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49話 ナーデルとシルト シルトside

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 晩餐の席に着くと…
 恨みを込めた眼差しでリヒトを睨むナーデルの姿に、シルトはため息をついた。

 ナーデルがリヒトからシルトへと視線を移した時、ちょうど目が合い…
 シルトはこの上ない程、冷ややかにナーデルを見つめた。

<私は王都へ行く前に、はっきりとお前を妻には出来ないと伝えたのを、もう忘れたのか?! ナーデル!!>

 リヒトを睨み付けるのに夢中だったナーデルが… ようやくシルトの怒りに気付き、顔を強張らせた。

<ナーデル… お前は2度、私を捨てた>




 2人が初めて会ったのは、王都の学園に2歳下のナーデルが入学した時だった。


『シルト様、お初にお目に掛かります! カルト伯爵家の次男ナーデルです、以後お見知り置きを!』

 学園の端にある静かな東屋で、昼寝をしていたシルトに会いに来たナーデルは…
 シルトに見つめられたとたん、可憐に頬を染め優雅にお辞儀をし、動揺を隠した。

『ああ、話は聞いている… 北方出身の者は、特に田舎者だとバカにされることが多い、困ったことがあれば、オレに言えよ!』

『あ… ありがとうございます! シルト様!』

『ああ、そういう堅苦しいのは嫌いだから、オレのことはシルトと呼べ… ナーデル!』

『はい!』 


 当時ナーデルには婚約者がいたが、魔獣退治で命を落としてしまい…
 婚約者を無くし悲観に暮れるナーデルを、シルトが慰めるうちに… 2人は心を通わせ、恋人となった。

 年上のシルトが先に学園を卒業する時に、2人は秘密の約束を交わした。

『オレは次男だから家督は継げない… 出来るだけ魔獣退治で手柄をたてないと、お前の父上… カルト伯爵に相手にもされないだろう』

『シルト様』

『必ず迎えに行くから、待っていてくれナーデル! お前が2年後に学園を卒業するまでには、絶対に成り上がって見せるから!!』 


 約束の2年後、ナーデルはシルトを待たず、兄のゾネと婚約した。


『ナーデル! オレとの約束を忘れたのか?!』
 シュネー城塞で開かれた婚約式の日に、シルトが問い詰めると…
 腕を掴まれたのを嫌がり、ナーデルはシルトの手を振り払った。

『アナタが2年も待たせるから、悪いのです!』

『そう、約束したはずだ!!』

『その2年の間に、アナタは1度も会いに来て下さらなかった!! 私は顔を忘れそうでした… いいえ、忘れていました!!』
 呆然とするシルトに、ナーデルは恋人に対して怠慢たいまんだったと、容赦なく責めた。

『代わりに手紙を、出していただろう?! シュネー城塞と王都の学園はあまりにも遠い… 何か用事でもない限り、オレは城塞から離れることさえ許されなかった! 仕方ないだろう?!』

 ナーデルとの約束通り、シルトは学園を卒業してから、強い魔力と類まれなる剣の腕で、着々と魔獣退治で戦果をあげ、騎士として名声を得始めていた。

 辺境伯である父はシルトのような有能な騎士を、簡単にシュネー城塞から離れさせる訳には行かないと…
 友人に会いに王都へ行きたい… とシルトが願い出ても、父親に退けられていた。

『少しばかり、手柄を立てたからと… まだまだ若輩者のお前に、そんな我がままは許されない、兄ゾネの右腕となれるよう、今は騎士の腕を磨け!!』



 父には逆らえず…



 その頃、頻繁ひんぱんに王都へ出かけていた、兄ゾネの代わりに、シルトは必死で魔獣と戦った。








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