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57話 騎士たち
しおりを挟む魔法が使える者、使えない者、どちらも量は違えど、命ある者の身体には魔力が宿っている。
人間の血肉を喰らい魔力を得る… 魔獣はその魔力を命の糧としていた。
ほとんどの魔獣がシュネー城塞内で暮す人々の身体に宿る魔力を感知し、城塞に襲撃を掛けるのだが…
狩り損ねた魔獣などが北方に散らばり、小さな村などを襲い害をなすのだ。
そうならないように、魔獣は1匹残らず掃討する為に、騎士たちは城門から出て魔獣に接近戦を仕掛けなければならない。
城門の内側で愛馬を引くシルトの元に…
見張り台から送られた朱色に光る幻鳥が、板の上に舞い降り、朱色の文字が宙に浮かぶ。
「どうやら、面倒な迷子はいないようだ! 魔獣は全部こちらへ向かっている!」
騎士たちに聞こえるように、見張り台からの伝言を読み上げると、連絡板をしまい、シルトは馬に乗った。
「シルト様!! カルト騎士団の魔法を有する、上級騎士たちが来ていません!!」
オーベンが慌てて、新たな報告を伝えた。
カルト騎士団とは、ナーデルの実家であるカルト伯爵家から派遣された騎士たちのことだ。
カルト伯爵家近隣の下級貴族と、その領地民たちとで構成されている。
<ナーデルが手を回したのか?!>
チッ… とシルトは舌を鳴らした。
「カルト騎士団の下級騎士たちの話では、ここのところ魔獣の襲撃が無かったから、大酒を飲んで泥酔してしまったとか… 下らない言い訳を聞かされたそうです」
上級騎士とは、貴族出身で魔法が仕える、アルファの騎士たちのことで…
下級騎士とは、元は農民や商人で努力して騎士になった、平民出身の魔法が使えない、ベータたちのことである。
「彼らはいまだに我々の足元を見て、恩を売っている気でいるのでしょうね」
元々カルト騎士団は、シルト率いるシュナイエン騎士団に次いで騎士の数が多く…
特に上級騎士を中心に、シュネー城塞内で幅を利かせていて、素行が悪く反抗的で問題も多い。
リヒトに害をなす者がいるとしたら、カルト騎士団の騎士だろうと、シルトは警戒している。
「本当に困りましたね、彼らも肝心の魔獣退治に参加しなければ、報酬を受け取れないでしょうに!」
忌々し気にオーベンは吐き捨てる。
「やはり… こんな理屈に合わない、愚かなことをさせるのはナーデルの仕業だろう!」
ニヤリとシルトは笑うが、空色の瞳は冷ややかだった。
見張り台から新たな幻鳥が届き… 馬の背の上でシルトは板を出して伝言を読み、眉をひそめた。
「トロールが9体だ!」
「トロール!!」
青ざめたオーベンが叫び声を上げると、他の騎士たちがざわざわと怖気づく。
トロールとは、頭は鈍いがその巨体を生かし、すさまじい怪力で敵を投げ飛ばし踏み潰す巨人族の末裔と呼ばれる魔獣である。
カルト騎士団の魔法を使えない騎士たちと、シュナイエン騎士団、近隣貴族から派遣された騎士たちを…
フリーデンが上手く組み合わせて編成し直し、小隊を9隊作り、トロール1体を1小隊で当たれるようにした。
こんな時の為に、普段は合同で鍛錬することが多く、下級騎士の方が熱心で、シュナイエン騎士団の騎士とも親しい者が多い。
「大したコト無いさ!! カルト騎士団の面倒な奴らがいないから、かえって、やりやすそうだ!! 今夜は手柄を立てる良い機会だ!! なんせ横取りする奴らがいないからな!!」
シルトが大声で叫ぶと、騎士たちの強張った顔に笑みが浮かんだ。
「そうだ!! そうだ!! 喜べ!! 今夜は手柄の立て放題だぞ―――っ!!」
一瞬でも、トロールに怯えた自分を恥じ、オーベンが叫んだ。
「今夜の働き次第で、我がシュナイエン騎士団がお前たちを正式に騎士として迎えても構わないぞ!! 当てにならない酔っ払い騎士など、クソ喰らえだ!!」
大声でシルトが叫ぶと、パッ… と、下級騎士たちの顔が輝いた。
下級騎士たちは、騎士団に人数合わせで雇われているだけであり、正式な騎士団員ではなかった。
「そのお言葉、お忘れなきように!!」
下級騎士たちが、気合いを入れて叫ぶと…
「おう!! 任せておけ!!」
力強くシルトはうけ合った。
上級騎士たちには、野蛮だと嫌われるシルトだが、不思議と下級騎士たちには好かれていた。
また重臣たちと揉めるのだろうな… と、オーベンとフリーデンは苦笑を浮かべた。
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