辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
61 / 178

59話 雷光 シルトside

しおりを挟む
 
 下級騎士たちに手柄を立てさせる為に、シルトは馬の背から何度もトロールの足元に魔法を打ち込み、小山を作り巨体を転がして支援した。

 正式な騎士団員たちとは違い、雇われる身の下級騎士たちは、ある程度は手柄を立てなければ、所属する騎士団から契約を解かれてしまうからだ。

<ここまで上手く連携が取れるようになった騎士たちを、辞めさせられては困るからな!>


 雇っている騎士団側が、騎士たちに報酬を支払う以上、たとえ辺境伯のシルトであっても、雇用に関する口出しは越権えっけん行為となる為、簡単には出来ないのだ。

 だからと言って手柄を立てていない下級騎士を、シュナイエン騎士団に受け入れるのも難しい。

 つまりシュナイエン騎士団で受け入れ可能な基準に、下級騎士たちが達するように、シルトは支援しているのだ。

みな… 良くやっているが、今回は相手が悪かったか?!>


 騎士の1人がトロールに捕まり、投げ飛ばされるのを見て、シルトは険しい表情で馬を走らせ飛び降りる…
 大きめの小山を作り、それを踏み台にして魔石付きの剣に魔力を込めて、トロールの首をねた。

 飛ばされた騎士の元へ行き、ケガの有無を確認すると、どうやら足を折っただけだった。

 傷から瘴気しょうきが発生するような、魔傷はない様子で、ホッ… と、シルトは胸を撫で下ろす。


「この程度のケガなら、治療師の魔法で後遺症も無く完治するだろう」
 今回は運が無かったな… とケガをした騎士の肩に手を置きなぐさめた。

 顔を上げた瞬間、シルトの目に側近がトロールの大きな手で、馬から叩き落とされそうになるのが見え…

「フェルゼン―――ッ!!!」
 慌ててシルトは、無口な大男フェルゼンを襲うトロールの足元に、魔法を放とうと手を出すが…

 辺り一面が真昼のようにまぶしいほど真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と音がすると光は消え、トロールが硬直しドスンッ…! と倒れた。


「うわっ!! 何が起きているんだ?」
 状況が把握できず、騎士たちが呆然ぼうぜんとしていると…
 再び雪原が真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と音がして、トロールがもう一体倒れた。

「何なんだ?! これは女神のさばきか?!」
 青ざめたオーベンが、転がったトロールを見下ろすと…
 雪原に転がったトロールがビクッ… ビクッ… と痙攣けいれんしながら、まだ生きていた。

「オイッ!! まだ、生きているぞ!! 早くとどめを刺せ!!」
 呆然ぼうぜんとしていた騎士たちは、オーベンの呼びかけで我に返り、慌てて転がったトロールに攻撃を再開した。
 

「あ―――っ… マズイ…! マズイ…! もう、起きたのか?!」
 これ以上無いほどシルトの眉尻は下がり、情けない顔で城壁上部の歩廊ほろうを見上げた。

 続けて雪原が光り、バリッ…! バリッ…! と音を立て、順番に1体づつトロールが転がってゆく。

 
「シルト様… これは一体?!」
 興奮して落ち着かない馬から下りて、オーベンは雪原に立つシルトの隣に行くと…

「リヒトだ! まったく無茶な使い方をして、これではすぐに魔力切れで倒れるぞ!!」
 魔力交換をした間柄だからこそ、シルトには分かるのだ。

 雪原に漂う魔法の痕跡から感じる魔力が、誰のものなのかを。

「こ… これが有名なプファオ公爵家の"雷"イカヅチの魔法ですか? 女神の天罰では無くて?!」

 アッ… と言う間にトロールが全部倒れ、騎士たちがとどめを刺し、魔獣退治が終ったかに見えたが…
 ハァ―――ッ… と長~いため息をつき、腕組みをして下を向くシルトの真横すれすれに… 
 ビカッ…! と真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と、イカヅチが落ちた。

 シルトの真横の雪がとけ、ぽっかりと穴が開き黒い地面から、シュウ… シュウ… と音を立てて湯気が上がる。

「ああああああ―――っ… リヒトはトロールと一緒に、私も退治する気だ!」
 渋い顔でシルトは、リヒトが開けた穴を見下ろした。

「だから言ったでは、ありませんか… 見学だけでも城塞上部からさせるべきだと、リヒト様の性分では過保護にし過ぎると嫌われますよ?」
 オーベンも困った顔をする。

「ああああああ―――っ… 困った… どうしよう!」
 青銀色の髪を、グシャグシャと、かきむしりながらシルトはあせる。

「シルト様、こういう時はひたすら謝るのです! たとえ相手が間違っていても、謝るのです! けして口答えをしてはいけませんよ? その時は更なる地獄を見ることになりますから!」
 妻子持ちである大男フェルゼンが、珍しく雄弁に語りシルトの肩に手を置いた。

「やはり、その手しかないか…?」

 情け無さそうに、肩を落とすシルト。 




 2人の側近と共に、シルトは城壁上部の、ビカッビカッと雷光を放つリヒトを黙って見つめた。








しおりを挟む
今回はドイツ語にお世話になりました。 リヒト→光 プファオ→孔雀 シルト→盾 シュナイエン→雪が降る  フリーゲ→ハエ ギフト→毒 ドウルヒファル→下痢 シュメッターリング→蝶 シュピーゲル→鏡 ナーデル→針 ゾネ→太陽 ヴァルム→暖かい スマラクト→エメラルド  ドイツ語が分かる方、ごめんなさい! きっと吹き出してしまったでしょうね(-_-;)  私はドイツ語、全然わかりませんが…ココまで読んで下さり、ありがとうございます、楽しんで頂ければ幸いです☆彡
感想 47

あなたにおすすめの小説

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

とろけてまざる

ゆなな
BL
綾川雪也(ユキ)はオメガであるが発情抑制剤が良く効くタイプであったため上手に隠して帝都大学附属病院に小児科医として勤務していた。そこでアメリカからやってきた天才外科医だという永瀬和真と出会う。永瀬の前では今まで完全に効いていた抑制剤が全く効かなくて、ユキは初めてアルファを求めるオメガの熱を感じて狂おしく身を焦がす…一方どんなオメガにも心動かされることがなかった永瀬を狂わせるのもユキだけで── 表紙素材http://touch.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=55856941

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

僕はただの平民なのに、やたら敵視されています

カシナシ
BL
僕はド田舎出身の定食屋の息子。貴族の学園に特待生枠で通っている。ちょっと光属性の魔法が使えるだけの平凡で善良な平民だ。 平民の肩身は狭いけれど、だんだん周りにも馴染んできた所。 真面目に勉強をしているだけなのに、何故か公爵令嬢に目をつけられてしまったようでーー?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...