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59話 雷光 シルトside
しおりを挟む下級騎士たちに手柄を立てさせる為に、シルトは馬の背から何度もトロールの足元に魔法を打ち込み、小山を作り巨体を転がして支援した。
正式な騎士団員たちとは違い、雇われる身の下級騎士たちは、ある程度は手柄を立てなければ、所属する騎士団から契約を解かれてしまうからだ。
<ここまで上手く連携が取れるようになった騎士たちを、辞めさせられては困るからな!>
雇っている騎士団側が、騎士たちに報酬を支払う以上、たとえ辺境伯のシルトであっても、雇用に関する口出しは越権行為となる為、簡単には出来ないのだ。
だからと言って手柄を立てていない下級騎士を、シュナイエン騎士団に受け入れるのも難しい。
つまりシュナイエン騎士団で受け入れ可能な基準に、下級騎士たちが達するように、シルトは支援しているのだ。
<皆… 良くやっているが、今回は相手が悪かったか?!>
騎士の1人がトロールに捕まり、投げ飛ばされるのを見て、シルトは険しい表情で馬を走らせ飛び降りる…
大きめの小山を作り、それを踏み台にして魔石付きの剣に魔力を込めて、トロールの首を刎ねた。
飛ばされた騎士の元へ行き、ケガの有無を確認すると、どうやら足を折っただけだった。
傷から瘴気が発生するような、魔傷はない様子で、ホッ… と、シルトは胸を撫で下ろす。
「この程度のケガなら、治療師の魔法で後遺症も無く完治するだろう」
今回は運が無かったな… とケガをした騎士の肩に手を置き慰めた。
顔を上げた瞬間、シルトの目に側近がトロールの大きな手で、馬から叩き落とされそうになるのが見え…
「フェルゼン―――ッ!!!」
慌ててシルトは、無口な大男フェルゼンを襲うトロールの足元に、魔法を放とうと手を出すが…
辺り一面が真昼のようにまぶしいほど真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と音がすると光は消え、トロールが硬直しドスンッ…! と倒れた。
「うわっ!! 何が起きているんだ?」
状況が把握できず、騎士たちが呆然としていると…
再び雪原が真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と音がして、トロールがもう一体倒れた。
「何なんだ?! これは女神の裁きか?!」
青ざめたオーベンが、転がったトロールを見下ろすと…
雪原に転がったトロールがビクッ… ビクッ… と痙攣しながら、まだ生きていた。
「オイッ!! まだ、生きているぞ!! 早く止めを刺せ!!」
呆然としていた騎士たちは、オーベンの呼びかけで我に返り、慌てて転がったトロールに攻撃を再開した。
「あ―――っ… マズイ…! マズイ…! もう、起きたのか?!」
これ以上無いほどシルトの眉尻は下がり、情けない顔で城壁上部の歩廊を見上げた。
続けて雪原が光り、バリッ…! バリッ…! と音を立て、順番に1体づつトロールが転がってゆく。
「シルト様… これは一体?!」
興奮して落ち着かない馬から下りて、オーベンは雪原に立つシルトの隣に行くと…
「リヒトだ! まったく無茶な使い方をして、これではすぐに魔力切れで倒れるぞ!!」
魔力交換をした間柄だからこそ、シルトには分かるのだ。
雪原に漂う魔法の痕跡から感じる魔力が、誰のものなのかを。
「こ… これが有名なプファオ公爵家の"雷"の魔法ですか? 女神の天罰では無くて?!」
アッ… と言う間にトロールが全部倒れ、騎士たちが止めを刺し、魔獣退治が終ったかに見えたが…
ハァ―――ッ… と長~いため息をつき、腕組みをして下を向くシルトの真横すれすれに…
ビカッ…! と真っ白に光り、バリッ…! バリッ…! と、雷が落ちた。
シルトの真横の雪がとけ、ぽっかりと穴が開き黒い地面から、シュウ… シュウ… と音を立てて湯気が上がる。
「ああああああ―――っ… リヒトはトロールと一緒に、私も退治する気だ!」
渋い顔でシルトは、リヒトが開けた穴を見下ろした。
「だから言ったでは、ありませんか… 見学だけでも城塞上部からさせるべきだと、リヒト様の性分では過保護にし過ぎると嫌われますよ?」
オーベンも困った顔をする。
「ああああああ―――っ… 困った… どうしよう!」
青銀色の髪を、グシャグシャと、かきむしりながらシルトは焦る。
「シルト様、こういう時はひたすら謝るのです! たとえ相手が間違っていても、謝るのです! けして口答えをしてはいけませんよ? その時は更なる地獄を見ることになりますから!」
妻子持ちである大男フェルゼンが、珍しく雄弁に語りシルトの肩に手を置いた。
「やはり、その手しかないか…?」
情け無さそうに、肩を落とすシルト。
2人の側近と共に、シルトは城壁上部の、ビカッビカッと雷光を放つリヒトを黙って見つめた。
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