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42話 シルトの家族3

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 隣に立つリヒトを見下ろし、シルトは素早く額にキスを落とすと…


「…っ!!!」
 すきをつかれて人前でシルトにキスをされたリヒトは、口をパクパクする。

「母上、そういうことですから、リヒトの身の回りのものを簡単に揃えてやって下さい」

 動揺を隠せず、まだ口をパクパクとしている生真面目なリヒトが、正気を取り戻して説教を始める前に…
 シルトは母フォーゲルに向かって、リヒトの背中を押して預けた。

「ええ、この子のことは任せて下さい」
 クスクスと笑いながら、シルトの母フォーゲルは滅多に見られない、とろけそうな甘い顔で、恋人を可愛がる息子の姿に…
 嬉しそうな笑みを浮かべ、リヒトの世話を快く引き受けた。

「フリーデン、私が不在の間の報告を頼む!」
 
「は… はい、シルト様! 報告書は全て、執務室の方へ、用意してあります!」

「オーベンも来てくれ、皆ご苦労であった!」

「はい」


 側近たちを引き連れて、シルトはリヒトを残し廊下の奥へと歩いて行ってしまい…
 玄関ホールに集まっていた騎士たちは、ざわざわと解散した。 

「ナーデル、使用人たちに晩餐ばんさんの人数が増えると伝えて、台所の様子を見てきておくれ」

「は… はい、お義母様…」
 不機嫌そうな顔でナーデルはもう1度リヒトをキッ… と睨むと… シルトとは反対側の廊下へ歩き去った。

「申し訳ありません奥方様、少しだけリヒト様と、お話をさせて下さい」
 神官長のシュピーゲルが、フォーゲルに丁寧なお辞儀をしてから口を開く。

「私は構いませんよ、神官長」
 信心深いフォーゲルはニッコリ笑った。

 神殿と城主館が隣り同士ということもあり、2人は普段から親しい友人関係にある。


「リヒト様は、何時から神殿へ来られますか?」

「あっ… はい、シュピーゲル様! 私は明日の朝から始めたいと思っております」

「それは有難い!! あと、シルト様が戻り次第、行う予定だった祭祀なのですが、リヒト様にも、ぜひ参加して欲しいのです!」


「シルト様のお許しが出たら、喜んで参加させて頂きます!!」
 ニコニコとリヒトは、シュピーゲルの提案を受け入れた。

「おやおや、若いのにリヒトは偉いね! 同じ年頃の子たちは朝からの祭祀をみんな嫌がるのに」
 細いリヒトの肩を小さな子供を相手にするように、フォーゲルは褒めて撫でた。

「苦しい時ほど、朝の祈りが心に深くみるのです… だから私は、子供の頃から大好きでした」
 悩みを気軽に打ち明けられる、親しい友人がいなかったリヒトは… 子供の頃から神殿で女神と対話するように、祈ることで癒しを得ていた。

 あまりにも浮世離れした、リヒトの特異な生活に… シュピーゲルとフォーゲルは一瞬、何とも言えない複雑そうな顔をする。


「さぁ話が決まったら色々と用意しないとね、まずはもっと暖かい服だ!! こんな綺麗な子に服を選ぶなんて、腕が鳴るね!!」



 パンッと両掌を打ち合わせて…


 嬉々としてフォーゲルは、リヒトの手をにぎった。








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