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66話 カルト騎士団の団長2
しおりを挟む「な… 何ですと?! 何と無礼な!! 先程、言ったように、我々が魔獣退治に参加出来なかったのは、下級騎士たちが魔獣襲撃の連絡を怠ったからだと、言ったではありませんか!!」
顔を赤くして立ち上がり、シルトを睨み付けるヴァイネン。
「ヴァイネン殿、その酒臭い息を吐きながら、叫ぶのは止めてくれないか? 不愉快でたまらない」
のっそりと立ち上がり、シルトは大柄な体格を活かして、ヴァイネンを上から見下ろした。
「何ですと?! いくらアナタでも正式に抗議させてもらう!! カルト伯爵がこのことを知ったら…」
わめき散らすヴァイネンを、不愉快そうにシルトは睨み付けた。
「何か誤解をしていないか? アンタは昨夜… いや、ずっと以前からカッツェの店で飲み食いをしても、飲食代を払わないとシュナイエン騎士団の治安維持部に訴えが出ているから、私はこうして出向いて来たのだが?」
魔獣退治に参加しなかった理由をたずねるフリをして…
シルトは無銭飲食をしていた事実を、ヴァイネンの口から聞き出していたのだ。
「なっ…?!」
「こんだけ酒臭い息を吐いていて… 違うとは言わせないぞ、ヴァイネン!! アンタたちは騎士として牢獄に入るのではなく、食い逃げをした犯罪者として牢獄に入れられるのだ!!」
オーベンとフェルゼンが素早くヴァイネンを取り押さえて、手首に魔法を使えなくする手枷をはめた。
「こ… こんなことをして良い訳がない!! カルト伯爵が知ったら困るのはそちらだ!!」
「このことについては、すでにカルト伯爵に報告してある、伯爵がこちらに来られたら、弁明は自分ですると良い! …それと今までの飲食代は、全てカルト騎士団に請求するから、アンタたちへの報酬から全部引かれることになるだろうな! それで足りなければ覚悟しておけよ?!」
ここまで言われて、ヴァイネンはようやく、ことの重大さに気が付いたらしい。
飲み食いした分を、報酬で返せなければ、本当に犯罪者になるという意味である。
「待ってくれ…!」
犯罪を犯した騎士は、当然のことだが騎士の地位を取り消され、2度と騎士として働けなくなるのだ。
(一目で犯罪者と確認できるように、烙印を額に入れられる)
たとえカルト騎士団に所属していようと、実際に犯罪を犯した騎士ならば治安維持のために、辺境伯が処罰することは、けして越権行為ではない。
「カルト騎士団の上級騎士不在でも、昨夜はトロール9体を仕留めた、アンタがバカにした下級騎士たちの奮闘と、私の愛するリヒトが居たからだ!!」
「…トロールが9体?!」
愚かにも昨夜の襲撃について、ヴァイネンは何も調べなかったのだ。
「ヴァイネン、酒のせいで魔獣並みに頭まで鈍ったようだな! アンタら自身が、自分たちが居なくとも魔獣の襲撃を抑えられることを、昨夜、証明したのさ!」
みじめに手枷をはめられ、がっくり肩を落としたヴァイネンを、廊下に待たせていたシュナイエン騎士団の治安維持部の騎士に引き渡した。
これ以上、当てにならない騎士たちをシュネー城塞内で暮す民たちの不満をおさえてまで、一瞬でも長く放置するほどシルトは甘くなかった。
「さてと! 我々もさっさと帰って、今夜の祭祀に向けて休むとしよう…」
やれやれと、ため息をつきながら、シルトは肩を回しコキコキと関節を鳴らした。
シルトとその側近たちは前日の昼間、アルテーリエ大河の船着き場で、船を降りてから城塞に戻り…
その深夜には魔獣の襲撃に対応したりと、ずっと不眠不休で働いていた。
「さすがに疲れましたね…」
目の下にくまを作ったオーベンがため息をつき、フェルゼンがうなずく。
「まったくだ!」
瞳を閉じると一瞬で眠りに落ちそうになるシルトの元へ、連絡用の青色に輝く幻鳥が、城主館から飛んで来た。
連絡板を出して幻鳥を受け入れ、シルトは伝言を読むと…
「どうやら眠るのは、もう少し後になりそうだ!」
伝言を見たら目が覚めたと…
大慌てでシルトは、カルト騎士団の宿舎を飛び出した。
「あああ―――っ…」
シルトより年長のオーベンとフェルゼンは、顔を見合わせて…
まだまだ元気な主を、ため息をつきながら、渋々追いかけた。
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