辺境に捨てられた花の公爵令息

39話 秩序

　城主館の玄関前まで来ると、リヒトは暴れてシルトの腕から逃げ出した。

　シルトのマントを脱ぐと、持ち主の肩へ着せ掛けて…　リヒトは護衛騎士たちの最後尾に付く。


「おい、リヒト！　何をしているんだ？！」
　逃げ出されて、イライラと後を追い…　シルトは護衛騎士たちの後ろに回り、リヒトの前に立つ。

「私は奴隷の身分ですから、騎士様方の後ろに付くのは当然です」
　生真面目に、正論をこねるリヒトに、シルトは増々イライラとする。

「私が許す、お前は私の隣に居ろ！」
　細い腕をギュッ…　とにぎり、シルトはリヒトに命令するが…

「辺境伯のシルト様が、自らそのように秩序を乱すような事をしてはいけません！　私は忠臣として進言します」
　自分の腕をにぎるシルトの手を外して、リヒトは厳しい態度で命令を拒否した。

「…リヒト、お前！」
　大きなため息をつき、シルトは額を抑えた。


　ブフッ…！　と、吹き出したノイは…　その場に居る騎士たちの中で１番若く序列も低い為に、リヒトのスグ前に立っていた。


「シルト様…　リヒト殿の言い分の方が、正しいように聞こえますが？」
　シルトに付いて来たオーベンが口添えすると、リヒトは当然だと…　ウンッ…　ウンッ…　と大きくうなずく。

「うっ…　オーベンお前もか！」
　ジロリとオーベンを睨むシルト。

「ですが…　リヒト殿も主に恥をかかせるような、忠言の仕方をしてはいけませんよ？」
　自分を睨むシルトを無視して、オーベンはリヒトを諭した。

「ああっ！！　これは申し訳ありません、私が浅はかでした！！　どうか、お許しを！！」
　ひざまずき深々と頭を下げるリヒトに、渋い顔でシルトはオーベンを睨んだ。

　ブフフッ…！　再びノイが吹き出した。

　何度目かの大きなため息をつき、シルトが折れてそのまま玄関ホールへ向かう。


「さぁ、リヒト殿もそれぐらいにして…　中へ入りましょう、ここは冷えますから！」
　細い腕を引っ張り上げ、オーベンがリヒトを立たせると…

「そうですよ、リヒト殿！　いつまでも落ち込んでいるような臣下は、使い物になりませんからね！！」
　ポンッ…　ポンッ…　と、ノイはリヒトの背中を気安く叩く。

「はい、お２人の助言は、肝に銘じます！」
　どこまでも生真面目な返答に、ノイとオーベンは苦笑し…　ションボリするリヒトと一緒に、玄関ホールへ入った。


　そこで思わぬ光景が、３人の視界に飛び込んで来る。

　典型的北方美人のオメガ男性が、シルトに抱き着いていたのだ。


　スラリと背が高く、腰まで伸ばした銀の髪がサラサラと揺れ、珍しい青みがかったアメジストの瞳が、キラキラと輝きうっとりとシルトを見つめていた。



　あばら骨の内側でリヒトの心臓が、ドクッ…！　ドクッ…！　ドクッ…！　と、不穏に跳ねた。