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61話 後始末2
しおりを挟むベッド脇の椅子に置かれた、シルトに脱がされた晩餐用の服を…
リヒトは慌てて頭からかぶり身に着けると、旅の間中ずっと着ていたマントを羽織った。
だが、扉を開けようとするが、魔法で閉じられびくともしない。
「誰か、ここを開けて下さい!! 誰か―――っ!!!」
夢中で叫びながら、リヒトは扉を、ドンッ!… ドンッ!… ドンッ!… と拳で叩くと…
「申し訳ありません、リヒト様! どうかお心を静めて、お待ちください!」
廊下側からノイが、語り掛けて来た。
「ノイ殿?! そこにいらっしゃるのですか?! この扉を開けて下さい!! 私も行かなければ… 騎士として来たのですから!! 魔獣に襲撃されているのでしょう?!」
必死でリヒトはノイを説得するが、頑として願いは聞き入れられず…
「シルト様が、リヒト様のことを思えばこそなのです!」
ノイもリヒトを説得し続けた。
「どうしても、ダメなのですね? 分かりました、諦めます…」
「良かった! リヒト様ありがとうございます!!」
胸を撫で下ろし、ノイがホッ… としたのも束の間。
「ですからノイ殿、扉から少し離れていて下さい!」
「…え?」
廊下側に立つノイの前で、小さな雷が四角い扉枠をピシッ… ピシッ… と這いまわる。
「ああああ――っ… リヒト様!! ダメです!! ダメですったら!!」
慌ててノイは、扉から離れた。
不穏なミシシッ… と扉の枠が軋む音が、したかと思うと…
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオォォォォォ―――――――――ッンンンンツッッ!!!!!
城主館中に地響きを立て、周りの壁ごと扉が…
バリッ… バリッ… バリッ… バリッ… バリッ… バリッ… と、破砕されながら吹っ飛んだ。
「ウウッ…!」
ゲホッ… ゲホッ… と、土煙で咳き込みながら、ノイは扉があった場所を振り向くと…
モウモウと立つ土煙の中を、怒れるリヒトが赤金色の瞳をギラギラ光らせて、軽やかに歩いて来た。
「・・・・・・」
口をパカリと開き… シルトは扉と壁だった物が散乱した、自室の代わり果てた姿を呆然とながめた。
壁が吹き飛んだ轟音で、飛び起きて来た母フォーゲルが…
目を吊り上げたリヒトを抱き締めながら、辺境伯の息子に説教をする。
「魔獣退治ぐらい、見学させてやれば良いのです!! 可哀そうにアナタを心配して、こんなに動揺してしまって!!」
少しもリヒトは悪く無いよ… と、頭を撫でるフォーゲル。
「母上…」
愕然とするシルトの後ろに、そっとフェルゼンが着て、耳元で忠告する。
「シルト様、我慢ですよ… 我慢! ここは跪いて、許しを請うて置かないと、2度とリヒト様のベッドに、入れてもらえなくなりますよ?」
妻子持ちのフェルゼンは、嫁とケンカした時は、いつもこの手で乗り切るのだ。
シルトはガックリと肩を落とし、跪いてフェルゼンの忠告に従った。
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