上 下
43 / 178

41話 シルトの家族2

しおりを挟む


「顔を上げろリヒト! 何も罪を犯して無いのなら、2度と顔を伏せるな!!」


 思わずシルトの顔を見上げ、リヒトは奴隷の身分の自分に、そんなことさせてはいけない! と言いそうになった。

 だが、シルトの真剣な顔を見つめるうちに…
<ああ、私の立場を少しでも良くしようと… シルト様は私は無罪だと、臣下たちに伝えたいのだ!!>

 フッ… と、リヒトの強張った顔に、笑みがこぼれた。
<本当に、人を相手にするのは、難しい!>

 シルトの母フォーゲルとナーデルに礼儀正しく一礼し… リヒトは顔を真っ直ぐ上げて、微笑んだ。 

「今は絶縁しておりますが、プファオ公爵家の長男リヒトと申します… 精一杯シルト様にお仕えしたいと思います、以後お見知り置き下さい」
 顔を上げて、ピシッ… と真っ直ぐ立つリヒトを、シルトはニヤリと笑って見下ろした。

「リヒトの"元婚約者殿" は、婚約破棄をしたその場で、ふしだらな男爵令息と婚約したそうだ! それを聞いてどう思う母上?」
 王太子をあえて"元婚約者殿" と呼び… 王太子でなければ、ただの浮気男なのだとシルトはさげすんだ。

「まぁ…っ!! 私ならそんな"元婚約者" は、3本目の足を引き千切って、広場にぶら下げているよ!!」
 母フォーゲルは獰猛どうもうに笑った。

「義兄上は、どう思う?」

「さぁ、私は恐れ多くて、考えたこともありません!」
 話をシルトにふられてナーデルは… フンッ… と不機嫌そうに鼻を鳴らし、リヒトを睨みつけた。

「・・・・・・」
<この人は、シルト様のことが好きなのかな?!>
 マジマジとリヒトは、視線を逸らしたナーデルを観察した。

「母上、リヒトを私の従者にする! 当然、魔獣退治にも同行させ、騎士と同じ扱いをします」
 リヒトの腰を引き寄せて、シルトはジッ… と目を合わせて…
 絶対に口答えするなよ? とシルトは目で語り、リヒトは素直にうなずいた。


<言いたいことや、聞きたいことはあるけれど、オーベン殿の助言通り、シルト様に恥をかかせてはイケナイ>
 妃教育では王妃の威厳いげんを保つことを中心に、礼儀作法を学んできたけれど…
 これからリヒトはシルトの威厳を守る作法を、考えなければならないのだ。

「何ですって?! シルト、この子はオメガではありませんか?! 魔獣退治をさせるなんて…」
 流石に慌てる、母フォーゲルに…

「リヒトとは魔力交換で、確認済みです! 恐らくここにいる騎士たちの中で、1番魔力も強いですよ」
 ケロリとシルトは言った。

「魔力交換ですって?!」
 甲高い声で、ナーデルが叫んだ。


 魔力交換は新婚夫婦が、初夜に行う共同作業である。

 初めての発情期で、魔力交換をシルトとした時の状況を思い出し…
 リヒトは動揺して真っ赤になり叫び出しそうになるが、顔を伏せて何とかこらえて、視線をあちら、こちらへと泳がせた。

<シシシシシシッ… シルト様―――ッ!!!! 何てコトを!!>


「それと毎晩、私の冷たいベッドも、温めてもらうつもりです!」
 満面の笑みを浮かべるシルトに、母フォーゲルはついに吹き出した。

「・・・っ」
 涙目のリヒト。

 ヒソヒソと話す臣下たちを、シルトは振り返って…


「奴隷に落とされたとはいえ、魔獣退治に参加させる為にリヒトの魔法は封じていない! 死にたくなければ、私の可愛い恋人に手を出そうなどとは思うなよ?」




 しっかりと釘を刺した。







しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈 
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

処理中です...