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23話 牢獄の記憶

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 発情期の内側から身体を焼くような疼きに耐えながら、同じ姿勢で何時間も馬に揺られ…
 ようやく宿に到着し医者の診察を受けられると、ホッとしたのも束の間。

 医者が宿に来るまで、さらに何時間も掛かると聞き、リヒトの心は折れてしまった。


 質素だが清潔なベッドに、マントに包まれたまま寝かされ…
 リヒトは苦悶のうめき声を上げ続けた。

「ううっ… んんっ…」
<身体が… 熱くて! もう一瞬も耐えられない!!>
 このまま死んでしまうのではないかと思える程の苦痛に、リヒトは恐怖さえ感じていた。

「もう少しだけだリヒト… 良い子だから、もう少しだけ我慢するんだ」
 もつれてしまった背中まである孔雀色の髪を、シルトは手ぐしでときながら…
 穏やかな声でリヒトをなだめ続ける。

 部屋に湯あみ用の浴槽が運ばれ、下働きの娘たちが次々と湯と水をたす。

 テーブルの上には食事が2人分運ばれ、準備が整い娘たちが出て行くと…

「身体を洗ってやろう! 少しはサッパリするぞ、昨日からずっと不潔な牢獄に居たから、気持ちが悪かっただろう?」 

「・・・っ」
 ブルブルと震えながらリヒトは小さくうなずく。

「ううっ… シ… シルト様… 申し訳ありません…」
 包んでいたマントを開き、シルトは囚人服を全て脱がすと…
 辛そうにうめき声を上げる裸のリヒトを抱き上げ、シルトは小さな浴槽に運ぶ。

「私はお前を妻にすることを諦めて無いからな、いくらでも媚びを売るさ!」
 ニヤリと笑い、静かにリヒトを湯の中へ沈めた。

「うううっ!!! ダメですよ… シルト…様の妻には… なれません… ううっ…!」
 こんな時でも生真面目に拒否するリヒトに…
 おかしなことだが、シルトは愛しさを感じていた。

「1番、痛むのはどこだ?」
 昼間、森の中で囚人服をめくり愛撫をしていた時、シルトはリヒトの身体にあざがいくつもあることに気が付いた。

「背中と… 左腕が…っ うんんっ…!」
 発情期だけがリヒトの苦痛の原因ではなかった。


 もう1つあったが、誇り高いリヒトは隠していたのだ。


 柔らかく石鹸を塗り付けながら、大きな掌で背中を撫でるように洗い、細い背中の左側に痣が集中しているのを見て、シルトは顔をしかめた。

 石床に転がされ、右半身を下にし身体を丸め、腕で顔と頭を庇った状態で…
 リヒトは酷く蹴られたのだ。

  
 処刑の前日、捕縛され処刑場の牢獄に入れられた時…
 看守たちの前で全裸になり、囚人服に着替えることをリヒトは強要され、それを拒否した為に暴行を受けた。

 その時、強姦されそうになったが、リヒトは機転を利かせて…

『刑場に出たら、大声で叫んでやる!! お前たちに凌辱されたから、お前たちの家族全員に必ず同じ復讐をしろと!! 誇り高きプファオ公爵家を敵に回したらどうなるか!! その身で味わうが良い―――っ!!』


 追い詰められたリヒトの、苦しまぎれの脅しが…
 強姦から辛うじて逃れられた。

 どれだけ強い魔力を持ち魔法を操れても、囚人用の枷や牢獄には魔法を吸着し奪い取る仕掛けがあり…
 女神に選ばれたリヒトでさえ、手も足も出なかったのだ。



 孔雀色の髪にも石鹸を塗り、シルトは昨日からの嫌な記憶を全部、リヒトから綺麗に洗い流してやりたいと、泡を立てた。


「リヒト目を閉じろ、泡を流すぞ?」




 桶に湯を入れ、リヒトの頭から、静かに湯をかけた。







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