辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
68 / 178

66話 カルト騎士団の団長2

しおりを挟む

「な… 何ですと?! 何と無礼な!! 先程、言ったように、我々が魔獣退治に参加出来なかったのは、下級騎士たちが魔獣襲撃の連絡をおこたったからだと、言ったではありませんか!!」
 顔を赤くして立ち上がり、シルトを睨み付けるヴァイネン。

「ヴァイネン殿、その酒臭い息を吐きながら、叫ぶのは止めてくれないか? 不愉快でたまらない」
 のっそりと立ち上がり、シルトは大柄な体格を活かして、ヴァイネンを上から見下ろした。

「何ですと?! いくらアナタでも正式に抗議させてもらう!! カルト伯爵がこのことを知ったら…」
 わめき散らすヴァイネンを、不愉快そうにシルトは睨み付けた。

「何か誤解をしていないか? アンタは昨夜… いや、ずっと以前からカッツェの店で飲み食いをしても、飲食代を払わないとシュナイエン騎士団の治安維持部に訴えが出ているから、私はこうして出向いて来たのだが?」
 魔獣退治に参加しなかった理由をたずねるフリをして…
 シルトは無銭飲食をしていた事実を、ヴァイネンの口から聞き出していたのだ。

「なっ…?!」

「こんだけ酒臭い息を吐いていて… 違うとは言わせないぞ、ヴァイネン!! アンタたちは騎士として牢獄に入るのではなく、食い逃げをした犯罪者として牢獄に入れられるのだ!!」
 オーベンとフェルゼンが素早くヴァイネンを取り押さえて、手首に魔法を使えなくする手枷をはめた。

「こ… こんなことをして良い訳がない!! カルト伯爵が知ったら困るのはそちらだ!!」

「このことについては、すでにカルト伯爵に報告してある、伯爵がこちらに来られたら、弁明べんめいは自分ですると良い! …それと今までの飲食代は、全てカルト騎士団に請求するから、アンタたちへの報酬から全部引かれることになるだろうな! それで足りなければ覚悟しておけよ?!」 

 ここまで言われて、ヴァイネンはようやく、ことの重大さに気が付いたらしい。

 飲み食いした分を、報酬で返せなければ、本当に犯罪者になるという意味である。


「待ってくれ…!」

 犯罪を犯した騎士は、当然のことだが騎士の地位を取り消され、2度と騎士として働けなくなるのだ。
(一目で犯罪者と確認できるように、烙印らくいんを額に入れられる)

 たとえカルト騎士団に所属していようと、実際に犯罪を犯した騎士ならば治安維持のために、辺境伯が処罰することは、けして越権えっけん行為ではない。


「カルト騎士団の上級騎士不在でも、昨夜はトロール9体を仕留めた、アンタがバカにした下級騎士たちの奮闘と、私の愛するリヒトが居たからだ!!」


「…トロールが9体?!」
 愚かにも昨夜の襲撃について、ヴァイネンは何も調べなかったのだ。

「ヴァイネン、酒のせいで魔獣並みに頭まで鈍ったようだな! アンタら自身が、自分たちが居なくとも魔獣の襲撃を抑えられることを、昨夜、証明したのさ!」

 みじめに手枷をはめられ、がっくり肩を落としたヴァイネンを、廊下に待たせていたシュナイエン騎士団の治安維持部の騎士に引き渡した。


 これ以上、当てにならない騎士たちをシュネー城塞内で暮す民たちの不満をおさえてまで、一瞬でも長く放置するほどシルトは甘くなかった。



「さてと! 我々もさっさと帰って、今夜の祭祀に向けて休むとしよう…」

 やれやれと、ため息をつきながら、シルトは肩を回しコキコキと関節を鳴らした。

 シルトとその側近たちは前日の昼間、アルテーリエ大河の船着き場で、船を降りてから城塞に戻り…
 その深夜には魔獣の襲撃に対応したりと、ずっと不眠不休で働いていた。


「さすがに疲れましたね…」
 目の下にくまを作ったオーベンがため息をつき、フェルゼンがうなずく。


「まったくだ!」
 瞳を閉じると一瞬で眠りに落ちそうになるシルトの元へ、連絡用の青色に輝く幻鳥が、城主館から飛んで来た。

 連絡板を出して幻鳥を受け入れ、シルトは伝言を読むと…

「どうやら眠るのは、もう少し後になりそうだ!」

 伝言を見たら目が覚めたと…
 大慌てでシルトは、カルト騎士団の宿舎を飛び出した。




「あああ―――っ…」

 シルトより年長のオーベンとフェルゼンは、顔を見合わせて…

 まだまだ元気な主を、ため息をつきながら、渋々追いかけた。








しおりを挟む
今回はドイツ語にお世話になりました。 リヒト→光 プファオ→孔雀 シルト→盾 シュナイエン→雪が降る  フリーゲ→ハエ ギフト→毒 ドウルヒファル→下痢 シュメッターリング→蝶 シュピーゲル→鏡 ナーデル→針 ゾネ→太陽 ヴァルム→暖かい スマラクト→エメラルド  ドイツ語が分かる方、ごめんなさい! きっと吹き出してしまったでしょうね(-_-;)  私はドイツ語、全然わかりませんが…ココまで読んで下さり、ありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです☆彡
感想 47

あなたにおすすめの小説

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...