送られて来る公爵のリヒトへの伝文は、いつも簡潔で素っ気ないのだ。

『心配するな、2人は元気だ』　とか…　

『シルト様に、誠心誠意仕えろ』　とか…

『自分の役目を、忘れるな』　とか…


　長男とよく似た愚直なほど、生真面目な気質の公爵は、シュナイエン辺境伯のシルトに敬意を払い、私事である息子への伝文は、極力無くしているのだ。

　逆にシルトの方は、公爵が心配しない様にと、リヒトの近況を出来る限り伝えるようにしている。



　流石に…

『息子さんの発情期にガツガツと貪るように、抱きました！』とか…

『魔力交換して、すでに身体と心の相性は確認済みで、＂運命の番＂　だと感じています！』　とか…

『毎晩、同じベッドで抱きしめながら、眠ってます！　抱き心地が最高で、止められません！！』　とか…

『暇さえあれば、可愛い唇にキスをしまくっています！！』　とか…

『結婚を申し込んだら、速攻で断られた…っ！？　チクショ―――ッ！！』　だとかは…

　公爵には伝えていない。


　そしてシルトは、リヒトにも1つだけ、内緒にしていることがある。

　初めてリヒトを抱き魔力交換をした日に…

『御令息リヒト殿が気に入ったので、全身全霊で守りますから、どうか結婚の許可を下さい』　と…

　シルトは宿から幻鳥を飛ばし、公爵に願い出て、快くリヒトを妻にする許可をもらっている。

　姑息な手ではあるが、シルトは先にリヒトとの結婚の為に、外堀を埋めていた。



　リヒトの弟ヴァルムから、公爵の使者としてとても大切なものを、シルトはこっそり受け取っていた。

　王都の大神官ヴァッサーファルが、自ら作成した、特別結婚許可証である。

　高位の神官にしか発行できない書類で…
　これが有れば、婚姻を結ぶ2人の名前を署名して、神官の前で夫婦の誓いを立てれば、即結婚が成立するという、便利な書類である。

　平民同士の結婚とは異なり、高位貴族の結婚は、成立させるまでに通常だと、面倒な手続きが幾つもあり、場合によっては数か月かかることもある。

　何よりモタモタと、婚姻の申請をしている間に、そのことが王太子の耳に入れば…
　王太子一派からの、邪魔が入る危険もあった。


『プファオ公爵、面倒な輩に知られて邪魔をされる前に、私は法的にリヒトとの婚姻を済ませたいのです』

　婚姻についての心配事を、有能な公爵にシルトが相談をしたところ…
　辺境からでは困難だろうと、公爵がシルトに代わり大神官に話を通し、秘密裏に準備を進めてくれたのだ。

　
　後はリヒトの、心次第である。

＜さてと…　どう、口説き落としてやろうか？＞



　弟や副騎士団長タイヒから、実家の状況を聞き、顔を曇らせたり、瞳を輝かせたりするリヒトの姿を…


　黙って見つめながら、シルトは思案した。