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32話 アルテーリエ大河2
しおりを挟む「我々の他にアルファは船長と航海長、それと乗客の中に2人、あとはベータですね」
船長と航海長は職務上、魔法を使用することが多く、貴族の家を継げない3男4男のアルファが就くことが多い。
「3人か… まぁそんなところか、リヒトに接触しないよう、注意してくれ」
シルトは自分の顎を撫でながら、オーベンの報告を聞く。
「それにしてもリヒト殿は、オメガ用の抑制リング無しで自前の魔法を常時発動して、体内から発情を抑えるなんて… 流石、妃候補と言いますか… 常人離れしていますね!」
オメガ用の抑制リングは、発情の抑制と、アルファのフェロモンを通さない膜でおおう、2つの効果がある魔法を組み込んであるため…
アルファ用に比べて、高度で高価な魔道具となる。
ただし、性奴隷紋付きのリヒトの場合、リングを付けても発情抑制効果は無効となってしまう。
…だが、リヒト自身が放つオメガ・フェロモンの拡散を防ぎ、アルファ・フェロモンの影響を受ける心配は、無くなり、負担が多少減るのは確かであった。
「リヒトの腕に似合う、美しいリングを早く用意してやらないと、危なくて目が離せないな!」
優雅な姿で船尾に立つリヒトを、シルトとオーベンは2人でながめながら、眉間にシワを寄せる。
抑制剤を服用していても、リヒトの身体から放たれる微量のフェロモンの影響を、誰かに与えたくないという配慮から、風下になる船尾に立ち…
護衛のノイと共に、リヒトはアルテーリエ大河の流れを熱心に見つめていた。
「シルト様、今日は北方に向けて良い風が吹いているから、魔法を使わなくても早く着きそうだと、船長からの伝言です」
のしのしと、巨体の臣下フェルゼンが、オーベンの隣に立つ。
2メートル超えのシルトよりも、更に頭1つ分大きなフェルゼンを見上げた。
「そうか、帰ったらまた忙しくなるからな… 酒でも飲んで今のうちにゆっくり休むと良い」
2人の臣下をシルトが労うと…
「もうすでに1週間休んでいますからね、これ以上酒を飲んで休んだら贅肉が付いて太ってしまいますよ!」
苦笑するオーベンに、寡黙な大男フェルゼンもニヤリと笑った。
「ああ、そうだったな!」
そっぽを向き、シルトは頭をポリポリとかく。
「我々よりもシルト様の方が、この1週間は大忙しだったのではありませんか? 少し痩せたように見えますよ?」
チラリと、船尾に立つリヒトに、視線を送り…
オーベンは子供の頃から知っている、年下の主君をからかった。
「まったく… お前たちときたら!」
何もかも放り出して、シルトは昨日までの1週間リヒトを抱くことに夢中だった。
「たまには息抜きも良いでしょう、相手があのリヒト殿では仕方ありませんし… 発情期の彼を拒めるアルファが存在するなら、会ってみたいです」
肩をすくめて笑い、オーベンはシルトの腕を、気安く叩いた。
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