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33話 北方の船着き場
しおりを挟むアルテーリエ大河の下流にある、北方のシュナイエン領に到着し、船から下りると…
魔獣の襲撃に備え、シュネー城塞から数人の護衛騎士たちが、シルト一行を船着き場まで、迎えに来ていた。
「お帰りなさいませ、シルト様」
魔獣退治の最前線である北部に入った以上、船に乗るまでの旅とは違い、格段に危険が増すからだ。
ここ数年で、魔窟の森が少しづつ広がり、北部を荒らす魔獣の数も増加していて、王都への魔獣の侵入も時間の問題だった。
魔窟の森がある、南方と東方の辺境でも同じ状況で…
女神の強い加護もあり、魔窟の森の規模が小さい王都がある西方地域だけが、ほとんど魔獣被害を受けていない。
「何か変わったことは無いか?」
出迎えた臣下たちの顔を見ると、シルトは開口一番でたずねた。
「昨日、小さな群れに襲撃されましたが、死傷者は1人も無く、目立った被害はありませんでした」
たずねられた騎士も、軽く目礼しただけで挨拶を終えシルトに報告する。
「そうか、出迎えご苦労だった!」
鷹揚にうなずくとシルトは、報告をした騎士の肩を叩き、リヒトを呼んだ。
「リヒト、馬に乗れ!」
「は… はい!」
シルトに呼ばれ、出迎えの騎士たちにジロジロと観察されながら…
慌ててリヒトは鐙に足を掛け、体高の高い馬によじ登るように乗ろうとする。
下からシルトの大きな手で、リヒトはお尻を持ち上げられ…
「あ… ありがとうございます」
<ううっ… シルト様! 手伝ってくれるのはありがたいけど… 恥かしいです!!>
頬がカッ… と熱くなり、リヒトの顔は真っ赤に染まった。
クックック… と騎士たちの間から忍び笑いをもらす声が聞こえ…
「//////////…っ」
リヒトは顔だけでは無く、身体まで熱くなり… 馬の首に置いた細い手が真っ赤に染まる。
プファオ公爵家の厩舎にいるリヒトの愛馬のように、スラリとした見栄えが良い馬とは違い…
馬体は全体的に、ゴロンと太く大きく、たくましくて筋肉質、そしてとても体毛が長い。
極寒の北方に適応した、体力のある大きな馬で、リヒトが乗るにはやや大き過ぎた。
<馬にも1人で乗れないなんて… さぞ、騎士たちには、おかしく見えたのだろう>
高い馬の背に乗ってからも、騎士たちの視線を感じ… 沈み込むようにリヒトは下を向き1人落ち込む。
羞恥を感じて、うつむいていたリヒトは気付かなかったが…
迎えに来た騎士たちは、北方では見たことの無い孔雀色の艶やかな髪と、リヒトの端麗な容姿に見惚れていたのだ。
熱い視線に気づいたシルトは独占欲をあらわに、騎士たちを睨みつけ…
故意にリヒトのお尻に触れて持ち上げて乗せ、騎乗してからはリヒトを背後から拘束するように抱き締め、手綱をつかんだ。
「シルト様…」
出迎えた騎士たちはリヒトではなく、初めて見る主君の態度に、忍び笑いをもらしていたのだ。
「グズグズ、するな! 日が暮れる前に、さっさと帰るぞ!」
薄っすらと頬を染めた不機嫌な顔で、シルトは臣下たちを怒鳴りつける。
夜の方が魔獣の動きも活発になる為、照れ隠しの言い訳ではあるが… シルトの主張は、間違ってはいなかった。
船着き場から、魔獣退治の最前線である、シルトの居城シュネー城塞までは…
馬で走って半日の距離にある。
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