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37話 神官長シュピーゲル

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 オレンジ色の明かりを灯した神殿の前で、ひざまずくリヒトの肩に、ヒラヒラと雪が舞い落ちる。

 
 ゆっくりと赤金色の瞳を開き、女神への挨拶を無事に終え… ため息をつき、リヒトはフッ… と微笑んだ。


「挨拶は済んだか?」
 隣からリヒトと同じように、ひざまずいたシルトが声を掛けた。

「はい、シルト様」
 ニッコリと笑い、リヒトがシルトを見上げた時… 自分の肩にシルトのマントが掛けられていることに気付いた。

「あっ… マント!?」

「シルト様は先程から、アナタが凍えそうだと、心配していたのですよ」
 シルトとは反対側の隣から、ひざまずいた神官が穏やかにリヒトの疑問に答えた。

「…ああっ!!」
 見覚えのある、懐かしい神官の顔に、リヒトは小さな叫び声を上げた、

「お久しぶりですリヒト様、相変わらず祈りに集中されると、何も聞こえなくなるのですね?」

「シュピーゲル様?!」

「立派になられましたね、リヒト様」

「まさかこちらで、シュピーゲル様とお会いするとは… 思いませんでした!」 
 懐かしい笑顔を向けられ、リヒトは思わず涙がこぼれそうになった。

 妃教育に入るまで、長い時間を、神殿で過ごしていたリヒトには… 神官たちは第2の家族と言っても良いほど、親しく近い人たちであった。

<処刑場を出てからずっと父上に捨てられ、北方へ流刑にされたと思っていたけれど… そんな風に思ってはいけないのかも知れない… だって、そんな考え方は、この極北を守り暮す人たちに、この上なく無礼になるのではない?>

 自分の隣でひざまずいていたシルトが… すっかり冷えてしまったリヒトの手を、大きな手で包み込み温めようとゴシゴシこすった。

「シルト様…」

「さぁリヒト、そろそろ立て! このまま座り続けたら、病気になってしまうぞ?」
 焦れたシルトが、リヒトの腕を引っ張り上げ、強引に立たせた。

「あっ… シルト様のマント?!」
 肩に掛けたマントを返そうと、リヒトが脱ぎかけると…

「良いからそのまま羽織っておけ! お前にはもっと暖かい服を用意しないとな」
 リヒトが脱ごうとしたマントを、シルトは丁寧に冷えた細い肩に掛け直す。

「シルト様の言うことは聞いた方が良いですよ、北方では国王陛下よりも偉い人ですからね!」
 可笑しそうに笑い、サラリと神官長シュピーゲルが大胆な発言をする。

「神官長、それは王家に対して不敬だぞ?」
 ニヤリと笑うシルトに、リヒトも吹き出してしまう。

「私が仕えるのは、王家では無く、女神様にですから」
 自分の胸に手を当て、堂々と神官長シュピーゲルは言い切った。


「私も王太子殿下が即位したら、そう思うことでしょう」

 生真面目なリヒトにしては、珍しく冗談を言った。







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