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41話 シルトの家族2
しおりを挟む「顔を上げろリヒト! 何も罪を犯して無いのなら、2度と顔を伏せるな!!」
思わずシルトの顔を見上げ、リヒトは奴隷の身分の自分に、そんなことさせてはいけない! と言いそうになった。
だが、シルトの真剣な顔を見つめるうちに…
<ああ、私の立場を少しでも良くしようと… シルト様は私は無罪だと、臣下たちに伝えたいのだ!!>
フッ… と、リヒトの強張った顔に、笑みがこぼれた。
<本当に、人を相手にするのは、難しい!>
シルトの母フォーゲルとナーデルに礼儀正しく一礼し… リヒトは顔を真っ直ぐ上げて、微笑んだ。
「今は絶縁しておりますが、プファオ公爵家の長男リヒトと申します… 精一杯シルト様にお仕えしたいと思います、以後お見知り置き下さい」
顔を上げて、ピシッ… と真っ直ぐ立つリヒトを、シルトはニヤリと笑って見下ろした。
「リヒトの"元婚約者殿" は、婚約破棄をしたその場で、ふしだらな男爵令息と婚約したそうだ! それを聞いてどう思う母上?」
王太子をあえて"元婚約者殿" と呼び… 王太子でなければ、ただの浮気男なのだとシルトは蔑んだ。
「まぁ…っ!! 私ならそんな"元婚約者" は、3本目の足を引き千切って、広場にぶら下げているよ!!」
母フォーゲルは獰猛に笑った。
「義兄上は、どう思う?」
「さぁ、私は恐れ多くて、考えたこともありません!」
話をシルトにふられてナーデルは… フンッ… と不機嫌そうに鼻を鳴らし、リヒトを睨みつけた。
「・・・・・・」
<この人は、シルト様のことが好きなのかな?!>
マジマジとリヒトは、視線を逸らしたナーデルを観察した。
「母上、リヒトを私の従者にする! 当然、魔獣退治にも同行させ、騎士と同じ扱いをします」
リヒトの腰を引き寄せて、シルトはジッ… と目を合わせて…
絶対に口答えするなよ? とシルトは目で語り、リヒトは素直にうなずいた。
<言いたいことや、聞きたいことはあるけれど、オーベン殿の助言通り、シルト様に恥をかかせてはイケナイ>
妃教育では王妃の威厳を保つことを中心に、礼儀作法を学んできたけれど…
これからリヒトはシルトの威厳を守る作法を、考えなければならないのだ。
「何ですって?! シルト、この子はオメガではありませんか?! 魔獣退治をさせるなんて…」
流石に慌てる、母フォーゲルに…
「リヒトとは魔力交換で、確認済みです! 恐らくここにいる騎士たちの中で、1番魔力も強いですよ」
ケロリとシルトは言った。
「魔力交換ですって?!」
甲高い声で、ナーデルが叫んだ。
魔力交換は新婚夫婦が、初夜に行う共同作業である。
初めての発情期で、魔力交換をシルトとした時の状況を思い出し…
リヒトは動揺して真っ赤になり叫び出しそうになるが、顔を伏せて何とかこらえて、視線をあちら、こちらへと泳がせた。
<シシシシシシッ… シルト様―――ッ!!!! 何てコトを!!>
「それと毎晩、私の冷たいベッドも、温めてもらうつもりです!」
満面の笑みを浮かべるシルトに、母フォーゲルはついに吹き出した。
「・・・っ」
涙目のリヒト。
ヒソヒソと話す臣下たちを、シルトは振り返って…
「奴隷に落とされたとはいえ、魔獣退治に参加させる為にリヒトの魔法は封じていない! 死にたくなければ、私の可愛い恋人に手を出そうなどとは思うなよ?」
しっかりと釘を刺した。
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