辺境に捨てられた花の公爵令息

金剛@キット

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30話 出会いと別れ

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 王都を脱出してすぐに、生まれて初めての、本格的な発情期に入り…
 ほとんどの時間をシルトの腕の中で過ごしたリヒトは、まともにシルトの臣下たちと言葉を交わし名前を知ったのは、恥ずかしながら出会ってから、すでに1週間も過ぎた頃だった。

 発情期のリヒトを全裸で部屋に閉じ込め、臣下たちに会わせようとしなかったシルトのせいである。


 シルトの熱烈な協力で、無事に発情期が治まったリヒトは…
 町でシルトの臣下たちが手に入れた服を、ありがたく受け取って着ると、リヒトは丁寧に頭を下げる。

「ありがとうございます、助かりました」
 親切にしてもらったお礼と共に、リヒトは臣下たちに数々の非礼を詫びた。

「いや、アナタの方こそ、疲れ知らずのシルト様のお相手は、大変だったでしょう?」
 一番若い騎士のノイが、気の毒そうにリヒトを労わった。

「ええっと…」
 真赤に染まる、世慣れてないリヒトに…

「おおっと… 失礼!! つい無粋なことを言ってしまいましたね!」
 頭をポリポリと掻きながら、困った顔をするノイと人の好さそうな騎士たち。

「い… いえ! 私の方こそ発情期になど、なってしまい、皆様にご迷惑をお掛けして、どうかお許し下さい!」
 慌ててリヒトは、再び騎士たちに詫びを入れた。

「シルト様はお立場があるゆえに、辛くとも我々に愚痴をこぼしたり、疲れていても慰めを受け入れることを避けておられるので、アナタにそういった役目を引き受けてもらえたら良いと、私たちは思っているのですよ」
 シルトよりも年上らしい騎士、オーベンが穏やかに語った。

「それは…」
<それは妻の役目では? …つまり、私に妻の役目をしろという意味でしょうか?>
 何と答えれば良いのか分からず、リヒトは黙りこんだ。




 医師に処方された抑制剤を飲み、リヒトが旅支度を整えていると…

 壁をすり抜けて部屋に入って来た、孔雀色に発光する魔法の鳥が、シルトの持つ魔石がはめこまれた、掌と同じぐらいの大きさの、金属製の板にフワリと舞い降りる。

 魔法の鳥は消え、孔雀色の文字が宙に浮かんだ。

 シルトは連絡用の、幻鳥を受け取ったのだ。

 北方のシュナイエン領からも、毎日シルトは幻鳥を受け取り、常に状況を把握しているらしく、今のところ魔獣の襲撃は無いと聞き、リヒトもホッと胸を撫で下ろした。


「プファオ公爵家からの、連絡ですか?」
 幻鳥の色を見て、不安そうにリヒトがたずねると…


「ああ、ウジ虫王太子が男爵の息子と婚約し、お前を北方に流刑にしたと、高らかに発表したと言う話だ…」
 王国中の人々がリヒトは婚約破棄をされたうえに、貴族籍を剥奪はくだつされ奴隷に落ちたと知ったのだ。

 無実の罪で処罰された、リヒトにとって残酷な話ではあるが、シルトは包み隠さず話した。

「そうですか…」

「公爵の話では、王都の神官たちや信心深い貴族たちが、強い反発を示しているらしい」
 どちらもリヒト個人を良く知る人たちである。

 社交界にはまだ、デビューはしていないが…
 神殿の祭祀を通して、リヒトはたくさんの貴族たちと、知り合いになっていた。

「神殿へお別れのごあいさつも無しで出て来てしまったから… 神官の皆様にはあんなにお世話になったのに… ああ… でも、奴隷紋を付けては神殿に入れないか…」


 "花の令息" の称号を与えらた者の義務で…
 国家と民の安寧あんねい五穀豊穣ごこくほうじょうを女神に祈願する祭祀に、幼い頃からリヒトは数か月に1度、神官たちと共に参加していた。



 悲し気につぶやくリヒトを抱き寄せて… シルトはトントンと、背中を叩いて慰めた。



「さてとリヒト、そろそろ出るが… 準備は出来たか?」 


「はい、シルト様」

 







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