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34話 シュネー城塞
しおりを挟む雪でおおわれた純白の世界に立つ、シュネー城塞がようやく見えた頃…
太陽が沈み気温が一気に下がりだし、北方に慣れていないリヒトはオーベンたちの用意した防寒用のマントで身体を包んでいるのにも関わらず、寒さで震えていた。
<この寒さに、早く慣れなければ… ここでは生きて行けない!!>
「もう少しの辛抱だ、リヒト」
シルトは自分のマントの内側にリヒトを入れ、馬の手綱をつかんだ。
「あ… はい…」
暖かいシルトのマントの中で、リヒトはホッ… とため息をついた。
騎士たちの視線を感じたが、今は羞恥を何とかするよりも、温かい方が良い。
「やはりこの寒さも… 魔窟の森の影響が、あるのでしょうか?」
先を急ぐ、馬の蹄の音に負けないよう…
リヒトは顔をなるべく回して、シルトの耳に声が届くようにたずねた。
まだ太陽が、出ていたのもあるが…
アルテーリエ大河の船着き場に到着した時は、ここまで寒くは無かった。
「そうだ! シュネー城塞がこの国の最北端に位置するといっても、馬で半日の距離でこうも気候が違うこと自体、ありえないからな」
シルトも少しかがんで声が良く聞こえるように、リヒトの耳元で答えた。
船着き場近くには村があり、遠くからだがリヒトにも農地が広がっているのが見え…
王都近くとあまり変わらない景色だという印象だった。
何より雪が無く、道端には青々とした草が生え、のんびりと牛たちが草を食んでいた。
だが魔窟の森に近づくにつれ、気温が下がり、青々と草の生えた道は…
雪が積もった真っ白な世界へ、ガラリと景色が変わったのだ。
シュネー城塞へ入り、リヒトは興味津々で城壁の内側に住む人々をながめながら…
「シルト様、神殿に行きたいのですが… どちらにあるのでしょうか?」
再び首を回してリヒトがたずねると…
「今、向かっている城主館の隣にある」
シルトもかがんで、リヒトの耳元で答えた。
「あ… あの、先に寄っても良いでしょうか? 女神様に御挨拶をしたいのです」
女神に選ばれた者として…
到着の挨拶を最初に女神へするのは、リヒトにとって当然のことだった。
「ああ、構わない」
「ありがとうございます」
安心したように、リヒトは微笑んだ。
かがんだついでにシルトは寒さで赤くなったリヒトの耳にキスを落とし…
城主館を指差した。
「ほら、あそこだ!」
「あっ!!」
<ううう―――――っ!! シルト様ったら… ずっとこの調子で、隙をついてキスを仕掛けて来るしっ!>
耳を刺激され、発情までは至らなくても、リヒトはドキリと心臓を跳ねさせた。
チラチラッ… と周りを走る護衛騎士たちを見て…
リヒトが耳にキスされた場面を、誰にも見られていないと確認し、ホッ… と、胸を撫で下ろした。
<こんなにシルト様が、ドスケベだなんて、予想外だったなぁ…>
王太子が相手の時とは違い、不思議と嫌悪感を感じることも無く…
ポッ… と、寒さ以外の理由で、リヒトは頬を赤くする。
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